釣った魚、逃した魚

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#78 貴史さん ※

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はい。ずっと、シています。R18回です。
苦手な方は回避して下さいませ。

特にラストのバカップルぶりには砂を吐くかも知れません。たらいのご用意も推奨します。

――――――――――――――――――――――――――――――――

待って。
待って、ミラン!
駄目。無理無理。
そんなに急がないで。
待って。
……あ、あ、あ…

余裕が無いのはいつものこと。
そんな神子様の制御の声は、最初こそ気遣いの足しになっていたけれど、そのうちに煽っている様にしか聞こえなくなる。

あんな言葉を聞いて冷静でいられるほど人間ができあがってはいない。
恋愛経験なんて今まで無かった不器用さんですから。

―― 俺だって君を愛してるんだよ?

俺だって、君を

その言葉に、俺の中に溜まっていた何かが決壊するのを感じた。

ただ受け止めてくれているのだと思っていた。あまりに俺がウザいから。
取りあえず好意も無いわけじゃ無いから、くらいの感覚だった気がする。
慈愛。…そう、確かに慈愛で受け止めてくれているのだと。

―― 俺だって君を愛してるんだよ?

本当ですか?

本当に、ですか?

脳髄が痺れるみたいな言葉だった。目眩を覚えるほどの。
嬉しい、とか、感激、とか、そんなのとは違う。
本当に、“決壊”という表現がぴったりの感覚。
溢れて、ほとばしって、どうにもコントロール出来なかった。

食らいつくみたいに、白い肌を、隅から隅まで貪った。

なんでこの人の鳴き声は、こうも俺を疼かせるんだろうか。
濡れて溢れて、唇を伝う唾液がこうまで美味しそうに見えるのはなぜなんだろう。
なぜこんなに吐息が甘いんだろう。
いつもと同じ律動がひときわ狂おしい。

どこをどう攻めればどう乱れるのか、もう充分知り尽くしている。
でも、まるで初めて抱く時のように、恐れおののきつつも、溢れ出る熱が俺を苛んだ。

「神子様っ…!神子様ッ…!」
滑らかな胸元から脇腹を、背後から執拗に可愛がりながら思わず呼ぶと、切れ切れの息で「違う、ミラン、そうじゃ、なくて…」と緩やかにかぶりを振る。
「…タカ…?」
そう言いかけた俺を止めるように、胸元を弄っていた手に掌を重ねた。

「ねえ、…貴史さんっ…て、呼んでみて」

辛うじて聞き取れるくらいの掠れた声で神子様が強請った。
うつ伏せの白い体を後ろから抱き込み、緩やかに抜き差ししながら、お望みの通り、赤く色づいた耳に口を寄せて「タカシサン…」と呼んだ。
瞬間、あっと小さく嬌声が上がり、中がギュウッとうねると、神子様の腰がガクガクと痙攣した。

「…うぁっ、んっ、その声で、本名呼ばれると…クるッ…!」
泣き声に近かった。

あまりに顕著な反応。
思わず何度も「タカシさん…」と呼びながら腰を踊らせた。
その度に腕の中の人は激しく乱れる。

逃れようとでもするみたいに、シーツを掻いてもがき、身を捩る。
何度も大ぶりのイヤイヤで、黒髪が暴れた。
溺れてでも居るように、息継ぎをして神子様の全身が強ばる。内部が俺の子種を全て搾り取ろうとでもしているように締めあげる。

俺の、食いしばった歯の隙間から、思わずクッと息が漏れた。
それまでは神子様の体への配慮だとか、僅かばかりの理性を残していたのに、それをきっかけのように、もう無我夢中で、何度も何度も体位を入れ替えながら、欲望のまま執拗に犯した。

名を呼びながら掻き抱いて、突いて、かき回して、揺する。
結合部の隙間から何度か放った体液が溢れて、濡れた音を立てた。

横寝になった神子様が無反応になり、意識を飛ばしてしまったのに気づく。
俺はゆっくりと引き抜いていく。
浅い部分に近づいたとき、ビクリと神子様の体が弾んで、また中がギュッと締まった。
ウッと声が出た。
急に刺激を受けてまた硬くなる。
名残惜しくなってまた少し押し入れ、擦ると、神子様が、喘ぎながら身悶えし始める。
快楽をかみ締めながら抽挿を続ける。
追い上げるように次第に激しくなり、二人同時に声を上げてイッた。

「タカシさん…」
息を切らしながら耳元で呼ぶと、薄く開けた潤んだ瞳と視線がかち合った。華奢な体も大きく波打って息を整えている。

「最高…」
吐息だけの甘い呟き。

神子様は、蕩けるように笑って俺の頬に触れた。

一方的な想いをぶつけて抱くのと、愛されているのだと確信をもって抱くのとは、こんなにも違うものなのかと思った。
今までだって、繋がる事が出来た満足感は途方もなくて。こんな幸せが許されるのかと、それが現実とは思えないほどだったのに。

想像を絶する多幸感。

胸がいっぱいとはこういうことを言うのかと思いながら、俺は少しずつ呼吸が整っていく神子様の傍らに沈んだ。





「呼び捨てよりも、“さん”付けの方がヨカッタんですか?」
今回は余韻を消したくないと、セルフヒールをかけずに、腰回りに幾つものクッションを置いてベッドの住人となっている神子様に訊ねた。
俺が差し出すマグカップからポタージュを啜りながら「うん、そうなんだよね」と照れくさそうに答えた。

「なんか、生々しかったんだよね」
「……?…」

「元の世界では、恋人とは言っても、職場で知り合った7歳も年上の相手を呼び捨てにすることは滅多に無くてね。…だから、なんかすごくこっちの世界での呼ばれ方よりも、めちゃくちゃそれっぽくて。…ヤバかった」

そうなのか…。そんなもんだろうか。そこは生活習慣の違いから来るものだろうけど。

ふと。
おそらくなのだが。
神子様はこちらの世界に来てからは、常に“神子様”なり“タカ”を演じているのだと思う。
だから、本人としては俺といるときには自然体だと言いながらも、どこか元の世界での“素”とは違っていたんじゃないだろうか。
でも、あの呼び方をされたとき、完全な“素”になった。

神子様は暫し考えて、唇に付いたポタージュを舐め取りながら「でも…」と続けた。
「もしかすると、『三倉さん』だったらもっとヤバかったかも…」
独り言のように呟いた。

「ミクラさん…」
俺が釣られるように呟いてしまったら、持っていた空のマグカップを押しつけてきて、両手で顔を覆って「ワーッ!やめて!」と照れた。

ちょっと可笑しくなって、悪戯心がおきた。
もう一度、耳元に近づいて「ミクラさん」と呼んでみる。
先ほどよりも、少しイヤらしい気持ちを込めて。

「やめ、やめ、ホント、まじ勘弁して!その声で!無理だから!」
真っ赤になって照れまくる神子様を見て、えもいわれぬ愛おしさがこみ上げる。

次に使える最強の武器を手に入れた気分だった。
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