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本編
九十二話 アイトワラス
しおりを挟むビリヤードが完成した。試しに遊戯室に設置して皆で楽しむ。一番上手いのはシーラだな。しばらくすると敵なしになった。
それからザックさんを屋敷まで呼んで特許の申請をした。ザックさんはビリヤードに太鼓判を押してくれた。お洒落でスタイリッシュなゲームだから流行るだろうとのことだ。
ナシェルにも連絡を入れ、これも遊戯ギルドで採用した。ダーツは既にあるから、これと合わせるとダーツ&ビリヤードバーみたいなのができそうだな。既にある遊戯バーも取り入れるかもしれない。
ちなみに申請には俺が書いた概略図をもとに職人が書き起こした設計図を使った。そしてせっかくなので職人にもインセンティブが入るようにしておいた。見事に作り上げてくれたからな。職人は恐縮していたが、これぐらいは当然だろう。
◆
「アイトワラスの捕獲か」
ギルドで渡された指名依頼の一覧を見ていたら、気になったものを見つけた。依頼主はパッツォの先先代国王らしい。今は公爵だとか。
どうやら家族の護衛兼ペットとしてアイトワラスが欲しいらしい。アイトワラスは領地近くの山で目撃されたとか。
どういった人柄なのかが気になったので、一旦確かめに行く。パッツォ西部のウルスラに近いところだな。レセンディスという都市だ。
転移で飛んで、まずレセンディスの情報屋を探す。ウルスラに近いからか、ヴィンスさんは警戒に念を入れていた。
情報屋に領主の人品を聞くと、特に問題はないようだった。加えてペットの兎を可愛がっているという話もあった。動物好きなのか。
それから領主館に向かうと、すぐに中に通され、領主に会うことになった。
領主は初老のウサ耳の半獣人で、名前はバルトロメ・エステバン・デラフエンテ・レセンディスというらしかった。
「この度はわざわざ足を運んでくださり感謝する」
「手間ではありませんので。それでアイトワラスの捕獲でしたか。理由などを今一度お聞かせ下さい」
話を聞くと、ウルスラの工作員らしきものがいくらか領地に入ってきているらしい。大体は情報屋から情報を買ったり、検査を厳重にして対応して捕縛しているそうだが。そのため警護を強化する必要があるとか。
後は目撃情報のあったアイトワラスがウルスラの手に渡らないようにもしたいらしい。どこにでも忍び込める強力な魔物だからとか。
通常ミスリル級の魔物の捕獲は困難だが、ウルスラはアダマン級を使役していたからな。可能性はなくもない。もしウルスラがアイトワラスを手にしたら酷い事になりそうだ。
「分かりました。ご依頼引き受けましょう」
「おお、やってくれますか。ありがたい」
その後、バルトロメさんと少し打ち合わせをして、皆でレセンディス近くの山へと向かう。アイトワラスが目撃されたのは山の中腹だ。行動範囲が広い魔物なので、一応麓から警戒しておく。
出てくる魔物をたまに倒しながら、収納から取り出したコカトリスの無精卵を掲げながら歩く。持つのはシーラだ。器用だから落としそうにないしな。
コカトリスの無精卵は、それから作ったオムレツを食べたタルトが、いつもの二倍は大きな黒炎を尻尾にともし、ウニャウニャ言いながらガッツいていたものだ。
コカトリスの卵はガチョウの卵より少しデカい。コカトリス自体がかなり大きいからな。
しばらく進むと索敵に反応があった。しかし改良した索敵の魔法で魔物と表示されているのに、その方向には何もいない。何か小型の反応はあるのだが。皆にも伝える。
「もしかすると、あの鳩じゃないでしょうか」
アリシアさんがそう言った。索敵を再び念入りに確認すると、ちょうどマーカーがその辺りにあった。
なので遠目で鑑定すると、アイトワラスと表示された。ビンゴだ。
アイトワラスはこちらをしばらく観察していたが、しばらくすると変化を解いてこちらに近寄ってきた。
基本的には翼の生えた黒い大蛇といった感じの外見だ。翼やトサカには赤い部分もある。尻尾には黒炎が灯っていた。手足がないドラゴンみたいだな。
敵意感知も試しているが、特に敵意は感じない。視線はコカトリスの卵にくぎづけだ。
そこで一旦コカトリスの卵を収納し、取り出したるは既に作ってあったオムレツである。大皿に盛られた状態で収納しておいた。
地面に皿を置いて少し下がると、アイトワラスは近寄ってオムレツを食べ始めた。一口食べると興奮した様子で身体をくねらせ、尻尾の先の黒炎も勢いを増している。
ガッツいているアイトワラスに近づき隷属魔法を試すと、一旦は弾かれた。怒らせたかな、と思ったが、チラリとこちらを見ただけでまた食べるのを再開した。
今度は隷属魔法を、定期的に卵料理を振る舞うことを条件にかけてみた、コカトリスは無理かもだが、高級な畜産の鳥の魔物やハーピーくらいなら大丈夫だろうと条件付けする。バルトロメさんもそのようにすると言っていたしな。
するとすんなり隷属魔法が通った。弱らせている訳でもないので拍子抜けである。
「ニャア」
オムレツに飛びつきそうになるのをこらえながら見ていたタルトが声をかけると、アイトワラスはこげ茶色の毛並みのヤマネコに姿を変えた。
「さっきも伝えたが、卵料理を定期的にもらうというので大丈夫か? さっきのやつはあまり食べられないかもだが」
「ンミャオ」
構わないそうである。さっきのは今までの魔物生で食べた中で一番美味いものだったので、逆に当分は食べなくてもいいのだとか。普通の食事が味気なくなるのもあるし、頻繁に食べるとあれだけの美味に飽きるかもしれないからとか。なるほど?
上手くいったし、そろそろ帰るか、となったところで、数人の魔物ではない人型が接近してくるのが分かった。
他の冒険者かな。
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