王子の宝剣

円玉

文字の大きさ
上 下
87 / 162
第四章

#87 婚約期間の同棲ではお手つきOK

しおりを挟む
 デュシコス様とコタロウ君とは近々それぞれの日程を調整して一緒にホツメル市に行こうと言う事になった。

勿論、王子も一緒に。

ただ、ホツメル市に直接は転移できない。
現在、確かにホツメル市にも仮設の転移ポータルが設置されているが、それはあくまで物資を送るためのもので、人間の転移はよほどのことがない限りは承認されない。
どちらにせよファモン市にはヤッカの話を聞くために行かなくてはいけないのだから、先ずはファモンの方に転移してから馬を借りてホツメル市に行くというのが順当なコースだろう。

それぞれの日程の調整と言っても実質俺は暫くは休暇。デュシコス様は誰の命令も受けずご自身のスケジュール管理は概ね自ら決めてしまえる。王子もほぼ同様。
だからコタロウ君次第とも言える。
・・・まあ、団長も副団長もダメは出さないと思うが。

せっかく来たのだからと、王子のお誘いで二人も夕食に同席した。
食後のティータイムでは早々にコタロウ君は騎士寮に戻る為に退席した。

デュシコス様は少しゲンデソル伯爵とアマリガル侯爵の取り調べ状況などを話すため残った。王子がちょっと席を外した隙に急にデュシコス様がひそひそ声で。
「まさかとは思うが、お前、結婚するまでシてはいけないなどと思っているわけではあるまいな」
「え、いや、当然ですよね?」
デュシコス様は眉間を押さえた。え?普通だよね?特に相手王族だし。やんごとなきお方じゃん。結婚前にヤッちゃうわけには行かないでしょう。
まあ、かなりギリギリなことしちゃっては居るけど。

「国王の名代を務める王太子殿下が公式の婚約発表の前に二人を離宮に引っ越させたのだぞ?もうとっくに公認だという事だ」
ん?だから?ポカンとした俺の顔を見て更に顔を近づける。
「王族が王城の一角に離宮を設けて婚約者と同居を許されたら、それはもう事実上いつ手を出してもOKという事だ。だが、結婚前に完全に繋がることは『一生離婚はしない、側室も極力持つつもりがない』という意思表示でもある。この場合の『極力』というのは・・・お前達には関係ないが・・・相手が女性で子が出来ない場合においては側室を置いてもやむ無しという意味だ」

えっ、何その制度!

・・・聞けばどうやら、我がシンクリレア王国ではただでさえ女性の数が少ない事から、女性の比率が下がり出生率に影響が出るレベルになると発動される貴族階級における特別な制度らしいのだけど。
・・・あ、ただし都会ほどこの傾向が強く田舎の方では定着していないところも多いらしい。
そして身分が高いほど厳格に採用されるらしい。

貴族社会では当たり前の『政略婚』によって『白い結婚』を強いられせっかく子を産める女性が産ませてもらえない状況があり、それから救済する制度でもある。
この期間に完全に繋がると言うほどで無くても、ほぼそれに準ずる程度の性的なスキンシップが全くないようならば『白い結婚』になる可能性大で、夫側が側室を持つ意思有りと言っているようなもの。あるいは既に他に親しい間柄の女性がいた場合『妻よりもそちらの方こそが本命』と暗に宣言しているとも言える。

その上で、婚姻後本当に3年同衾が無ければ妻側から離婚を切り出せる。勿論、家同士の利害が関わっているからそうは言っても切り出せない場合も多くはあるんだが。
それでも一応仮に妻の実家の方が身分が低くても3年空閨が続けば妻側から離婚が要求できる。その場合夫側はそれなりの慰謝料は渡さないといけない。
子をなすのに適した貴重な3年間を拘束したペナルティと言う事だ。

そして婚約期間同棲の間それらしいスキンシップ無しだった場合、婚姻後の3年に向け、本人や妻の実家が離婚後の相手を捜すのも黙認される。
最初から子をなす気のない男に貴重な女性の子宮を独占させておくのは国家衰退の元だという考え方。
若いうちに子をなせる可能性のある再婚を推奨した方が国のためという事だ。
それってスゲーな。さすが女神様が信仰されてるだけ有る。現実的。
まあ、女性は子を産む機械じゃない・・・という反発も受けそうではあるが、悲しいかな現実問題貴族社会という枠組みの中では紛れもなく女性に求められる最優先事項は婚家の跡取りを産むことなのだ。

この制度のおかげか、いくら政略結婚とは言え定期的に同衾することも出来ないほど嫌いな、あるいは興味を持てない相手とは婚姻を結ばない・・・逆を言えば政略結婚とは言え夫婦になった以上は好き嫌いはさておき子作りには励むのが義務!という風潮にはなっているらしい。
・・・まあそれが良いのか悪いのかは人それぞれだろうけれども。ただ、跡取りさえ産んでしまえばそこから先、夫人達の自由度は上がる。他所の男の子供を孕まない限りは恋愛も自由らしい。
ただ、婚約同棲中の間にガッツリと完全に繋がる行為をした場合は原則的に浮気はしないという意思表示であり妻にも貞淑を求めるという事らしい。
だから本当に愛しあっている婚約者同士は大抵この期間中に既成事実を作るのだ。
・・・まあ、あくまでもこの三柱女神をまつるこの国特有の制度だという話だけど。

つまりは、この制度の出発点はそういうこと。
ただ、この国では普通に同性婚が許されている。子供が云々とは関係ない同性婚の場合はどう言う意味合いになるのか。
もしこの同棲期間に一切の性的なふれあいが無かった場合。
『家同士の繋がりのために結婚するけど愛はないからお互い恋愛は自由って事にしようぜ』
・・・と言う事らしい。
勿論、愛はあるけどそういうことは結婚してから・・・という紳士もいる。その場合は常に特別なスキンシップを図るようにしないと誤解を生むかも知れないとのこと。

えーと、じゃあその風習に則ると。

・・・にわかに青ざめる俺。
ソニスの『殿下のお気持ちをくんで差し上げて。逃げてちゃダメだよ?』という言葉が脳内を旋回する。

なんで?なんでそういう肝心なことをナーノ様は教えてくれないかなあ?
言ってくれれば・・・!俺だってさぁ!
まあ、俺達がしょっちゅうしている濃厚なベロチューはその『特別なスキンシップ』に当たるから一応条件はクリアしては居るらしいのだが。

いや、でももしそういうことならあの時の王子からのアレに対しての俺の態度は・・・。

愕然としている俺の肩をポンポンと叩いてからデュシコス様は立ち上がる。
「では今夜はこれにて失礼する」

「えっ、ディコもう帰るの?こないだ貸して欲しいって言っていた本を今捜しているのだけど見つからないんだよ。もう少し待って・・・」
王子の執務室の奥にはそこそこ充実したライブラリーがある。
もともとラーラ王女様がそのまま残していったものに更に王子の蔵書も加わってしまったから現在鋭意整理中らしいのだ。
そのために席を立っておられたのか。
「いえ、それは又今度で構いません。そろそろ帰宅しないとウチの御者が空腹で倒れるかも知れないので」
デュシコス様は慌て気味の王子を窘めて笑った。そしてナーノ様とミックにお茶のお礼を告げて立ち去った。

つい数時間前まであれだけ大勢の人が訪れていた離宮に静けさが訪れて、俺は少し脱力した。
ミックに風呂の支度を頼んでから、ちょっとギクシャクしつつも王子に頭を垂れる。
「後ほど、お休み前にお部屋に伺ってもよろしいでしょうか。少しお話をしたいので」
「・・・分かりました」
王子は硬い表情で視線をそらしながら頷いた。その手はぎゅっと握られていた。

明日はオーデュカ長官が別件の用事があるから、明後日にメーゲンカルナの魔女ことハルエ様と引き合わせてくださることになる。その際にはハルエ様の主であるドリトエドール大公令嬢スフェイラ様ともご一緒だ。
侍女に与えられる屋根裏部屋が師匠の部屋というわけには行かないから便宜上居間と寝室二間続きの部屋をお二人で使っていただくことにした方が良いのではとナーノ様との話し合いではなっている。
先ずはお部屋を見てもらってご本人に決めていただきましょうという事になった。
そんな事を考えながら風呂に浸かる。
本当に王子は俺と一緒に弟子入りするのだろうか。
始めてメーゲンカルナの魔女に会ったときにはこんな事になるとは思っていなかった。
不思議なご縁だ。

風呂から上がるとミックがこざっぱりした生成りのシャツと臙脂のジレ、黒いトラウザーズを用意してくれていた。自宅という気構えのなさを見せつつ、王子と対面するのに“ラフすぎて見苦しい”とならない微妙なバランスがさすが。
髪も水分を拭き取ってくれた。
ん?いつもに比べると少し生乾きっぽくもあるけど・・・まあ、こんなもんか。
ここんところずっとハーフアップにしていたけど完全に乾いているわけではないから今は止めていない。
ずいぶん髪も伸びた気がする。

そのせいでか少し印象が変わったのか王子のお部屋に入れてもらったときに俺の髪を見て目を見開かれた。
俺が入るとサロンテーブルにお茶とすこしの菓子や果物などを置いてナーノ様は退室した。
王子私室のリビング。大理石のテーブルを挟み向かい合わせに俺のティーセットが置かれている。

「恐れながら。あちらの椅子に移動しませんか?」
窓の近くに小さなサロンテーブルを前にカウチソファが設置してある。それはつまり向かいでは無く隣に座りたいという意思表示。戸惑う王子に構わず俺は二人分の茶器を持ち上げサロンテーブルの方に運んだ。王子はおもむろに席を移動する。
王子が着席するのを待ってその御前に跪きお手を取って押し頂いた。
「王子のお心を乱したこと、常識知らずの愚かな私をどうか許してください」
「やめてください。・・・あなたが謝る事など何ひとつ無いのです。跪くのはやめて。・・・こちらに座ってください」
王子は横の座面を軽く叩く。俺は「感謝します」と一礼してそこへ腰掛ける。

苦しげな表情で床を見つめながら膝上を握りしめ「婚約を解消されるのでしょうか」と端正な横顔が震える声で切り出す。
「そんな訳ありません!・・・ああ、でもそんな不安を感じさせてしまったのですね。どのように許しを請えば良いのでしょうか」
意外そうにこちらを振り返る。目が合う。戸惑うように揺れる瞳をのぞき込む。
「私にとって、殿下は・・・とても尊くて・・・とても大切で・・・」
言いながら顔を近づける。腰に腕を回して抱き寄せる。その凹凸を確かめるように目を閉じて鼻先や額でそっと王子のお顔の表面をたどる。
最初硬直していた王子の体から次第に力が抜けていくのを感じる。
「だから・・・殿下を汚してしまったと思って・・・自分が許せなくて・・・」
王子の髪に鼻先を埋めて言葉を直に耳に吹き込むように耳元で呟くと再び王子の体に力が入って肩を竦める。波打つ銀糸の隙間からこぼれる耳たぶが薄紅に色づいている。

吸い寄せられるように首筋に顔を埋めて王子の匂いを吸い込む。痺れるような酔ったような気持ちで王子の体を掻き抱きながら首筋や顎にキスをする。最初は触れるだけの。そのうちに唇だけで食むように。
王子はくすぐったがっているように小さく身を捩る。
顎のカーブを唇で食んでいる感触が自分的に何だかツボで、何度も角度を変えたりしながら繰り返しついばんだり大きく咥えるようにしていたらそのうちに王子はふふっと吹き出してしまわれた。
「擽ったかったですか?」
「ん・・・ふふ・・・私の顎は美味しい?」
いたずらっぽく笑う。堪らなくお可愛らしい。
「はい。とても。何より食感が最高です」
そう答えると王子は可笑しくて堪らないというように口に手を添えて肩をふるわす。つられて笑ってしまう。

笑いの振動で揺れる髪に指を滑り込ませると、湯浴みの名残で王子の髪も頭皮に近い部分はほんのりと潤いが残っていた。髪の感触を味わっていると笑いが収まっていた王子の菫色の瞳が俺を見上げていた。
そう。いつの間にか俺は王子の体を押し倒していたのだ。
といっても、カウチの、クッションが効いたアームに王子を押しつける形になっているだけで完全に倒れているわけでも無いのだが。
王子の菫色の瞳は間接照明で色味を奪われていつもより透明に見える。その瞳が迷うように揺らめきながら細められ、細い指先が俺の髪に潜り込んでゆっくり引き寄せられる。

最初から舌を絡ませ合い強く吸いあう深いキスをした。何度も角度を変えて息を継ぎながら。
王子の背中を、脇を、腰をまさぐる。王子の掌も俺の背中を所在なさげに彷徨い服を握りしめたりした。
体重をかけて密着する体の移動でうっすらと堅くなり始めた部分が擦れる。
俺は王子のそこを掌で包んだ。王子の体がビクリとこわばる。
奥に手を差し入れて撫で上げるように擦る。王子の喉の奥から小さな声が漏れた。
俺の背中でジレの布地を握りしめていた指先が震えている。

窓の外にはのぞき込むような上弦の月が見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...