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第六章
#156 意識共有
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「どうもあれ以来、カーニスの様子が変なんだよね」
ブリアンテ中尉一行が無事に収監され、それに伴う家の手続きを終えマティウス様達へのお礼の通信をした後、一旦長官の実験室でお茶をした。
魔道棟にもサロンはあるが、喪中でもあるし、話の内容もおおっぴらに出来るわけでも無いから、ゴチャついているけれど長官の部屋にみんなで押し寄せた。
「“あれ以来”って…」
「君が殿下とひさびさに結界を強化しくれた後だよ」
「…は…」
俺と王子は一瞬顔を見合わせてから真っ赤になって顔を背けた。
やっぱさあ。やっぱ、開き直ったつもりで居ても、今まさにヤッてますってのが他人に丸わかりって…酷いよね。
俺が両手で顔を覆って震えて居ても、オーデュカ長官は構わず続けた。
「アレで、君の不貞が冤罪だって事が証明された。
その機を逃さずエヴォルトが議会で、もう一度一次資料を公開して再検討する場を設けるべきだと提案したんだ。
…この流れはもう、君も聞いていると思うけどね。
で、当然ながら紛糾したんだよ。それはもう大変にね。まあ、予想は出来ると思うけどね。
あ、因みに俺は議会には参加していないよ。
平民出だから貴族院議会には入れない。
ただ、記録魔石の管理は魔道庁管轄だから当然議会の様子は記録魔石経由で見ているんだ。
…まあそれはともかく、再検討が荒れたって話だけど。
何しろ、元々この国では魔族に対する差別意識が定着している。
その傾向は身分が高くなるほどに強い。
もっとも高位貴族の大多数が選民意識の強さから、基本的差別意識は異常なほど高いけどね。
つまりはアレだよ。
猛反対している連中の多くは、実際に一次資料を見ているんだよ。
見てないヤツが、君を陥れたいだけでワーワー言っているのが殆どなんじゃって思うだろ?
逆なんだよ。内容をよく見てるんだ。だから反対しているし、その動画を公開することも反対している。
つまり、そのくらい衝撃的なんだよ。
彼らにとって都合の悪い情報が含まれているんだよ。
ひとつは魔族の国が非常に良く統治されていて文化的である事。
我が国とは未だ疎遠だが、我が国とは友好国であるいくつかの国は既に普通に交易していること。
魔皇陛下が極めて紳士的である事。
そして、向こう側としては攫ってもいないラーラ姫様を、魔族が攫ったと決めつけて敵意をむき出しにされてきた事への怒りと、それを押さえ込んでいる魔皇…という構図になって居ること…」
そんな話をし出したら、ドアをノックする音がして、開けたらデュシコス様とハルエ様だった。
お二方ともやはり喪服を着用している。
もっとも、デュシコス様はいつも黒いローブを纏っているし、ハルエ様は侍女服だから、あまり普段と変わらないのだけど。
デュシコス様は「話を中断させてすまない」とオーデュカ長官、そしてこちらに向けて軽く会釈をしてから告げる。
「例の件、エヴォルトに伝えた。直ぐに騎士団を派遣するそうだ。
暫定領主に任命されたスヴォズス伯爵は、そんな事頼んでない、国内が喪中のときに騎士団の移動など有ったら領民が動揺する…とか何とか言い募っては、阻止しようとしていたようだけど、領主館内の転移ポータルから行くのだから領民には関係ないと押し切った。
それと、喪中なら有事にも対応しなくて良いとでも思ってんのか、と、少し強めに言ったら怯んで黙ったらしい。
一応、当座直ぐに招集出来る範囲の者達を最初に行かせるとのことだ。喪中だからあまり人目に触れないようにそっと招集をかけないといけないから、何回かに分けて送り込む予定。
第一陣にはオルタンスやアロンも行くらしい」
それを聞いて王子も俺もホッとした。
ブリアンテ中尉の収監に関して説明する流れで、オーデュカ長官にも辺境地帯での不穏な動きについては説明してある。
オーデュカ長官もデュシコス様の言葉を聞いて、何種類かの魔法玉を準備させておくようにしておこう、と頷いていた。
「…で、カーニス殿が…変というのは…?」
「一次資料を全部見直すという事に、非常に神経質になって居てねえ。
キディアンの方は、あくまで中立で、ダイが魔族寄りかもという疑念は持っていたらしいけれども、だからといって、議会のあの偏向的な切り貼り動画で裏切り者と断罪するのも、どうなんだとは思っていたようだったから、見直すことには積極的なんだよ。
でも、カーニスは今度はそんなキディアンのことも裏切り者呼ばわりする有様だ」
「どうしたんでしょう。カーニス様は確かにどうしても、魔族へのわだかまりは解けないようでしたが、それでも同行者としては冷静で非常に理知的だったし、ホットライン用通信魔道具を設置しきったときには、種族を越えて互いに喜び合っていた一人だったというのに」
俺は、魔族国へ同行した際のカーニス様を回想しながら呟いた。
それに。
ふと俺は、思い出した。
彼女は最初から案内役のケイノスのことは、特には差別していなかった。
極めて淡々と打ち合わせをして、同じ一行の一人として接していた。
クオーターという事だから魔族の血はかなり薄いとは言え、やはり微妙に生粋の人族とは違う気を纏っていた。それなのに、だ。
だから、後に思いのほか“魔族への差別意識”が有る人なのか、と思ったときには凄く意外に思って驚いたくらいだ。
「カーニスは、確かにラーラ姫様の熱烈な信奉者だったから、あの拉致事件以降、いつか機会があったら自分も奪還に関わりたいと希望してきたんだ。
その為に役に立ちたくて、予め冒険者ギルドやキャラバンにくっついていったりして、魔族の事を下調べしていた。
そんな中で、直に接して、魔族でも庶民層は比較的普通なのだと分かっていた様子だよ。
その分、余計に“魔王”とか“魔王軍”というものが邪悪なのだという結論に達したみたいだ。
…だけれど、実際に魔族国に行って接した魔皇も魔族国の高位貴族達も統制が取れており、しかも向こうにも言い分があった、と突きつけられて。
少し足元が揺らいだのかな」
オーデュカ長官は、自身の部下でもある彼女に思いを馳せながら呟いたが、その考えも迷いを含んで自信はなさげだった。
「以前ダイがウチに来た時に、現場に行きたいって言ってたよね。
そもそも現場がドコだったのか、ラーラ様がドコへ向かって居たのか、どこからドコへの移動で襲撃されたのかを、結構気にしていたよね。
で、俺もまあ、当時のことを色々と思い返して、あの件の記録とか見直してみたのよ。
…まず、場所はエヴィアース領。
エヴィアース領は染料の元になる実のなる低木が特産なんだけど、この当時からたまに、突発的に植物が罹る病気が流行り出す時があったんだ。
で、それを治しに行った帰り道で襲われたという流れでね。
場所で言えばこの辺り…」
オーデュカ長官は王国の地図を広げて指を差した。
エヴィアース領って、確か…。
俺が最初にお供したネルムドの森への行軍に行く途中、王子に救済を求めて領主がやってきてどうのこうのって話が有ったな。
ああ、確かに途中で宿泊したホグゾタ市から、西側の方にコースアウトしなければならない場所なんだ。
「そういえば、あの時…あのネムルドの森に行く途中で、エヴィアース領の領主がそんなような問題が起こったからと殿下に縋ってきましたが、あのあとちゃんと中央は人を送ってくれたんですか?」
「ああ、殿下も居なかったし俺がまだ本調子じゃなかったから、キディアンが土や植物系の研究をしている錬金術師と、聖女様を伴ったグループ組んで出張したみたいだ。
エヴィアースは、昔から時折この症状が出ていた記録が有るんだけど、今回、いつもと同じ対処法で解決出来なかったようなんだよ。
だから、地元の研究者や識者でも対処しきれなくて、殿下に泣きついたんだろう。
まあ、でも、何とか一応、植物の病気は沈静化出来たようだ」
「それはヨカッタですね。
で、いつ頃になったら現場に行けますかね。
現在、イエイツ辺境伯領が要警戒になって居るから、その件が片付いてからになるとは思いますが」
「この時期に、イエイツ辺境伯領に小競り合いを起こさせようという作戦の、最終目的は何なのじゃ?」
ハルエ様が訊いてきた。
「王妃様の異父弟であり、天才兵器開発者であるホスヒュー・センネル・ブリアンテ中尉の奪還だと思います」
「その者がこの魔道棟の奥に収監されたという者か…」
俺達は頷いた。
「もし、イエイツ辺境伯領に居ないと分かれば、まず真っ先に、ここ王都のこちらを目指すじゃろうのう」
「王都にはどこよりも強固に、幾重にも結界が張り巡らされていますので」
王子が言うと、ハルエ様も「つい先頃更に強化もされたしな」とニヤリと笑った。
赤面して言葉を失う王子を横目にハルエ様は続けた。
「じゃが、王妃の幻惑はその幾重にも結界を張り巡らされ、しかも魔法が無効化されるエリアである国王の寝室に現れたのじゃろう?」
俺達はハッとした。
言葉を失って暫し動揺していた我々を窘めるように、師匠は言った。
「そなたらが不在の時には、このばばが見張っておこうかのう。憂いなく、ナシェガの野望を打ち据えて来るが良い」
えっ、と、俺も王子も思わず声を出してしまった。
師匠はあくまでも、ナシェガ皇国のマキスレイヤン第二皇子への復讐が本懐のはず。
シンクリレア側の見方というポジションではなかったはずだ。
だが。
「もし、そなたらの留守中に星岳の魔王ヴィンディアレムの力を借りた王妃が悪さなどしてこぬように」
ああ、そうだった。
それは現時点ではまだ仮設ではあるが、もし万が一本当に、ヴィンディアレムが既に契約を交わしている人間が王妃だとすれば、何らかの形で結界をこじ開けるかも知れない。
おそらく王都内には、王妃に力を貸すのを厭わない人間がいるだろう。
一瞬ヒヤリとした空気感になったが、それでも、ハルエ様が協力を申し出てくれたことの心強さに、皆が頭を下げた。
そんな話し合いの翌日には、イエイツ辺境伯領から、紛争勃発の知らせが届いた。
案の定、エバーゼノンの暫定領主は速報をよこさなかった。
後で聞いた話だと、オルタンス兄貴を始めとした王都からの派遣組騎士達がやいのやいの言って、暫定領主のスヴォズス伯爵を押しのけて対応したらしい。
俺達、俺と皇子とデュシコス様、ナーノ様、ホランド様は、すぐさま転移ポータルからイエイツ辺境伯領に飛んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
停滞気味でスミマセン。
やはり、長い話を畳む作業はなかなかに精神力を使うもので。
不慣れなくせにぶっ込みすぎた自分が悪いんですが。
カメ更新になっても、最後まで頑張ります。
見捨てずにお付き合いくださって居る方々には感謝しか有りません!
ブリアンテ中尉一行が無事に収監され、それに伴う家の手続きを終えマティウス様達へのお礼の通信をした後、一旦長官の実験室でお茶をした。
魔道棟にもサロンはあるが、喪中でもあるし、話の内容もおおっぴらに出来るわけでも無いから、ゴチャついているけれど長官の部屋にみんなで押し寄せた。
「“あれ以来”って…」
「君が殿下とひさびさに結界を強化しくれた後だよ」
「…は…」
俺と王子は一瞬顔を見合わせてから真っ赤になって顔を背けた。
やっぱさあ。やっぱ、開き直ったつもりで居ても、今まさにヤッてますってのが他人に丸わかりって…酷いよね。
俺が両手で顔を覆って震えて居ても、オーデュカ長官は構わず続けた。
「アレで、君の不貞が冤罪だって事が証明された。
その機を逃さずエヴォルトが議会で、もう一度一次資料を公開して再検討する場を設けるべきだと提案したんだ。
…この流れはもう、君も聞いていると思うけどね。
で、当然ながら紛糾したんだよ。それはもう大変にね。まあ、予想は出来ると思うけどね。
あ、因みに俺は議会には参加していないよ。
平民出だから貴族院議会には入れない。
ただ、記録魔石の管理は魔道庁管轄だから当然議会の様子は記録魔石経由で見ているんだ。
…まあそれはともかく、再検討が荒れたって話だけど。
何しろ、元々この国では魔族に対する差別意識が定着している。
その傾向は身分が高くなるほどに強い。
もっとも高位貴族の大多数が選民意識の強さから、基本的差別意識は異常なほど高いけどね。
つまりはアレだよ。
猛反対している連中の多くは、実際に一次資料を見ているんだよ。
見てないヤツが、君を陥れたいだけでワーワー言っているのが殆どなんじゃって思うだろ?
逆なんだよ。内容をよく見てるんだ。だから反対しているし、その動画を公開することも反対している。
つまり、そのくらい衝撃的なんだよ。
彼らにとって都合の悪い情報が含まれているんだよ。
ひとつは魔族の国が非常に良く統治されていて文化的である事。
我が国とは未だ疎遠だが、我が国とは友好国であるいくつかの国は既に普通に交易していること。
魔皇陛下が極めて紳士的である事。
そして、向こう側としては攫ってもいないラーラ姫様を、魔族が攫ったと決めつけて敵意をむき出しにされてきた事への怒りと、それを押さえ込んでいる魔皇…という構図になって居ること…」
そんな話をし出したら、ドアをノックする音がして、開けたらデュシコス様とハルエ様だった。
お二方ともやはり喪服を着用している。
もっとも、デュシコス様はいつも黒いローブを纏っているし、ハルエ様は侍女服だから、あまり普段と変わらないのだけど。
デュシコス様は「話を中断させてすまない」とオーデュカ長官、そしてこちらに向けて軽く会釈をしてから告げる。
「例の件、エヴォルトに伝えた。直ぐに騎士団を派遣するそうだ。
暫定領主に任命されたスヴォズス伯爵は、そんな事頼んでない、国内が喪中のときに騎士団の移動など有ったら領民が動揺する…とか何とか言い募っては、阻止しようとしていたようだけど、領主館内の転移ポータルから行くのだから領民には関係ないと押し切った。
それと、喪中なら有事にも対応しなくて良いとでも思ってんのか、と、少し強めに言ったら怯んで黙ったらしい。
一応、当座直ぐに招集出来る範囲の者達を最初に行かせるとのことだ。喪中だからあまり人目に触れないようにそっと招集をかけないといけないから、何回かに分けて送り込む予定。
第一陣にはオルタンスやアロンも行くらしい」
それを聞いて王子も俺もホッとした。
ブリアンテ中尉の収監に関して説明する流れで、オーデュカ長官にも辺境地帯での不穏な動きについては説明してある。
オーデュカ長官もデュシコス様の言葉を聞いて、何種類かの魔法玉を準備させておくようにしておこう、と頷いていた。
「…で、カーニス殿が…変というのは…?」
「一次資料を全部見直すという事に、非常に神経質になって居てねえ。
キディアンの方は、あくまで中立で、ダイが魔族寄りかもという疑念は持っていたらしいけれども、だからといって、議会のあの偏向的な切り貼り動画で裏切り者と断罪するのも、どうなんだとは思っていたようだったから、見直すことには積極的なんだよ。
でも、カーニスは今度はそんなキディアンのことも裏切り者呼ばわりする有様だ」
「どうしたんでしょう。カーニス様は確かにどうしても、魔族へのわだかまりは解けないようでしたが、それでも同行者としては冷静で非常に理知的だったし、ホットライン用通信魔道具を設置しきったときには、種族を越えて互いに喜び合っていた一人だったというのに」
俺は、魔族国へ同行した際のカーニス様を回想しながら呟いた。
それに。
ふと俺は、思い出した。
彼女は最初から案内役のケイノスのことは、特には差別していなかった。
極めて淡々と打ち合わせをして、同じ一行の一人として接していた。
クオーターという事だから魔族の血はかなり薄いとは言え、やはり微妙に生粋の人族とは違う気を纏っていた。それなのに、だ。
だから、後に思いのほか“魔族への差別意識”が有る人なのか、と思ったときには凄く意外に思って驚いたくらいだ。
「カーニスは、確かにラーラ姫様の熱烈な信奉者だったから、あの拉致事件以降、いつか機会があったら自分も奪還に関わりたいと希望してきたんだ。
その為に役に立ちたくて、予め冒険者ギルドやキャラバンにくっついていったりして、魔族の事を下調べしていた。
そんな中で、直に接して、魔族でも庶民層は比較的普通なのだと分かっていた様子だよ。
その分、余計に“魔王”とか“魔王軍”というものが邪悪なのだという結論に達したみたいだ。
…だけれど、実際に魔族国に行って接した魔皇も魔族国の高位貴族達も統制が取れており、しかも向こうにも言い分があった、と突きつけられて。
少し足元が揺らいだのかな」
オーデュカ長官は、自身の部下でもある彼女に思いを馳せながら呟いたが、その考えも迷いを含んで自信はなさげだった。
「以前ダイがウチに来た時に、現場に行きたいって言ってたよね。
そもそも現場がドコだったのか、ラーラ様がドコへ向かって居たのか、どこからドコへの移動で襲撃されたのかを、結構気にしていたよね。
で、俺もまあ、当時のことを色々と思い返して、あの件の記録とか見直してみたのよ。
…まず、場所はエヴィアース領。
エヴィアース領は染料の元になる実のなる低木が特産なんだけど、この当時からたまに、突発的に植物が罹る病気が流行り出す時があったんだ。
で、それを治しに行った帰り道で襲われたという流れでね。
場所で言えばこの辺り…」
オーデュカ長官は王国の地図を広げて指を差した。
エヴィアース領って、確か…。
俺が最初にお供したネルムドの森への行軍に行く途中、王子に救済を求めて領主がやってきてどうのこうのって話が有ったな。
ああ、確かに途中で宿泊したホグゾタ市から、西側の方にコースアウトしなければならない場所なんだ。
「そういえば、あの時…あのネムルドの森に行く途中で、エヴィアース領の領主がそんなような問題が起こったからと殿下に縋ってきましたが、あのあとちゃんと中央は人を送ってくれたんですか?」
「ああ、殿下も居なかったし俺がまだ本調子じゃなかったから、キディアンが土や植物系の研究をしている錬金術師と、聖女様を伴ったグループ組んで出張したみたいだ。
エヴィアースは、昔から時折この症状が出ていた記録が有るんだけど、今回、いつもと同じ対処法で解決出来なかったようなんだよ。
だから、地元の研究者や識者でも対処しきれなくて、殿下に泣きついたんだろう。
まあ、でも、何とか一応、植物の病気は沈静化出来たようだ」
「それはヨカッタですね。
で、いつ頃になったら現場に行けますかね。
現在、イエイツ辺境伯領が要警戒になって居るから、その件が片付いてからになるとは思いますが」
「この時期に、イエイツ辺境伯領に小競り合いを起こさせようという作戦の、最終目的は何なのじゃ?」
ハルエ様が訊いてきた。
「王妃様の異父弟であり、天才兵器開発者であるホスヒュー・センネル・ブリアンテ中尉の奪還だと思います」
「その者がこの魔道棟の奥に収監されたという者か…」
俺達は頷いた。
「もし、イエイツ辺境伯領に居ないと分かれば、まず真っ先に、ここ王都のこちらを目指すじゃろうのう」
「王都にはどこよりも強固に、幾重にも結界が張り巡らされていますので」
王子が言うと、ハルエ様も「つい先頃更に強化もされたしな」とニヤリと笑った。
赤面して言葉を失う王子を横目にハルエ様は続けた。
「じゃが、王妃の幻惑はその幾重にも結界を張り巡らされ、しかも魔法が無効化されるエリアである国王の寝室に現れたのじゃろう?」
俺達はハッとした。
言葉を失って暫し動揺していた我々を窘めるように、師匠は言った。
「そなたらが不在の時には、このばばが見張っておこうかのう。憂いなく、ナシェガの野望を打ち据えて来るが良い」
えっ、と、俺も王子も思わず声を出してしまった。
師匠はあくまでも、ナシェガ皇国のマキスレイヤン第二皇子への復讐が本懐のはず。
シンクリレア側の見方というポジションではなかったはずだ。
だが。
「もし、そなたらの留守中に星岳の魔王ヴィンディアレムの力を借りた王妃が悪さなどしてこぬように」
ああ、そうだった。
それは現時点ではまだ仮設ではあるが、もし万が一本当に、ヴィンディアレムが既に契約を交わしている人間が王妃だとすれば、何らかの形で結界をこじ開けるかも知れない。
おそらく王都内には、王妃に力を貸すのを厭わない人間がいるだろう。
一瞬ヒヤリとした空気感になったが、それでも、ハルエ様が協力を申し出てくれたことの心強さに、皆が頭を下げた。
そんな話し合いの翌日には、イエイツ辺境伯領から、紛争勃発の知らせが届いた。
案の定、エバーゼノンの暫定領主は速報をよこさなかった。
後で聞いた話だと、オルタンス兄貴を始めとした王都からの派遣組騎士達がやいのやいの言って、暫定領主のスヴォズス伯爵を押しのけて対応したらしい。
俺達、俺と皇子とデュシコス様、ナーノ様、ホランド様は、すぐさま転移ポータルからイエイツ辺境伯領に飛んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
停滞気味でスミマセン。
やはり、長い話を畳む作業はなかなかに精神力を使うもので。
不慣れなくせにぶっ込みすぎた自分が悪いんですが。
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