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本編
八十九話 執政補佐官
しおりを挟む役所に来た。執政補佐官、実質的なこの領地の支配者に会うためである。
執政補佐官は二人いた。一人はペイルーンから派遣されたらしい、褐色肌に四つ腕の男性だ。名前はカリーム・シャムハルというらしい。
もう一人はトラキアから派遣された、ほおや額や首に鱗のようなものがある男性で、名前はロイス・バッハラッハというらしい。
二人とも領地を持たない男爵位の貴族らしい。両国で働いている領地を持たない貴族の中で、新しい領地で働く事を希望するものの中から選抜されて任官されたとか。
「どうです? この領地は。なかなかの仕上がりだと自負してますが」
「改善点などあればお教えを……」
話を聞くと、俺が各国の英雄を集めてウルスラの侵攻を阻止した辺りでトラキアも本腰を入れて領地の用意を進めていたらしい。二人はその指揮を取ったとの事だった。
「かなり良い感じだと思うよ。軽く見ただけだけど活気があるし。改善点というか希望は一つあるかな」
「伺いましょう」
「精霊にお供え物をする場所を作って欲しいんだよね」
「精霊ですか。レイセン様は精霊信仰をされているのですか?」
「信仰まではしてないけど、御利益があるかもだからさ」
「精霊……なるほど」
ロイスさんは何やら合点がいったらしく、腕組みをして何かを思案しているようだった。
「用地にはまだ余裕がありますので可能かと。聖堂横の公園を挟んだ先にでも建てますかな。規模はどのくらいで?」
「聖堂と同じくらいにしてほしいかな」
「土地の面積を考えると、可能ですな。デザインなどはどう致しましょうか」
「聖堂と似た感じで良いんじゃないかな。ただヨモギの装飾を取り入れてほしいかも」
「ヨモギですか。承知しました。資材にはまだ余裕があるので、建築が得意な魔術師を優先的に回して急ぎ作らせましょう」
アルテミシアはニガヨモギが主な原料だからな。精霊用の建物にはぴったりである。
「レイセン様は最近の気候の変化などについてはご存知で……?」
ロイスさんが口を開いた。
「聞いてますね。色々変わったとか」
「……これからもこれが持続するかどうかについて、何か予測はおありですか?」
鋭い質問だな。精霊との関係性があると察したのかも。
「自分は持続すると考えていますね。まあカンですが」
「……そうですか。では街の側に農地を広げるのもよいかもしれませんね。報告では草花も活性化しているようですし」
「良いですね。じゃあニガヨモギが栽培できないかも試してみてください。できればアニスやフェンネルなんかも」
「承知しました」
「ああ、今思い出したんですが、いずれイースタスからグリフォンやコカトリスを譲り受ける事になっているので、それ用の畜舎なんかも広めに用意しておいてください」
「グリフォンにコカトリスですか!」
「それはまた……」
二人とも驚いているな。
「両方とも俺が番を捕まえて向こうに譲ったんだ。それでだね」
「あの記事は本当だったのですね……」
「そういえばレイセン様は先日発表されたところによるとアラクネも飼っておられましたね。であればやはり本当に」
「飼育のノウハウを身に付けた人も派遣してもくれるんだって」
「では農地と併せて早急に畜舎の作成にも取り掛かりたいですね。畜舎のサイズなどは把握されてますか?」
「あーっと、大体……」
その後も色々と話をした。税率やら、市民権取得の基準やら。その辺りは専門外なので、大体は二人に任せた。
ちなみにしばらくは両国の手厚い支援が続くらしい。スタートダッシュの後押しだな。ある程度経ったら多少自立しないといけないらしいが。
まあ両国の交易拠点なので、商売も盛んになるだろうし、気候が良くなり本来こちらでは育てられないものも栽培できるようになるし、税収は問題ないだろうという事になった。
将来的にはコカトリスの無精卵を輸出したり、ピポグリフを輸出できるかもなので、そっちもデカいらしい。
その後は仕事とは関係のない雑談をした。
カリームさんは結構な武芸者でもあるらしい。手斧と剣と盾と鎌を同時に扱い、魔物相手にもそれなりに戦えるし、対人戦だと英雄クラスの相手でなければ勝てなくもないとか。
武門の出らしく幼い頃から武芸を仕込まれていたらしい。だが実務能力も高く、そちらも国では評価されているとか。
種族は四腕族との事だった。まんまだな。まあ四腕族の中でもアラブ系?ペイルーン系の人種だそうだが。
ロイスさんも文官だが近衛騎士クラスには槍が扱えるらしい。こちらも家の教育方針で武芸を身につけたらしいが、戦いは性に合わないから武官ではなく文官をしているそうだ。
種族は龍人族とヒューマンの混血らしい。だから少し鱗みたいなのがあるのか。
二人とも結構戦えるんですね、と言うと、有事の際の俺の護衛も任務の内らしい。基本は屋敷の警護をしているものや、領地に配属されている騎士団員に任せるそうだが。
カリームさんの趣味は武芸の稽古で、ロイスさんの趣味は読書らしい。ロイスさんもなまらない程度に訓練してはいるそうだ。たまにカリームさんに付き合っているとか。
それに加えて二人とも最近は新しい娯楽で楽しんでいたりもするとか。部下なんかも加えて麻雀やトランプをしたり。
雑談中にふと思い出したが、遊戯ギルドも必要だ。各国際的ギルドは既にあるようだったが、こっちも大事だ。俺のお膝元だしな。用地を確保する相談をした。
ナシェルにも立ち上げの人員を用意してもらう相談をする。すると近いうちに数人を出張させると言われた。人員結構豊富なのかな。
最後に気になったのでこの領地の名前を聞くと、レイセン卿の街とか、レイセニアとか、国境の街と呼ばれているらしい。公式の呼び名は暫定的にはレイセニアらしい。変えてもいいそうだが。
レイセニアか、なんか恥ずかしいな。響きは悪くないが。他に良い名称が思いつかなかったので、ひとまずはそのままにしておいた。なんかいい名前ないかな。
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