上 下
92 / 108
本編

八十九話 執政補佐官

しおりを挟む

 役所に来た。執政補佐官、実質的なこの領地の支配者に会うためである。

 執政補佐官は二人いた。一人はペイルーンから派遣されたらしい、褐色肌に四つ腕の男性だ。名前はカリーム・シャムハルというらしい。

 もう一人はトラキアから派遣された、ほおや額や首に鱗のようなものがある男性で、名前はロイス・バッハラッハというらしい。

 二人とも領地を持たない男爵位の貴族らしい。両国で働いている領地を持たない貴族の中で、新しい領地で働く事を希望するものの中から選抜されて任官されたとか。

「どうです? この領地は。なかなかの仕上がりだと自負してますが」

「改善点などあればお教えを……」

 話を聞くと、俺が各国の英雄を集めてウルスラの侵攻を阻止した辺りでトラキアも本腰を入れて領地の用意を進めていたらしい。二人はその指揮を取ったとの事だった。
 
「かなり良い感じだと思うよ。軽く見ただけだけど活気があるし。改善点というか希望は一つあるかな」

「伺いましょう」

「精霊にお供え物をする場所を作って欲しいんだよね」

「精霊ですか。レイセン様は精霊信仰をされているのですか?」

「信仰まではしてないけど、御利益があるかもだからさ」

「精霊……なるほど」

 ロイスさんは何やら合点がいったらしく、腕組みをして何かを思案しているようだった。

「用地にはまだ余裕がありますので可能かと。聖堂横の公園を挟んだ先にでも建てますかな。規模はどのくらいで?」

「聖堂と同じくらいにしてほしいかな」

「土地の面積を考えると、可能ですな。デザインなどはどう致しましょうか」

「聖堂と似た感じで良いんじゃないかな。ただヨモギの装飾を取り入れてほしいかも」

「ヨモギですか。承知しました。資材にはまだ余裕があるので、建築が得意な魔術師を優先的に回して急ぎ作らせましょう」

 アルテミシアはニガヨモギが主な原料だからな。精霊用の建物にはぴったりである。

「レイセン様は最近の気候の変化などについてはご存知で……?」

 ロイスさんが口を開いた。

「聞いてますね。色々変わったとか」

「……これからもこれが持続するかどうかについて、何か予測はおありですか?」

 鋭い質問だな。精霊との関係性があると察したのかも。

「自分は持続すると考えていますね。まあカンですが」

「……そうですか。では街の側に農地を広げるのもよいかもしれませんね。報告では草花も活性化しているようですし」

「良いですね。じゃあニガヨモギが栽培できないかも試してみてください。できればアニスやフェンネルなんかも」

「承知しました」

「ああ、今思い出したんですが、いずれイースタスからグリフォンやコカトリスを譲り受ける事になっているので、それ用の畜舎なんかも広めに用意しておいてください」

「グリフォンにコカトリスですか!」

「それはまた……」

 二人とも驚いているな。

「両方とも俺が番を捕まえて向こうに譲ったんだ。それでだね」

「あの記事は本当だったのですね……」

「そういえばレイセン様は先日発表されたところによるとアラクネも飼っておられましたね。であればやはり本当に」

「飼育のノウハウを身に付けた人も派遣してもくれるんだって」

「では農地と併せて早急に畜舎の作成にも取り掛かりたいですね。畜舎のサイズなどは把握されてますか?」

「あーっと、大体……」

 その後も色々と話をした。税率やら、市民権取得の基準やら。その辺りは専門外なので、大体は二人に任せた。

 ちなみにしばらくは両国の手厚い支援が続くらしい。スタートダッシュの後押しだな。ある程度経ったら多少自立しないといけないらしいが。

 まあ両国の交易拠点なので、商売も盛んになるだろうし、気候が良くなり本来こちらでは育てられないものも栽培できるようになるし、税収は問題ないだろうという事になった。

 将来的にはコカトリスの無精卵を輸出したり、ピポグリフを輸出できるかもなので、そっちもデカいらしい。

 その後は仕事とは関係のない雑談をした。

 カリームさんは結構な武芸者でもあるらしい。手斧と剣と盾と鎌を同時に扱い、魔物相手にもそれなりに戦えるし、対人戦だと英雄クラスの相手でなければ勝てなくもないとか。

 武門の出らしく幼い頃から武芸を仕込まれていたらしい。だが実務能力も高く、そちらも国では評価されているとか。

 種族は四腕族との事だった。まんまだな。まあ四腕族の中でもアラブ系?ペイルーン系の人種だそうだが。

 ロイスさんも文官だが近衛騎士クラスには槍が扱えるらしい。こちらも家の教育方針で武芸を身につけたらしいが、戦いは性に合わないから武官ではなく文官をしているそうだ。

 種族は龍人族とヒューマンの混血らしい。だから少し鱗みたいなのがあるのか。

 二人とも結構戦えるんですね、と言うと、有事の際の俺の護衛も任務の内らしい。基本は屋敷の警護をしているものや、領地に配属されている騎士団員に任せるそうだが。

 カリームさんの趣味は武芸の稽古で、ロイスさんの趣味は読書らしい。ロイスさんもなまらない程度に訓練してはいるそうだ。たまにカリームさんに付き合っているとか。

 それに加えて二人とも最近は新しい娯楽で楽しんでいたりもするとか。部下なんかも加えて麻雀やトランプをしたり。

 雑談中にふと思い出したが、遊戯ギルドも必要だ。各国際的ギルドは既にあるようだったが、こっちも大事だ。俺のお膝元だしな。用地を確保する相談をした。

 ナシェルにも立ち上げの人員を用意してもらう相談をする。すると近いうちに数人を出張させると言われた。人員結構豊富なのかな。

 最後に気になったのでこの領地の名前を聞くと、レイセン卿の街とか、レイセニアとか、国境の街と呼ばれているらしい。公式の呼び名は暫定的にはレイセニアらしい。変えてもいいそうだが。

 レイセニアか、なんか恥ずかしいな。響きは悪くないが。他に良い名称が思いつかなかったので、ひとまずはそのままにしておいた。なんかいい名前ないかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】 異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。 原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。 初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。 転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。 前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。 相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。 その原因は、相方の前世にあるような? 「ニンゲン」によって一度滅びた世界。 二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。 それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。 双子の勇者の転生者たちの物語です。 現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。 画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。 AI生成した画像も合成に使うことがあります。 編集ソフトは全てフォトショップ使用です。 得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。 2024.4.19 モチ編スタート 5.14 モチ編完結。 5.15 イオ編スタート。 5.31 イオ編完結。 8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始 8.21 前世編開始 9.14 前世編完結 9.15 イオ視点のエピソード開始 9.20 イオ視点のエピソード完結 9.21 翔が書いた物語開始

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...