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本編
八十七話 遊戯ギルド2
しおりを挟むロンドミアの湖にアルテミシアを納品しに行くと、前は見なかった精霊がいた。
「雪と氷の精霊と闇の精霊ね」
両方ダウナーな感じの精霊である。髪は白黒対照的だが。ちなみに光の精霊はたまに髪の色が変わっていた。可視光の色それぞれに。
「キメキメできるって聞いた」
「はやくちょうだい」
セリフだけ聞くと、純朴そうな美女をたぶらかす売人みたいな気分になってくる。いかん、ただの酒だぞ。頑張れ俺。
「もうなくなってたんですか?」
「あちこちから聞きつけた精霊がやってきて飲んで行ってね。でも急かすのも悪いから普通に待ってたのよ」
「なるほど。少しは急かしてくれても構いませんよ。設備投資やら色々したから生産量増えてるみたいですし」
「あらそうなの? じゃあ今度からはお願いするわ」
「はやく」
「あーはい、どうぞ」
二人の精霊にアルテミシアを渡すと、栓を抜いてグイッとやっていた。
「ふふ、ふふふ」
「……」
あまりはしゃいでないな。一応喜んでる様子だが。すると雪と氷の精霊はカマクラを作り出し中にこもり、闇の精霊は立ったまま寝てしまった。これはコレで面白いな。
「喜んでるようで良かったです。他の精霊は?」
「入荷待ちね。後で念話で伝えるわ」
「次からは千本に増やしますかね」
「無理はしないでね。無くても存在はできるし」
「はい」
ナシェルに入荷の本数を増やすように言っておく。ナシェルは、では生産分は全てこちらに回しますね、と言っていた。
寡占状態だが、色々投資もしているし構わないだろう。酒蔵もほぼ子会社化してるようだし。
「オリエストってそんなにモテてたのねぇ。加護がなくてもそれなりにやれそうだったし、悪い事したかしら」
「まあ本人に聞かないと分かりませんが、あまり後悔はしてないんじゃないですかね」
「どこかに生まれ変わりとかいないかしらね。今度は考えてあげてもいいかもだわ」
「似た感じの人がいたら考えてもいいんじゃないですか」
「そうねぇ。正直あなたでもいいんだけど、あなたは相手が多いからねぇ」
「精霊総出で潰しに来るのは勘弁して欲しいですね」
「まあそうよね。精霊はそういった欲求は薄いから別にいいけど」
「そういやトラキアとペイルーンの間で領地をもらったんですが、なんかこう精霊の力でテコ入れってできます?」
「できると思うわよ。暇な精霊を呼べば。あの酒を供えればいいんじゃないかしら。私もたまに分体を飛ばすわ」
「あ、じゃあお願いします」
「了解」
しばらくした後、雪と氷と、闇の精霊がトリップから戻ってきて、リアナの鎧をペタペタ触っていた。加護をくれたらしい。加護をくれた後はまたアルテミシアを飲んでトリップしていた。
ちなみに皆も来ていて色々話をしていたが、ヴィンスさんは精霊達に見惚れて終始無言だった。後でとんでもない知り合いがいるんだな、とは言われたが。
◆
遊戯ギルドが発足した。手始めにイースタスと王都での始業だ。試供品の遊具を配ったりなんかして客寄せもしていた。物珍しさもあって会員数は順調に伸びているらしい。
伯爵とその執事にも声をかけたら参加してくれた。たまにギルドの会館に通って実績を積んでいる。
ギルドカードの仕組みは結構考えた、主にナシェルが。工夫としては、勝負した時、勝利した時に負けた相手からギルドカードに内蔵したポイントを受け取れる仕組みにしている。賭けるポイントは任意だ。
溜まったポイントによって色んな景品が貰えるようにし、ポイントは会費を追加で払い買えるような仕組みにしてある。後、大会なんかで好成績を収めてもポイントが貰えるようにしている。
ランクはギルド職員立ち合いの元試合を行った時に、職員専用の魔道具で戦績をギルドカードに記録するようにして、その戦績で決めている。
一応ランクが自分より低い相手に勝ってもたいした評価にはならないようにしてもいる。ハンデをつけられるものならそれが加味され少し評価が上がるが。
麻雀のような運が絡むやつは、戦う相手のランク以外にも、試合数や平均順位やトップ率、ラス率なんかでランクが考慮される。一応追加で会費を払って戦績のリセットも可能だ。
有料で立ち会う職員を派遣するサービスなんかも開始し始めていて、王都ではスラムの人族を善悪の魔道具や情報屋により調査した上で雇い、あちこちに派遣し始めている。
酒場や集会所、公園、色んなところに派遣しているようだ。貴族や金持ちがいる場所に派遣する職員は、念入りに礼儀作法を身に付けさせてもいるらしい。
一部の酒場なんかでは、遊戯バーといった感じの形態で遊具を揃えて客に提供し始めてもいるらしい。雀荘みたいなものもできたとかいう話を聞いたな。
一応飲酒しての試合の場合は、本当に戦績を残していいのか確認するようにもしている。酒の強さでランクが決まってもアレだからな。ポイントの受け渡しは自由だが。
ランクが上がるとギルドで講師として講習をしたり、上位ランクの大会に出られるようにしている。ランクが高い大会ほど得られるポイントが高い。後はギルドで販売している遊具の割引きなんかもある。ランクが高くないと買えない一品物や交換できない景品なんかも用意した。
ポイントと引き換えにする景品は各グラムごとの貴金属なんかもあるので、金券がわりになるようにもなっている。
ポイントは1ポイントで0.7マールぐらいの換算だ。ポイントを景品目的で買う場合は足が出るようにしている。戦って勝って景品を貰わないと得はしないようにしないとな。同価値だとあまりポイントの意味がない。
ポイントでなく直接現金を賭ける場合もあるようだが、ジャラジャラと硬貨をやりとりせずに済むので、ポイント制はそれなりに好評のようだ。それに貴金属以外の景品も色々凝ったものにしたしな。
硬貨いらずにカードを介してポイントを受け渡す仕組みは画期的らしく、商人ギルドも一般人向けに似たようなカードを作ろうとしていたりするらしい。
今までそういったものが無かったのが不思議だ。生体認証のできるカードでのカード決済文化が普及していてもおかしくない。
冒険者ギルドは引き出し専用だし、商人ギルドも会員同士で、しかもギルドで手続きをしないと振り込み等の金銭のやり取りができない。
ザックさんやナシェルに話を聞くと、お金のやり取りは基本的には硬貨で、みたいな固定観念があったのと、あまり硬貨を使わないと、マール神の天罰がくだるんじゃないか、みたいな風潮があったとか。硬貨にはマール神の聖印が刻まれているかららしい。
ナシェルはマール神の神託を受けられる高位の加護持ちにコンタクトを取り、カードでやりとりするポイント制がマール神の怒りに触れないか事前に確認を行ったとか。結果はOKだったらしい。
商人ギルドがやろうとしている、カードを介してマールをやり取りできる仕組みはOKなのかは分からないらしいが。
後日発表されたところによると、個人同士でギルドを介さずにカードでマールをやり取りするのはNGとの事だった。基準がよく分からないが、そういうものらしい。硬貨に触れる機会が減ると、信仰心が薄れるとかがあるのだろうか。
商人ギルドの会費だけ払って、銀行がわりにしている一般人もいるが、それはセーフらしい。リアナとかシーラもそんな感じだ。アリシアさんは魔道書店を経営していたから、一応商人扱いである。魔法関係の品なので税は魔術師ギルドと商人ギルドで折半だが。
ちなみにこの前アリシアさんにも相続を行う手続きをしておいた。奴隷や婚姻相手等の家族の関係ではないので、不正がないか少し審査されたが。まあ審査なしに他人にホイホイ相続手続きできたら少し問題ありそうだよな。
後、定期的に一定額を三人の口座に振り込んだりもしている。念の為だ。アリシアさんには少し遠慮されたが、藉は入れていないがほとんど妻みたいなものじゃないかと言うと、照れながら受け入れていた。
籍はまだ入れる予定はない。リアナやシーラは奴隷のままだし、アリシアさんとだけ結婚してもなんか悪いしな。内縁の妻というやつだろうか。
ちなみにマギーは各ギルドに登録はしてない。妖精は人族扱いでないらしいからである。なんか狭量な気がしたがそういうものらしい。
話はそれたが、遊戯ギルドは好調だ。各街にギルドの支店も出せそうらしい。スポンサーの商会も増えたとか。
この前リアナを取り扱っていたローエン商会がスポンサーになって、ローエンリバーシカップというリバーシの大会をやってたりもした。商会の評判が良くなったりしたのかね。なってたらいいが。
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※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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