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本編

八十四話 後継ぎ

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「私が長男のテオドシウスです。テオとお呼びください。お会いできて光栄ですレイセン様」

「俺はクロードヴィッツといいます。クロードで構いません。よろしくお願いしますレイセン様」

 伯爵の息子は、伯爵に似て厳つい次男と、優男風の長男の二人だった。

 あれから三日後、伯爵を連れて王都の伯爵家別邸に飛ぶと、二人が待ち構えていた。連絡がいっていたらしい。

「よろしく。気軽にユウトさんとかでいいよ」

 そう言うと二人は伯爵の方を見つめている。伯爵が頷くと、二人は改めて言葉を返してくる。

「ではユウト様と」

「俺はユウトさんで」

「それでいいよ。伯爵、なんかやたら厳しく言ってたりしません?」

「当たり前だ。実質的には、お前の立ち位置は普通の貴族の地位では測れないほど高い所にある。何かあれば国際問題だ」

「あー、いや、まあそうかもですね。でも三男みたいなことが無い程度なら、別に親戚のおじさんくらいの立ち位置でいいですよ」

「そうか。そういったことが起きない事だけは確実だから安心してくれ。お前達も分かっているな」

「「はい」」

「じゃあ飛びますか、皆で手を繋いでー」

 そうしてイースタスに戻った。婦人や次女や部下達が出迎える。それから歓迎会に移った。

 俺も各地から集めた料理や酒なんかを提供している。唐揚げやカレーなんかも。カレーは流石に三十種類程度の香辛料をブレンドしたやつだが。

「これがカレーですか、少しは王都でも評判は聞こえてきてましたが、実に美味しいですね」

「唐揚げもしみじみとする美味さですね」

 二人にも好評のようだ。

「よかった。そういや聞きたかったんだけど、学園では何を学んでいるの?」

「領地経営術、政治、経済、詩吟、計算、言語、武術、魔法、歴史、社交、演奏、色々ありますね」

「俺も似たようなものですね。スペアですから。まあ俺は武術と魔法に力を入れてますが」

「なるほど。錬金術とか魔道具製作とかもあるの?」

「はい、他にも色々ありますね。戦術・戦略研究とか。各講義も分野によって色々分かれますね。魔法は攻撃魔法、補助、防御魔法、回復魔法、生産職が使う魔法など。後複数種類の魔法の同時使用や、オリジナルの魔法作成の講義もあります。必修の基礎の講義では瞑想をしたり、色々やりますね」

「武術も色々ありますね。無手とか、剣とか槍とかメイスとか弓矢とかもあります。鎌とか斧とか鞭とかの変わりものもありますね」

 へぇー、俺も転生とかしてたら入ってたのかな。

「色々楽しそうだね。何歳から何歳まで学ぶの?」

「十歳から五十歳までならいつからいつまででも大丈夫です。私は十八ですが、後二年はいますね。研究職や教員の試験をパスして学園に残るものもいますね」

「俺は優先して必須の領地経営だけは履修を終えたので、後は武術や魔法を中心に学んでいこうかなと思ってます。俺は十六ですが後二年ですね」

「なるほど。クロード君はスペアって言ってたけど、やりたい事とかあるの?」

「騎士団に入るか冒険者になりたいですね。どちらでも良いですが、より魔法戦士として修行を積みたいです」

「魔法戦士か、カッコいいね。トラキアの近衛騎士団長も魔法戦士系だったなぁ」

「俺、その人に憧れてまして」

「そうなんだ。手っ取り早くレベルを上げるなら魔物を倒す事が一番か、スキルを身につけるならまた別かもだけど。今はどれぐらい強いの?」

「模擬戦相手で来たゴールドランクの冒険者には勝てました」

「おおー、じゃあパーティを組んだらドレイクやキマイラやミノタウロスとも戦えるね。ちなみにどんな戦い方をするの」

「長剣と、魔法発動用の短剣の二刀流ですね。魔法は炎や雷や風、身体強化や加速や頑強なんかを使います」

「おー、成長したら万能型の戦士になれそうだね。」

「はい。それを目指してます」

「私は護身術程度ですが、クロードは父上に似て才能があるようですね。本来であれば自分に似ている方を後継にしたくありません?私は母に似てるのです」

「あーまあそういう部分は俺なら少しあるかもだな。長男以外が後継になれるの?」

「なれますね。自分としてはクロードがイースタスを継いで、私は領地経営の補佐役というのでも構わないのですがね」

「それだと俺が困る」

「と、こういう有様でして」

「これからのイースタスはグリフォンやピポグリフやコカトリスを抱えて、武闘派でも通るようになるし、武闘派が領主でも悪くないんじゃないかな?魔物や騎士団を連れて、たまに領地内外や街道近くの魔物を討伐に行ったりして鍛えていけば良いんじゃない。もしもがあってもスペアのテオさんがいるし。剣はローゼスさんに学んだり、魔法は魔術師ギルドでも学べるし」

「あ、それなら……」

 クロード君は揺れているようだ。テオさんもいいぞ、というようなハンドサインをしている。

 良いタイミングなのでファラフェルをつまみに酒を飲んでいた伯爵を呼んできて今までの経緯を話した。

「テオは私に似てないことを気にしていたのか。クロードは腕を上げたいと、なるほどな。良いのではないか? 後継を替えても。武闘派の貴族というのも今の情勢を考えると悪くない」

「本当ですか父上」

「い、いいんですか?」

「領地経営の実務はテオがやって、おまえは自分と領地の力を底上げできるようにすればいい。後はそうだな、一応テオの子供の中で優秀な者がいれば、分家からでも後継者にする可能性がある、と予め決めておくと良い」

「「わかりました」」

「しかしテオの婚約相手はどうするかな、一応は嫡男だから婚約したのであって、ただの執政補佐官ではな」

「この領地の将来性を考えたら、執政補佐官でも十分好物件ですよ私は。メアリには前々から爵位を弟に譲りたいと言っていましたが、彼女は私に優しくしてくれました。向こうの家にも私が説得を行います」

「そうか。ではテオに手紙を書いてもらうか。いや、直接行くか?」

「俺が送りましょうか?場所はどこなんです?」  

 聞くと前にカラドリウスで末期癌の治療をした婦人のいた貴族家だった。

 その後テオ君とクロード君にはカレー以外の料理を食べてもらった。俺が熱くケバブを勧めたりなんかもした一幕もあった。

 その後歓迎会が終わり、テオ君の婚約者の家に向かうことになった。あらかじめ先方への連絡は終えている。

 転移で屋敷の前に顔を出すと、あ、あの時の、という感じで驚かれた。が、今回はテオ君メインだからな。

 応接間に通され、テオ君と伯爵が座る。俺とヴィンスさんとローゼスさんは立ったままだ。

 向こうの貴族夫婦も着席し、話が始まる。どうなるかな。話が進んでいくと、途中から俺に声がかけられた。

「そちらのユウト様はこれからもイースタスと懇意に?」

「そうですね。恩がありますし、領地をもらいましたがしばらくはイースタスに住む事にしましたし」

「話を聞けば今回のご提案はユウト様のものとか」

「はい。すいませんね。お子さんの婚約相手の事に口出しして」

「いえ、ユウト様がこれからもイースタスと懇意にするのであれば、今回の話受けてもよろしいかと存じます」

「お、それはよかった。でも何故でしょう」

「ユウト様のお力でイースタスは多大な利益を得ています。グリフォンやコカトリスなど。これからもイースタスの発展に関わるであろう事を考えたら、執政補佐官でも十分な役職です」

「なるほど。まあ微力ながら力にはなりますよ。安心してください」

「微力とはご謙遜を」

 そんな感じで上手いことまとまった。屋敷を後にし、イースタスに戻る。

「テオの方は片付いたが、あとはクロードの婚約者探しだな」

「相手を探すのは大変ですか?」

「いや、クロードが後継となった事が知れれば、無数の婚約の申込みがあるだろう。コカトリスの件もすでに新聞に出ていたしな」

「ほとんど隠密だな、すでに調べ回っていたのか。抗議はしないんで?」

「これぐらいならかわいいものだ、構わんよ」

「で、婚約者ですがどうするんです?」

「後継の変更を布告してから、婚約の申し込みがあった貴族を情報屋に洗わせる。それから決める」

「そうですか、良い相手がいればいいんですが。クロード君の好みの相手とかいないんですか?」

「クロードに好みのものがいるか聞いたら、子爵家の次女のカタリナという者がいたな。既に婚約者がいなければこちらに申し込んでくるのではないか?」

「じゃあ情報屋に洗わせて問題が無ければ解決ですね」

「そうなるな」

「じゃあ一旦解決という事で、今日は失礼しますね


「ああ、ご苦労だったな」
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