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第四章
#84 事後処理諸々でヘトヘト
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王子がネルムドの森の瘴気を浄化し北の山岳地帯を護った事は人づてで多くの市民も認識していた。
その論功行賞の祝賀の宴を投げ出してまでこのホツメルの異変に駆けつけたというのもどこからともなく・・・いや、多分貧民街の炊き出しのおばちゃん達の口コミだとは思うけど・・・広まっていた事もあり。
その延長で王子が倒れるほど民の為に治癒を施していた事もこの北側門だけで無く、外周全体に噂は広まっていた。
つまりはやはり王子の説得だからこそ、市民は皆従って内周内の惨状と向き合い復興に向け死体の供養や瓦礫の撤去作業など辛い体や心情を押して立ち向かう決心をしてくれた。
王子の説得の映像を見ているときには皆涙を流して、映像なのにも関わらず頭を垂れて聞き入っていた。
王子がまだ本調子では無く、具合が悪そうにも関わらず必死に説得をしている姿にも打たれたのだ。
「住み慣れた街の惨状を目の当たりにして、全てを失い、ほんの数日前まで一緒に酒を酌み交わしたり子供達の成長を見守っていた隣人に、魔賊に操られていたとはいえいきなり牙をむかれ大切な人や財産を奪われたその心も癒えていない今、皆さんに心の平穏どころか現実を突きつけ自らの手でひとつひとつを片付ける事を要求する私をどうか許して欲しい」とまで涙ながらに訴えられては・・・。ただでさえ天使の美貌なのに、それが少しやつれて弱々しくも切実に、本当に心を痛めてくれている姿を見せられ、もはや民衆も現実に立ち向かわざるを得なかった。
もっとも、続々と近隣からの騎士達も遺体の処理や供養に参加するようになった事で、それに関する市民の心の負担がずいぶんと軽減されたのは言うまでも無い。
そういえば。
色々と群衆の移動などに揉まれたり、それぞれが戻った後テントで休ませてもらったりもあり、なかなか戻ったデュシコス様やコタロウ君には会えなかったんだが。
あれから二日経ち、少しずつ外周域の混雑が改善されるようになったときに、偶然鉢合わせた。
相変わらず炊き出しのおばちゃん達は交代で活躍中で、俺は挨拶がてら様子を見に行ったんだけどそこでちゃっかりごった煮シチューを食べているデュシコス様とコタロウ君が居た。
「いやぁ~、けっこう並びましたよ。なんせ長蛇の列だったですから。各ゲートとか内周の空き地でも食事の配給は始まっているのにここに並ぶ人減らないんだもん。でも待った甲斐ありました!チョー美味いです!」
もぐもぐしながら満足げに頬張っているコタロウ君は、実はあの後ハルピュイアを仕留めてドでかい魔石をゲットしオーデュカ長官を喜ばせていたらしいのだが・・・そんな功労者なのに・・・イヤ、普通に並んだんかい!
そして、デュシコス様もコタロウ君も立派に敵を仕留めて職責を果たしているのに俺はそれが出来なかったのだと、またヘコんだ。
そんな俺の気持ちに気づいたのかデュシコス様が食べ終わった食器を傍らに置いて口許を吹いた後。
「聞いたぞ、あの時の頭目はアズトガルゴスだったらしいではないか。敵が悪すぎたのだ。お前はその名を聞いてもピンとこないくらい予備知識が無かったのだから」
「・・・い、いや、索敵鑑定でアイツが魔王の側近だったという過去があるのは見えていたんだから予備知識云々では無く、単純に俺がアイツより弱かったんですよ!
『召喚者様』なんぞと持ち上げられているけど、そう呼ばれるにふさわしくないんですよ!俺はまだそんな器じゃ無いんですよ!未熟者なんですよ!」
そんな事を考えてぐだぐだ言っていたら「でも市民達は皆お前に感謝しているのだ。とりあえず魔賊は撃退した。他にもこのシチューもそうだし、それと彼の事も・・・」
そう言ってデュシコス様はすぐ隣でガツガツシチューを食っている小柄な髭のおじさんを指し示した。
そのおじさんは・・・!
な、なんと!ドワーフのボルゴさん!じゃないか!
俺がずっと拘ってトライして貰っている、し尿をエネルギー源にした給湯システムを作っている・・・。
「え、えっ?な、なんでボルゴさんがここに?」
慌てふためく俺に腕で口を拭ったボルゴさんがゲップをしながら事態を説明してくれた。
曰く。
以前作った雛形が問題なく、と言うよりは良い感じに活用されているという事だったからもっと規模を大きくして作ってみた。
一応試運転もしてみたが問題なかった。
ちょっと前からホツメル市の情勢が緊迫しているという話は聞いていたから、仲間に声かけてひとつではなくみっつほど作って、業務用大容量魔法袋に突っ込んで持ってきた、と。
そして、この北側門もだけど、南と東の門にも組み立てて設置してきたらしい。
何しろ外周には多くの群衆がひしめき合っていたからそこから発生するし尿も馬鹿にはならない。それの処理方法があり、しかもそれが給湯システムになると言う事で、焼け出されてボロボロのドロドロに汚れた状態だった市民達にはありがたがられたらしい。
何しろこのホツメル市の外周には湿原や雪解け水を潤沢に地下水として蓄えた水源がありそれ故にあちこちに井戸が設置されている。
外周の貧民街でも水に関しては不自由が無い。その井戸から引いて、熱源が、人間がいる限り無尽蔵に供給される排泄物ならばほとんど元手がかかっていないに等しい。
排泄物をその辺に廃棄して衛生状態が最悪になる事を考えたら利用したもん勝ちだ。
幸い支援物資で古着なども続々と送られているから少しでも衛生環境の改善が図れれば拘って来た甲斐が有ったという物だ。
「ありがとうボルゴさん。ボルゴさんのおかげだよ。なんてお礼言えば良いのか」
「何言ってんだ。お前が面白え話を持ってきてくれたおかげだよ。仲間も面白がってた。・・・でもなあ、今この状況だとたった三つじゃ全然足りねえんだよな。・・・まあ、王都で仲間がどんどん作ってるからまた送って貰うようにするわ。ここの管理官達にも組み立て方教えておいたからブツが届きゃあ組み立てられんだろう」
そんじゃあ俺ぁ、またすぐに王都に戻ってもうちょっくら大きめのヤツも作ってみるわ。お前がこっちにいる間に届いたら組み立て指示してやってくれや、とふくれたお腹をさすりながら人材派遣用の仮設転移ポータルに向かうため手を振って去って行った。
そんなこんなで。
気がつけばもう一週間以上も過ぎていた。
大勢の人手で片付けられていく事で少しずつ都市部の瓦礫も撤去されどんどん更地が増え、更地には仮設の配給所や支援物資置き場、簡易的な役所や学校、仮設住宅などが設置され始めた。
俺個人は先ずはおばちゃん達への挨拶がてらまた旨味出汁作りを手伝い。
管理官が迎えに来ると領主館に行き王都から派遣された経理関係の文官を案内しながら、あの惨劇の痕跡を一掃された大広間に所狭しと並べられたゲンデソル伯爵の秘蔵の財宝を確認し目録作成するのに立ち会い。(何故俺が?とも思うがなぜか中央からお前が立ち合えとのお達しだった)
無事だった使用人からダメージを負った使用人の様子を聞き、可能ならば見舞って、中央から派遣された国家警吏達の領主代行逃亡や、魔賊出現が領主館内だったことも有り前後の館内に関する聞き込みに立ち会い。(コレも何故俺が?と思うが・・・)
残りの時間ではボルゴさんから届いた給湯システムを市民達と協力して組み立てたり、合間を縫って金肥畑の確認に行ったり、王子の元に出向いて書類の分類のお手伝いなどをした。
ことあるごとに取り逃した悔しさを思い出したが落ち込んでいる暇も無かった。
それはそうと、俺はともかく王子の状況は本当にブラックそのものだった。
領主が溜め込んでいた財宝や美術品を復興に役立てるため換金する事はもう当然なのだけどひとつひとつのお宝に関する鑑定や許可が必要で、その煩雑さが半端ない。
それらの書類は何故か全て王族であると言う理由で王子に回された。
また支援物資の分配の許可も王子に回ってくるし、近隣から送り込まれた人材の差配に関する最終決定の許可もウチの王子に回ってくる。
何しろ王族だから。しかも成人している王子なもんだから、この地に居る最も権限の有る人であって、必然的にそうなる。許可は権限の有る人から貰わないといけないのは世の常だ。
何せ、この地の領主であるゲンデソル伯爵は先だっての御前試合もどきの前後から始まったかねてよりの不正摘発で捜査対象となっている。失脚は免れないうえ、領主代行がトンズラしている事から現在ここの領地に領主はいないのだ。
それゆえ様々な裁量は王太子の代理として自動的に王子に委ねられる事になってしまっている状態だ。
最初の頃はセルフヒールなどをかけていた王子だったがそのうちポーションを飲みながら仕事を捌いているお姿はまるで締め切り前の漫画家のようで(あくまでイメージ!)どうにも痛々しかった。
で、日数が進む間にはそれぞれの責任者を決めて判断を回したはずなのに伝達が巧くいってない奴らが当たり前のように王子のところに来る。
「いや、だからぁ~、これはぁ~、○○さんのところにぃ~・・・」などというナーノ様や補佐役の管理官達の言葉が5分おきに繰り返される有様だ。
さすがに働きづめで、しかもついつい無理をしてしまう王子を慮ってナーノ様が「殿下はこちらの領主ではないのです。全てを丸投げしてくるのはやめてください。もう限界です。休養を取っていただくべきです。そろそろ王都にお戻しくださいませんか」と中央に要請した。
団長の配慮でオーデュカ長官やデュシコス様、コタロウ君は既に王都に戻っている。
とりあえず、治癒にしても都市部の瓦礫撤去にしても支援物資の分配にしても、市民の身元確認にしても、近隣からの人材に対する命令系統がある程度は目処が立ってきていた事で、団長も「そろそろ仕方ねえな」と、頷く事になる。
因みに団長は近隣から派遣されてきた所属がバラバラの騎士達をずっと纏めていた。この人ももうずっとろくに眠っていない。
仮に王子達一行・・・俺も含む・・・を王都に帰した後でも団長だけはまだ暫く残るらしい。
ナーノ様の要請を受け、そもそも当初から王子を心配していた王太子も宰相も同意し、中央でもあれこれ調整して最終的には宰相補佐官が優秀な文官を選りすぐって送り込まれる事となった。
それと入れ違いに我々は王都に戻る。
俺は炊き出しのおばちゃん達への労いとお礼を言い、男衆に後を託して別れを告げた。
最後に一度領主館に赴くと、日常的なことは問題なくこなせるようになったクリオン君が護衛騎士と共に見送りに出てきてくれた。
ミリアと呼ばれていたあのメイドの少女始め何人かは肉体的にもだが更に精神的なダメージが酷く、ファモン市の療養所に送られていった。
別れ際にクリオン君が何か言いたげだったのが少し気になったけど、ずいぶん顔色も良くなって窶れ気味ではあるものの相変わらずの美貌で微笑まれ、本気で頑張って欲しいと願わずにはいられなかった。
王都に戻ると強制的に休暇を言い渡された。
「絶対騎士団の訓練には出てくるなよ」と団長には厳命された。
コレまでの俺ならそれでも構わず訓練場に出向こうとしたかもしれないが、今回はまず真っ直ぐに魔道棟に向かった。
オーデュカ長官にちらと訊ねていたメーゲンカルナの魔女にアクセスする方法のためだ。
オーデュカ長官の執務室と言う名のガラクタ置き場・・・もとい研究室にノックして入ると
そのガラクタの中に埋もれ気味な客人用ソファに黒いストールを頭からかぶった老婆が腰掛けている姿があった。
えっ?
いきなり御大ご登場?
俺は連絡の取り方を教えてくれって言っただけなのに?
いったいどういう魔法を使ったの?オーデュカ長官!!
その論功行賞の祝賀の宴を投げ出してまでこのホツメルの異変に駆けつけたというのもどこからともなく・・・いや、多分貧民街の炊き出しのおばちゃん達の口コミだとは思うけど・・・広まっていた事もあり。
その延長で王子が倒れるほど民の為に治癒を施していた事もこの北側門だけで無く、外周全体に噂は広まっていた。
つまりはやはり王子の説得だからこそ、市民は皆従って内周内の惨状と向き合い復興に向け死体の供養や瓦礫の撤去作業など辛い体や心情を押して立ち向かう決心をしてくれた。
王子の説得の映像を見ているときには皆涙を流して、映像なのにも関わらず頭を垂れて聞き入っていた。
王子がまだ本調子では無く、具合が悪そうにも関わらず必死に説得をしている姿にも打たれたのだ。
「住み慣れた街の惨状を目の当たりにして、全てを失い、ほんの数日前まで一緒に酒を酌み交わしたり子供達の成長を見守っていた隣人に、魔賊に操られていたとはいえいきなり牙をむかれ大切な人や財産を奪われたその心も癒えていない今、皆さんに心の平穏どころか現実を突きつけ自らの手でひとつひとつを片付ける事を要求する私をどうか許して欲しい」とまで涙ながらに訴えられては・・・。ただでさえ天使の美貌なのに、それが少しやつれて弱々しくも切実に、本当に心を痛めてくれている姿を見せられ、もはや民衆も現実に立ち向かわざるを得なかった。
もっとも、続々と近隣からの騎士達も遺体の処理や供養に参加するようになった事で、それに関する市民の心の負担がずいぶんと軽減されたのは言うまでも無い。
そういえば。
色々と群衆の移動などに揉まれたり、それぞれが戻った後テントで休ませてもらったりもあり、なかなか戻ったデュシコス様やコタロウ君には会えなかったんだが。
あれから二日経ち、少しずつ外周域の混雑が改善されるようになったときに、偶然鉢合わせた。
相変わらず炊き出しのおばちゃん達は交代で活躍中で、俺は挨拶がてら様子を見に行ったんだけどそこでちゃっかりごった煮シチューを食べているデュシコス様とコタロウ君が居た。
「いやぁ~、けっこう並びましたよ。なんせ長蛇の列だったですから。各ゲートとか内周の空き地でも食事の配給は始まっているのにここに並ぶ人減らないんだもん。でも待った甲斐ありました!チョー美味いです!」
もぐもぐしながら満足げに頬張っているコタロウ君は、実はあの後ハルピュイアを仕留めてドでかい魔石をゲットしオーデュカ長官を喜ばせていたらしいのだが・・・そんな功労者なのに・・・イヤ、普通に並んだんかい!
そして、デュシコス様もコタロウ君も立派に敵を仕留めて職責を果たしているのに俺はそれが出来なかったのだと、またヘコんだ。
そんな俺の気持ちに気づいたのかデュシコス様が食べ終わった食器を傍らに置いて口許を吹いた後。
「聞いたぞ、あの時の頭目はアズトガルゴスだったらしいではないか。敵が悪すぎたのだ。お前はその名を聞いてもピンとこないくらい予備知識が無かったのだから」
「・・・い、いや、索敵鑑定でアイツが魔王の側近だったという過去があるのは見えていたんだから予備知識云々では無く、単純に俺がアイツより弱かったんですよ!
『召喚者様』なんぞと持ち上げられているけど、そう呼ばれるにふさわしくないんですよ!俺はまだそんな器じゃ無いんですよ!未熟者なんですよ!」
そんな事を考えてぐだぐだ言っていたら「でも市民達は皆お前に感謝しているのだ。とりあえず魔賊は撃退した。他にもこのシチューもそうだし、それと彼の事も・・・」
そう言ってデュシコス様はすぐ隣でガツガツシチューを食っている小柄な髭のおじさんを指し示した。
そのおじさんは・・・!
な、なんと!ドワーフのボルゴさん!じゃないか!
俺がずっと拘ってトライして貰っている、し尿をエネルギー源にした給湯システムを作っている・・・。
「え、えっ?な、なんでボルゴさんがここに?」
慌てふためく俺に腕で口を拭ったボルゴさんがゲップをしながら事態を説明してくれた。
曰く。
以前作った雛形が問題なく、と言うよりは良い感じに活用されているという事だったからもっと規模を大きくして作ってみた。
一応試運転もしてみたが問題なかった。
ちょっと前からホツメル市の情勢が緊迫しているという話は聞いていたから、仲間に声かけてひとつではなくみっつほど作って、業務用大容量魔法袋に突っ込んで持ってきた、と。
そして、この北側門もだけど、南と東の門にも組み立てて設置してきたらしい。
何しろ外周には多くの群衆がひしめき合っていたからそこから発生するし尿も馬鹿にはならない。それの処理方法があり、しかもそれが給湯システムになると言う事で、焼け出されてボロボロのドロドロに汚れた状態だった市民達にはありがたがられたらしい。
何しろこのホツメル市の外周には湿原や雪解け水を潤沢に地下水として蓄えた水源がありそれ故にあちこちに井戸が設置されている。
外周の貧民街でも水に関しては不自由が無い。その井戸から引いて、熱源が、人間がいる限り無尽蔵に供給される排泄物ならばほとんど元手がかかっていないに等しい。
排泄物をその辺に廃棄して衛生状態が最悪になる事を考えたら利用したもん勝ちだ。
幸い支援物資で古着なども続々と送られているから少しでも衛生環境の改善が図れれば拘って来た甲斐が有ったという物だ。
「ありがとうボルゴさん。ボルゴさんのおかげだよ。なんてお礼言えば良いのか」
「何言ってんだ。お前が面白え話を持ってきてくれたおかげだよ。仲間も面白がってた。・・・でもなあ、今この状況だとたった三つじゃ全然足りねえんだよな。・・・まあ、王都で仲間がどんどん作ってるからまた送って貰うようにするわ。ここの管理官達にも組み立て方教えておいたからブツが届きゃあ組み立てられんだろう」
そんじゃあ俺ぁ、またすぐに王都に戻ってもうちょっくら大きめのヤツも作ってみるわ。お前がこっちにいる間に届いたら組み立て指示してやってくれや、とふくれたお腹をさすりながら人材派遣用の仮設転移ポータルに向かうため手を振って去って行った。
そんなこんなで。
気がつけばもう一週間以上も過ぎていた。
大勢の人手で片付けられていく事で少しずつ都市部の瓦礫も撤去されどんどん更地が増え、更地には仮設の配給所や支援物資置き場、簡易的な役所や学校、仮設住宅などが設置され始めた。
俺個人は先ずはおばちゃん達への挨拶がてらまた旨味出汁作りを手伝い。
管理官が迎えに来ると領主館に行き王都から派遣された経理関係の文官を案内しながら、あの惨劇の痕跡を一掃された大広間に所狭しと並べられたゲンデソル伯爵の秘蔵の財宝を確認し目録作成するのに立ち会い。(何故俺が?とも思うがなぜか中央からお前が立ち合えとのお達しだった)
無事だった使用人からダメージを負った使用人の様子を聞き、可能ならば見舞って、中央から派遣された国家警吏達の領主代行逃亡や、魔賊出現が領主館内だったことも有り前後の館内に関する聞き込みに立ち会い。(コレも何故俺が?と思うが・・・)
残りの時間ではボルゴさんから届いた給湯システムを市民達と協力して組み立てたり、合間を縫って金肥畑の確認に行ったり、王子の元に出向いて書類の分類のお手伝いなどをした。
ことあるごとに取り逃した悔しさを思い出したが落ち込んでいる暇も無かった。
それはそうと、俺はともかく王子の状況は本当にブラックそのものだった。
領主が溜め込んでいた財宝や美術品を復興に役立てるため換金する事はもう当然なのだけどひとつひとつのお宝に関する鑑定や許可が必要で、その煩雑さが半端ない。
それらの書類は何故か全て王族であると言う理由で王子に回された。
また支援物資の分配の許可も王子に回ってくるし、近隣から送り込まれた人材の差配に関する最終決定の許可もウチの王子に回ってくる。
何しろ王族だから。しかも成人している王子なもんだから、この地に居る最も権限の有る人であって、必然的にそうなる。許可は権限の有る人から貰わないといけないのは世の常だ。
何せ、この地の領主であるゲンデソル伯爵は先だっての御前試合もどきの前後から始まったかねてよりの不正摘発で捜査対象となっている。失脚は免れないうえ、領主代行がトンズラしている事から現在ここの領地に領主はいないのだ。
それゆえ様々な裁量は王太子の代理として自動的に王子に委ねられる事になってしまっている状態だ。
最初の頃はセルフヒールなどをかけていた王子だったがそのうちポーションを飲みながら仕事を捌いているお姿はまるで締め切り前の漫画家のようで(あくまでイメージ!)どうにも痛々しかった。
で、日数が進む間にはそれぞれの責任者を決めて判断を回したはずなのに伝達が巧くいってない奴らが当たり前のように王子のところに来る。
「いや、だからぁ~、これはぁ~、○○さんのところにぃ~・・・」などというナーノ様や補佐役の管理官達の言葉が5分おきに繰り返される有様だ。
さすがに働きづめで、しかもついつい無理をしてしまう王子を慮ってナーノ様が「殿下はこちらの領主ではないのです。全てを丸投げしてくるのはやめてください。もう限界です。休養を取っていただくべきです。そろそろ王都にお戻しくださいませんか」と中央に要請した。
団長の配慮でオーデュカ長官やデュシコス様、コタロウ君は既に王都に戻っている。
とりあえず、治癒にしても都市部の瓦礫撤去にしても支援物資の分配にしても、市民の身元確認にしても、近隣からの人材に対する命令系統がある程度は目処が立ってきていた事で、団長も「そろそろ仕方ねえな」と、頷く事になる。
因みに団長は近隣から派遣されてきた所属がバラバラの騎士達をずっと纏めていた。この人ももうずっとろくに眠っていない。
仮に王子達一行・・・俺も含む・・・を王都に帰した後でも団長だけはまだ暫く残るらしい。
ナーノ様の要請を受け、そもそも当初から王子を心配していた王太子も宰相も同意し、中央でもあれこれ調整して最終的には宰相補佐官が優秀な文官を選りすぐって送り込まれる事となった。
それと入れ違いに我々は王都に戻る。
俺は炊き出しのおばちゃん達への労いとお礼を言い、男衆に後を託して別れを告げた。
最後に一度領主館に赴くと、日常的なことは問題なくこなせるようになったクリオン君が護衛騎士と共に見送りに出てきてくれた。
ミリアと呼ばれていたあのメイドの少女始め何人かは肉体的にもだが更に精神的なダメージが酷く、ファモン市の療養所に送られていった。
別れ際にクリオン君が何か言いたげだったのが少し気になったけど、ずいぶん顔色も良くなって窶れ気味ではあるものの相変わらずの美貌で微笑まれ、本気で頑張って欲しいと願わずにはいられなかった。
王都に戻ると強制的に休暇を言い渡された。
「絶対騎士団の訓練には出てくるなよ」と団長には厳命された。
コレまでの俺ならそれでも構わず訓練場に出向こうとしたかもしれないが、今回はまず真っ直ぐに魔道棟に向かった。
オーデュカ長官にちらと訊ねていたメーゲンカルナの魔女にアクセスする方法のためだ。
オーデュカ長官の執務室と言う名のガラクタ置き場・・・もとい研究室にノックして入ると
そのガラクタの中に埋もれ気味な客人用ソファに黒いストールを頭からかぶった老婆が腰掛けている姿があった。
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いきなり御大ご登場?
俺は連絡の取り方を教えてくれって言っただけなのに?
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