87 / 108
本編
八十四話 後継ぎ
しおりを挟む「私が長男のテオドシウスです。テオとお呼びください。お会いできて光栄ですレイセン様」
「俺はクロードヴィッツといいます。クロードで構いません。よろしくお願いしますレイセン様」
伯爵の息子は、伯爵に似て厳つい次男と、優男風の長男の二人だった。
あれから三日後、伯爵を連れて王都の伯爵家別邸に飛ぶと、二人が待ち構えていた。連絡がいっていたらしい。
「よろしく。気軽にユウトさんとかでいいよ」
そう言うと二人は伯爵の方を見つめている。伯爵が頷くと、二人は改めて言葉を返してくる。
「ではユウト様と」
「俺はユウトさんで」
「それでいいよ。伯爵、なんかやたら厳しく言ってたりしません?」
「当たり前だ。実質的には、お前の立ち位置は普通の貴族の地位では測れないほど高い所にある。何かあれば国際問題だ」
「あー、いや、まあそうかもですね。でも三男みたいなことが無い程度なら、別に親戚のおじさんくらいの立ち位置でいいですよ」
「そうか。そういったことが起きない事だけは確実だから安心してくれ。お前達も分かっているな」
「「はい」」
「じゃあ飛びますか、皆で手を繋いでー」
そうしてイースタスに戻った。婦人や次女や部下達が出迎える。それから歓迎会に移った。
俺も各地から集めた料理や酒なんかを提供している。唐揚げやカレーなんかも。カレーは流石に三十種類程度の香辛料をブレンドしたやつだが。
「これがカレーですか、少しは王都でも評判は聞こえてきてましたが、実に美味しいですね」
「唐揚げもしみじみとする美味さですね」
二人にも好評のようだ。
「よかった。そういや聞きたかったんだけど、学園では何を学んでいるの?」
「領地経営術、政治、経済、詩吟、計算、言語、武術、魔法、歴史、社交、演奏、色々ありますね」
「俺も似たようなものですね。スペアですから。まあ俺は武術と魔法に力を入れてますが」
「なるほど。錬金術とか魔道具製作とかもあるの?」
「はい、他にも色々ありますね。戦術・戦略研究とか。各講義も分野によって色々分かれますね。魔法は攻撃魔法、補助、防御魔法、回復魔法、生産職が使う魔法など。後複数種類の魔法の同時使用や、オリジナルの魔法作成の講義もあります。必修の基礎の講義では瞑想をしたり、色々やりますね」
「武術も色々ありますね。無手とか、剣とか槍とかメイスとか弓矢とかもあります。鎌とか斧とか鞭とかの変わりものもありますね」
へぇー、俺も転生とかしてたら入ってたのかな。
「色々楽しそうだね。何歳から何歳まで学ぶの?」
「十歳から五十歳までならいつからいつまででも大丈夫です。私は十八ですが、後二年はいますね。研究職や教員の試験をパスして学園に残るものもいますね」
「俺は優先して必須の領地経営だけは履修を終えたので、後は武術や魔法を中心に学んでいこうかなと思ってます。俺は十六ですが後二年ですね」
「なるほど。クロード君はスペアって言ってたけど、やりたい事とかあるの?」
「騎士団に入るか冒険者になりたいですね。どちらでも良いですが、より魔法戦士として修行を積みたいです」
「魔法戦士か、カッコいいね。トラキアの近衛騎士団長も魔法戦士系だったなぁ」
「俺、その人に憧れてまして」
「そうなんだ。手っ取り早くレベルを上げるなら魔物を倒す事が一番か、スキルを身につけるならまた別かもだけど。今はどれぐらい強いの?」
「模擬戦相手で来たゴールドランクの冒険者には勝てました」
「おおー、じゃあパーティを組んだらドレイクやキマイラやミノタウロスとも戦えるね。ちなみにどんな戦い方をするの」
「長剣と、魔法発動用の短剣の二刀流ですね。魔法は炎や雷や風、身体強化や加速や頑強なんかを使います」
「おー、成長したら万能型の戦士になれそうだね。」
「はい。それを目指してます」
「私は護身術程度ですが、クロードは父上に似て才能があるようですね。本来であれば自分に似ている方を後継にしたくありません?私は母に似てるのです」
「あーまあそういう部分は俺なら少しあるかもだな。長男以外が後継になれるの?」
「なれますね。自分としてはクロードがイースタスを継いで、私は領地経営の補佐役というのでも構わないのですがね」
「それだと俺が困る」
「と、こういう有様でして」
「これからのイースタスはグリフォンやピポグリフやコカトリスを抱えて、武闘派でも通るようになるし、武闘派が領主でも悪くないんじゃないかな?魔物や騎士団を連れて、たまに領地内外や街道近くの魔物を討伐に行ったりして鍛えていけば良いんじゃない。もしもがあってもスペアのテオさんがいるし。剣はローゼスさんに学んだり、魔法は魔術師ギルドでも学べるし」
「あ、それなら……」
クロード君は揺れているようだ。テオさんもいいぞ、というようなハンドサインをしている。
良いタイミングなのでファラフェルをつまみに酒を飲んでいた伯爵を呼んできて今までの経緯を話した。
「テオは私に似てないことを気にしていたのか。クロードは腕を上げたいと、なるほどな。良いのではないか? 後継を替えても。武闘派の貴族というのも今の情勢を考えると悪くない」
「本当ですか父上」
「い、いいんですか?」
「領地経営の実務はテオがやって、おまえは自分と領地の力を底上げできるようにすればいい。後はそうだな、一応テオの子供の中で優秀な者がいれば、分家からでも後継者にする可能性がある、と予め決めておくと良い」
「「わかりました」」
「しかしテオの婚約相手はどうするかな、一応は嫡男だから婚約したのであって、ただの執政補佐官ではな」
「この領地の将来性を考えたら、執政補佐官でも十分好物件ですよ私は。メアリには前々から爵位を弟に譲りたいと言っていましたが、彼女は私に優しくしてくれました。向こうの家にも私が説得を行います」
「そうか。ではテオに手紙を書いてもらうか。いや、直接行くか?」
「俺が送りましょうか?場所はどこなんです?」
聞くと前にカラドリウスで末期癌の治療をした婦人のいた貴族家だった。
その後テオ君とクロード君にはカレー以外の料理を食べてもらった。俺が熱くケバブを勧めたりなんかもした一幕もあった。
その後歓迎会が終わり、テオ君の婚約者の家に向かうことになった。あらかじめ先方への連絡は終えている。
転移で屋敷の前に顔を出すと、あ、あの時の、という感じで驚かれた。が、今回はテオ君メインだからな。
応接間に通され、テオ君と伯爵が座る。俺とヴィンスさんとローゼスさんは立ったままだ。
向こうの貴族夫婦も着席し、話が始まる。どうなるかな。話が進んでいくと、途中から俺に声がかけられた。
「そちらのユウト様はこれからもイースタスと懇意に?」
「そうですね。恩がありますし、領地をもらいましたがしばらくはイースタスに住む事にしましたし」
「話を聞けば今回のご提案はユウト様のものとか」
「はい。すいませんね。お子さんの婚約相手の事に口出しして」
「いえ、ユウト様がこれからもイースタスと懇意にするのであれば、今回の話受けてもよろしいかと存じます」
「お、それはよかった。でも何故でしょう」
「ユウト様のお力でイースタスは多大な利益を得ています。グリフォンやコカトリスなど。これからもイースタスの発展に関わるであろう事を考えたら、執政補佐官でも十分な役職です」
「なるほど。まあ微力ながら力にはなりますよ。安心してください」
「微力とはご謙遜を」
そんな感じで上手いことまとまった。屋敷を後にし、イースタスに戻る。
「テオの方は片付いたが、あとはクロードの婚約者探しだな」
「相手を探すのは大変ですか?」
「いや、クロードが後継となった事が知れれば、無数の婚約の申込みがあるだろう。コカトリスの件もすでに新聞に出ていたしな」
「ほとんど隠密だな、すでに調べ回っていたのか。抗議はしないんで?」
「これぐらいならかわいいものだ、構わんよ」
「で、婚約者ですがどうするんです?」
「後継の変更を布告してから、婚約の申し込みがあった貴族を情報屋に洗わせる。それから決める」
「そうですか、良い相手がいればいいんですが。クロード君の好みの相手とかいないんですか?」
「クロードに好みのものがいるか聞いたら、子爵家の次女のカタリナという者がいたな。既に婚約者がいなければこちらに申し込んでくるのではないか?」
「じゃあ情報屋に洗わせて問題が無ければ解決ですね」
「そうなるな」
「じゃあ一旦解決という事で、今日は失礼しますね
」
「ああ、ご苦労だったな」
37
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ただの世界最強の村人と双子の弟子
ヒロ
ファンタジー
とある村にある森に、世界最強の大英雄が村人として生活していた。 そこにある双子の姉妹がやってきて弟子入りを志願する!
主人公は姉妹、大英雄です。
学生なので投稿ペースは一応20時を目安に毎日投稿する予定ですが確実ではありません。
本編は完結しましたが、お気に入り登録者200人で公開する話が残ってます。
次回作は公開しているので、そちらも是非。
誤字・誤用等があったらお知らせ下さい。
初心者なので訂正することが多くなります。
気軽に感想・アドバイスを頂けると有難いです。
エンジェリカの王女
四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。
ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。
天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。
著作者:四季 無断転載は固く禁じます。
※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。
※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。
※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。
出会いと別れと復讐と
カザハナ
ファンタジー
数々の反則的能力を持つカルラはある目的の為、魔力で色合いや姿を偽り危険を承知で一人、子供姿で旅をしていたが、人拐いに拐われる。その時偶然知り合った神子〈みこ〉気質と呼ばれる真眼〈しんがん〉持ちの美少女ティファーラ(愛称ティファ)と出会った事で、彼女と彼女の連れである守護者達(美形三人組。ただしカルラにとって美形男はほぼ鬼門)に付き纏われてしまう話。
※かなりダークな世界観の内容な為、人権無視な組織、内容、表現等多数出てきます。苦手な方はご注意下さい。そこまで書けるか自信はないですが、恋愛要素は後半にちょろっと出てくる予定です。ただし、ハッピーエンドとは呼べない終わり方をすると思います(ほぼ確定で)。ハッピーエンドでないと嫌だという人は回避した方がいいかもです。
※不定期更新ですがご容赦下さい。
※大体一話が1000文字前後で、プロローグと一話目は二つで1000文字程です。
※一応R15にしてますが、主役のカルラの過去がかなりのダークさで、後々R18に変更する可能性もありますのでご注意下さい。
※ファンタジー小説大賞で登録してます!投票宜しくお願いします!!
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~
BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】
異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。
原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。
初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。
転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。
前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。
相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。
その原因は、相方の前世にあるような?
「ニンゲン」によって一度滅びた世界。
二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。
それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。
双子の勇者の転生者たちの物語です。
現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。
画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。
AI生成した画像も合成に使うことがあります。
編集ソフトは全てフォトショップ使用です。
得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。
2024.4.19 モチ編スタート
5.14 モチ編完結。
5.15 イオ編スタート。
5.31 イオ編完結。
8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始
8.21 前世編開始
9.14 前世編完結
9.15 イオ視点のエピソード開始
9.20 イオ視点のエピソード完結
9.21 翔が書いた物語開始
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる