王子の宝剣

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第三章

#38 レクチャー ※R

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 ※ R-15 です。 あまり大した事も無いのですが。・・・一応。

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「ずっと気づいては居たのですが、話を振るタイミングを外してしまって」
王子は俺の背後をのぞき込みながらカムハラヒを嬉しげに見回した。
「変わった形の剣ですね。細くて湾曲していて。この形がダイには手に馴染むのですね。」
俺は背中から外して王子に手渡す。「わ、重い」と驚くお顔が溜まらなくお可愛らしい。
「こんなに細身なのに、想像してるのよりずいぶん重いのですね。抜いても良いですか?」
あ、それは・・・と、俺とオルタンスさんが言いかけた瞬間。
王子が柄を握ってぎこちなく持ち上げると銀色に輝く刀身が少し覗いた。
それを見た俺やオルタンスさん、ソニス、騎士団の面々が衝撃のあまり固まる。
え、え?ええ?・・・俺にしか抜けないんじゃ無いの?

それはフェタグエド市のホテルに到着した翌朝。朝飯を済ませ、さあ出かける支度を、とそれぞれが馬の準備をしているときだった。
俺の大太刀は昨日の時点で既に気づいていたのだけど、それについて落ち着いて語れるような空気でも無かった。
昨日、ナツコ先輩達に管理城塞に送ってもらったあとに直ぐ出発して、フェタグエド市に着いたのはもう夜だった。
それでも到着後に軽く夕食を食べ、部屋に入ってからオルタンスさんに俺が生臭くないか確かめてもらって、もう一度風呂で念入りに洗った。
さっぱりした服に着替え、例によって王子の部屋に土下座に行った。
その際には大太刀は携えてなかった。
・・・いや、ミッションだ何だと言いながらも、俺はあまりにも調子に乗りすぎたと思う。
度重なる無礼の数々については本当に本当に、心から謝っておかないと。
が。
何故か珍しくナーノ様は上機嫌で「いえ、大変頑張りましたよね?」と褒められた。
「何なら今夜・・・」と言いかけたナーノ様を王子が「ダメです!」と遮って二人でにらみ合うという意味の分からない状況になった。何となく蚊帳の外。
「今日はもう疲れたでしょう?早く部屋に戻っておやすみなさい。明日も早くに発ちますから」
王子にそう言われて大して謝っていないうちに解放された。結構グルグル考えた言い訳の数々は出番が無かった。
それでも一応手裏剣のブローチだけは渡してきた。俺が手裏剣1号ことシュリイチを着けるから王子にシュリニを着けてもらう。
そうすれば、万が一王子の身に危険が迫った時その波動を感じることが出来る。ソレが武器でもある事も説明した上で、大太刀を手に入れた際に付いてきたおまけである事も告げた。

そんな話が出たせいか、翌朝の出発時、ざわついているときにカムハラヒに関心を向けていらした。

しかし、俺にしか抜けないはずの大太刀が王子に抜けた。はて?どういうこと?
まあ、完全に抜刀したわけでは無いが。
そして、それを見た他の先輩達も又試したけれど誰も抜けなかった。
結果、王子は俺の主君だからじゃないかという事で落ち着いた。
主従契約が出来るというそれは武器でありながら一種の魔道具だから、個体差も多く、この剣はそういうものなんだと言う事で納得する以外無い。
カムハラヒの持ち主が俺で、その主人が王子。その力関係で抜けるのでは、と。本当かどうかは分からないけど。

「変わっているけど、でも、とてもダイのイメージに合っていますね。とてもしなやかで端正で。この鞘の艶のある黒など・・・本当に綺麗」
そう言って王子の繊細な指が鞘を撫でたときに何故か体の芯がぞくりとした。
裏返してそこに家紋のように三柱女神を象徴する丸いシンボルマークが箔押しされているその細工の精巧さにも感嘆して触れる。
それでも一番のお気に入りはその鞘の黒漆塗りの艶だったらしく、何度も興味深げに撫でるのだが、何故かその度に俺はぞくぞくするのだ。何だコレ。
そして、柄の拵えはまるであつらえたように、柄糸の色味は菫色、柄下地が鮫肌のはずだがコレが不思議に光沢有る銀鼠色。店頭で偶然見つけたとは思えないほど王子の色味そのものなのだ。
いや、店主のあの口ぶりだと最初から出会うべくして出会っているから偶然では無いのだろうけど。
王子は少し照れくさそうにその柄の拵えをなぞりながら観察しているのだが、その指先に触れてなぞられる度に・・・。う・・なぜだ・・・下半身が疼く・・・?
おい、どうしたんだ俺!昨日のあれやこれやですっかりおかしいぞ。
だから団長が「じゃ、そろそろ行こうか」と声をかけてくれたときには心底ホッとした。もう何が何だか分からない。もう一度あの店に行ってどういうことなのか聞きたかったがそんな時間はとれなかった。危険だからもうあまり迂闊に王子に触らせないにしよう。

ナツコ先輩達に指示されたように極力早く復路を進む。
フェタグエドからハヌガノ渓谷までは普通の旅人がゆっくり進めば大体1日半とのこと。つまり途中の街で一泊はするのが普通と言うことだ。
ただ、俺たちは遅れを取り戻す為にも何とか今日中にハヌガノ領に入り、できるだけ渓谷に近いところまでは行こうという事になっている。
馬は大変だな。と思って思わず首を軽く叩く。大丈夫、と言うようにブルルッといななきながら首を上下させた。

急ぎ足で進んだせいか真夜中と言うほどでは無く、歓楽街が宴もたけなわ位の時間帯にはハヌガノ領の門をくぐり、最初の市街地に到着した。
ハヌガノ渓谷の周辺は俺が思い描いていたのよりもずっと大規模な都市だった。
そして、渓谷の断崖に近づくほど賑わっていく感じで、月明かりの中、果ての方角に向かい折り重なる建造物のシルエットとそこに灯る明かりやそれが反射して白石の建物に揺れるぼんやりした燐光。遠くから響く喧噪。夜到着したせいもあってか、どことなく幻想的な印象だった。

我々が食事をしている間に団長とホランド様が宿の交渉を取り付けていたらしい。
大体いつもと同じ部屋割りでそれぞれの部屋に散っていく。
先輩達は歓楽街に繰り出すのだろうか。だとしたら元気だな~。などと思いながら俺はまずは風呂で汗と汚れを流してさっぱりした。
カムハラヒのメンテナンスをしていると、ドアがノックされた。
誰かと思ったらレヒコさんとテオフィノスさんだった。
「あのさ、もしこの後時間あるんだったら俺たちの部屋に来ねえ?」
声音は軽ッぽかったけど、何となくギクシャク感を漂わせつつ誘われた。
何だろうかとは思ったが、せっかくだからお呼ばれすることにした。風呂を使っているオルタンスさんに一応行き先を告げて、俺はこの獣人カップルの部屋に向かった。

最初は飛竜に乗った話や管理城塞での金髪野郎のむかつくエピソードなどを話していたんだけど、なんだか肝心の要件を二人ともなかなか言い出せずタイミングを計っているようにも見えた。
「で?用事があって呼んだんですよね?お喋りの為じゃないですよね?」
俺が切り出すと、一瞬詰まったが、レヒコさんが諦めたように頭をかき口を開く。
「いやさ、実はな、ある人からお前に教えてやれって言われてさ。」
「何をですか?」
「男同士のやり方」
俺は思わず飲んでいた茶を吹いた。
一瞬にしてナーノ様の顔が脳裏をよぎった。何故、ナーノ様と思ったかと言えばほとんど直感だった。もしかすると団長という可能性もあるかも知れないけど、第一容疑者はナーノ様かなと。
「それって・・・つ、つまり・・・、お相手は殿下という事ですか?」
「そりゃそうだろ」
「逆に殿下以外を想定していたらかなり問題じゃねえか」
矢継ぎ早に突っ込まれる。
「い、いや、いやいやいや、結構です」
立ち上がって退室しようとした俺の腕をテオフィノスさんが掴み、レヒコさんが扉をガードする。
「無理です。ダメです。流石にそれは!そこまでは!いくら何でもどうしてですかッ」
「結婚させたいんだろうな、殿下を、お前という“召喚者”と」
けけけ結婚ッ?ちょっと待ってくれ!いや、飛躍しすぎだろう!“戦略的恋人”から一気に結婚んんーーーーーっ?!
「召喚者はさ、ほら、国家に囚われない存在じゃん。王族にも縛られない存在じゃん。そういう強い札なんだよ。ダイはさ。あんまり自分のことよく分かってないみたいだけど」
「できませんよ!ただでさえ今日はやり過ぎちゃったと思ってるのに、もっとやれって事?そんなこと無理ですよ・・・、皆さんは殿下がお気の毒とは思わないんですか?」
「・・・え?・・・気の毒?」
「気の毒は・・・ねえな。つか、逆なら気の毒かもだけど。相手が鈍感すぎて、とか」
「あははは、わかりみ~!だよなー」
俺は無言で立ち上がりドアに向かった。無言で再び腕を掴むテオフィノスさん。
ドアをガードするレヒコさん。
しょうーがねえな、と言う風にテオフィノスさんが言う。
「主君が火照ってたらねやのご奉仕も臣の勤めじゃねえのか?」
ウッ、こ、こいつ、俺の弱いところを突いてきやがった!それを言われると・・・。
しばしの沈黙の後、思わず俺は顔を覆って「やめてくれ!」と叫んだ。
「殿下で、殿下でそんな不埒な想像をさせないでくれ!頭の中でだって汚しちゃいけないんだよ。俺には出来ないよ!」
思わず自分の頭上で手をバタつかせて頭の上に広がりそうになった妄想を散らした。
「・・・あんな濃厚なキスしてたくせに?」
わー、やめてくれ。思い出させないでくれ!耳を塞ぐ。
「えっと、お前まさかとは思うけど、殿下のこと崇拝しすぎてちんこ付いてると思ってないとかじゃないよな?」
「いや、それは無い。それは付いていて欲しいと思う。付いてない方が怖い」
「あー、だよねー。じゃあ、男同士だとケツ穴に・・・むぐっ」
思わず俺はレヒコさんの口を手で塞いだ。それは言っちゃあいけない。ダメ。絶対。
レヒコさんの口を押さえたまま、肩で息をしていたらテオフィノスさんに「いつまでそいつに触ってんだ」と手刀ではたき落とされた。

スミマセン、としょんぼりすると何故か何かを思いついたかのようにケロッとしながらレヒコさんが軽い調子で語り始める。
「うん。じゃあさ、一般論を話すわ。まずね、いきなり後ろはだめだぜ?最初は手と口と舌なんかであちこち可愛がって、十分相手がその気になるよう頑張ってな。その気になるってのはつまり気持ちだけの問題じゃ無いよ?カラダがその気になってるかどうかだよ?ここ、大事な。最初ちょっと相手が手を突っ張ってると思っても大抵は拒絶じゃ無いからね。本気で拒んでるときは・・・こうだから」
テオフィノスさんを自分の方に引き寄せながら、爪を立てる勢いでその顔を押し戻したり脚で腹を蹴るマネをする。「でもこういうのは」抱きしめられている胸を押して居る仕草をしながら。
「本気で拒絶してないと思って良いよ。逆に気持ちよくてそのまま快楽に呑まれちゃいそうだから押しちゃうって事もあるからね、そこはちゃんと相手の表情みて」
「え、お前のアレ・・・時々突っ張って離れようとするのってそういうことだったのか?」
「気づいてなかったのかよ!」
うわあ・・・セキララ・・・。
赤面を禁じ得ない。ああ、この二人やってんだな、って思って考えなくても良い事考えてしまう俺がいる。
他人のそれって同級生で聞きたがるヤツ結構居たけど、俺いつもそういう話の時は退席しちゃっていたからな。
あの時は奴らの気が知れなかったけど、つまり皆あれで性の知識を育んでいたって事なのか。軽蔑してゴメン。俺は話を聞くのすら初体験だ。
でもここまで初心者なのにいきなりラージヒルに挑まされるのはどうなんだ。
・・・いや、でも。そうか。うん。せっかく教えてくれてるんだからちゃんと聞こう。
レヒコさんはそのあと懇切丁寧に図解付きで、大抵の場合はどこをどうすると気持ちいいだの痛いだのとレクチャーをする。わりかし単純な絵だけど上手でわかりやすい。
テオフィノスさんがさっきから不機嫌そうにそわそわしている。

いや、お二人には申し訳ないとは思う。思うけどもぶっちゃけこの状況は俺のせいじゃないよね。・・・どうしてだナーノ様。地獄だ。何で俺にこんな・・・。
・・・と思ったところでハッとした。一番問題なのは俺の無知じゃ無いのか?今までそういうことに一切関心を示さず、この年になるまでなぁ~んも知らずに来たことなんじゃ無いのか?
自分には無縁だと思っていたからな。恋愛も結婚もむしろ俺にとっては『害悪』だと思っていたくらいだ。
つか、大概の巷にある性の教材は女性がメインだから生理的にダメだったんだけど・・・。
「何か質問ある?」
「ナニモアリマセン・・・」
「んじゃ、テオから何かアドバイスは」
「何もねえよ。」
レヒコさんが両手グーでこめかみグリグリし、「ちゃんと!」と叱ると頭をかきながらため息をついた。
「本能に従えよ」
「?」
「面倒くせえ事はどうでもいいんだよ。その場になったら突き上げてくんだよ、欲望が。それに従えばいいんだよ。とりあえず、相手が痛がったらヤメロ、それだけだ」
その言葉にレヒコさんは何かがツボだったらしくて「テオ~♡」といって目をうるうるさせていた。
「ああ、じゃあ今日はここまででお前はもう部屋に帰れよ。もうさっきからレヒコがずっとそんなことばっかり喋ってるからシンドくてしょうがねえ」
なにげに股間を隠している。
「シツレイシマシタ・・・」
俺は深々と頭を下げ。ありがとうございましたー!と道場を後にするときのように出入り口で一礼して退室した。

部屋に戻った途端に俺は再び風呂場に入って何度も水を浴びた。
けれど今回はそんなことではどうにもならなかった。
レクチャーを聞きながら、具体的な説明を想像で補おうとしたとき、どうしても相手が王子になってしまうのだ。それはダメだ、それはダメなんだと思っても。
でも、じゃあ他の誰を想定すれば罪が無いんだ?
レヒコさんって訳にはいかないだろう。想像だけでも殺される。
必然的にどうしても王子で想像してしまうんだ。そして、当たり前のようにこういう現象が起こる。俺の下半身に。
どうすればこの熱を処理できるのかは分かっている。でも抵抗がある。
王子を・・・何だっけ?アレ、・・・オカズ?・・・王子をオカズにするのは・・・。
そんな風に思っている先から、あの時の華奢な体や関節の滑らかさ、キスを解いた後の上気したお顔と潤んだ瞳、小刻みに吐息を漏らす濡れた唇、走馬灯のように蘇るあの時の感触。・・・そして、あの・・・匂い。
堪えられずに握りしめて扱いていた己のものが、あの匂いを思い出した瞬間に、一気に上りつめて腰が勝手に動き手の中でこわばって熱を放った。

濡れた床に手をついて激しく息をつく。
後から襲ってきたのは言いようのない罪悪感だった。
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