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本編
七十四話 吸血鬼
しおりを挟むアルクさんにメアを見せに行く前に、ベタンクールやパッツォでワインを色々と買った。
ベタンクールでシーレーネスに色々とおすすめを聞いたら、ワインといえばチーズだぜ、と言われた。
ベタンクールは村々ごとに違う種類の良質なチーズが生産されているぐらいのチーズ大国だったらしい。確かにチーズを使った料理が美味いな、とは思ってはいたが、そこまでとは思わなかった。チーズについてもおすすめを教えてもらい、ワインと併せて買う事になった。
パッツォでは土着種のブドウを使ったらしいワインを買った。ついでにつまみにいいかなと、ピザを沢山買った。ワインに合うしな。まあ酒にはだいたい合いそうだが。
ちなみに大皿を何枚も持ち込んで、店で焼いてもらう度に収納した。できるか聞いたら構わないとの事だった。その辺おおらからしい。
◆
「わぁ、こんなに沢山、凄いね」
「最高じゃねぇか。お前らの武器は一生面倒見てやるよ」
テーブルに色んなワインやチーズやピザが並ぶ。イザークさんは早速飲み食いし始めた。二人とも仕事中だったらしいが一旦切り上げたそうだ。
今日は武器のメンテとメアのお披露目、後はスマホの強化についての相談に来た。が、まずは食事だ。
アルクさんは後で食べるかと思ったら普通に仮面を外していた。赤い目に金髪で少し青白い顔をしている。
「分かっちゃったかい? 吸血鬼だよ」
「いや、知りませんでしたがそうなんですね」
「反応薄いね。いや、ほかの娘達はそうでもないか」
見ると他の皆は顔を見合わせている。若干ビビったような感じだ。ナイトメアとタルトはふーんって感じだが。
「昔僕らの種族はヤンチャしていた時期があってね。下手な魔物よりも嫌われているのさ」
「あー、まあ吸血鬼ってそんなイメージがありはしますね。処女の生き血でパーティとか」
「そうそう、そういうやつさ。別に血を飲まなくてもすぐに死にはしないんだけどね。弱体化するのさ。寿命も減る。一番効きがいいのが処女の生き血だね。かなり強化されるし寿命も伸びる」
「後は日光に弱いとか、銀製品に弱いとかあるんですか?」
「光には弱いね。銀系も弱点ではある。でも一番はトネリコやサシザシなんかの木の杭や枝でぶっさす事さ。だからエルフとはやり合いたくないね」
「なるほど、普段は血はどうしてるんです?」
「スラムなんかの住民から高値で買っているよ。後は動物の血だね」
「なるほど」
「僕たちは血を啜るアンデッドのブラッドグールや、チュパカブラや吸血蝙蝠と揶揄されたりもするね。まあ昔を考えたら言われても仕方ないけど」
「そんなにヤンチャしてたんですか」
「かなりね。昔はあちこちで悪さをしてたようだ。身体能力と高い魔力にものをいわせてね。ある時北のハイエルフが南にやってきて積極的に狩り始めたからそれも収まったけど。一時期は他の人族を家畜にして国とか作ってたからね。たしか世界樹に手を出した吸血鬼がいたらしくて、その復讐で狩られまくったとか聞いたね」
「世界樹にハイエルフですか」
「ハイエルフは北にある世界樹の守護をしているとかいうエルフだね。そいつらが攻めてきて、親の吸血鬼を殺さないと吸血が必要になってしまうハーフなんかと結託して狩りまくったんだ」
「今は狩られてないんですか?」
「一応はね。一部の世界樹を信仰してる連中にはまだ少し狙われているけど、まあ悪事を働かなければ見逃されているよ。あ、このワイン美味しいね。チーズも凄い美味しい」
「それならよかった。アルクさんにはお世話になってますからね」
「そう言ってくれるのはありがたいね。まあそういう事だから安心してね。僕は血に味やそれほどの質は求めてないから、最悪普通の動物の血でもやっていけるし」
一応皆も納得したようだ。アリシアさんとマギーはまだ少し引いているが。
「辛気臭い話はやめて飲んで食おうぜ。こんなに美味い酒とツマミがあるんだからよ」
「そうですね」
「そうしようか。このワインとチーズがあれば、血を飲まずにそれだけ摂りながら死んでも悪くない気がするよ。ベタンクールはまだ差別が強いからなかなか行けないけど」
「じゃあたまに持ってきますよ」
「ありがとう。今回は武器のメンテと魔道具の強化だったかい?」
「武器の方は先に俺に見せろよ」
「それとナイトメアの紹介ですね。メア、スライムに戻っていいぞ」
「ワカッタ」
メアがメイドの姿からスライムの姿に変形する。
「うわっ、まさかあの魔法生物か!」
「これは驚きだね。作り物みたいな外見だとは思っていたけど、普通のメイドかと思ってたよ」
「前から人に化けて仮面をつけてましたが、最近着色料を与えたらこうなりましてね」
「そんなんでこうなるのかい。学習速度が想定より早いね」
「そうなんですか」
「早期培養したホムンクルスより早いんじゃないかな。コアに使った迷宮のボスの魔石と、潤沢な魔力の影響かもね。もしかしたら加護もあるかも」
「ああ、なんか俺が加護持ちでしたね。成長速度が上がるとかいうやつ」
「やっぱりね。でも一介の眷属の魔法生物にそれだけ影響を及ぼせるのか……まあ他の素材を含めた複雑な要因が絡み合っているんだろうね」
「そういやこいつは何かの遺伝子を組み込んだんですか?」
「知り合いが使ってたガンマ・バージョン15.9とかいう女性型のホムンクルスの遺伝子だね。色んな種族の遺伝子がブレンドされているらしい。見た目は白髪白肌の美女だね」
「へぇ、そんなのを」
「基本的に流体金属だけど少しは生体部分もあるから、たまに食事を与えてもいいかもね。普通は魔力だけでいいけど人間を真似たい様子だし」
「そうですか。メア、ピザ食べるか?」
「タベルヨ」
メアがスライム体から人型に戻りピザを咀嚼している。俺たちの食事の摂り方を観察していたのか、普通に人と変わらない食べ方だった。
「おもしれぇな、変形する武器に食事を与えるなんて、おら、これも飲め」
イザークさんがワインの入ったゴブレットを勧めると、それは受け取らず俺の持っていたゴブレットを奪って飲んでいた。
「? まあ飲むならいいが」
ゴクゴクとワインを飲んだメアはこう言った。
「カンセツキッス」
「く、ははは。ひひひ、すまねぇな、気が利かなくて。よかったな。慕われてるぞ」
「何処で覚えたんだ?」
「アリシアノモッテタホンダヨ」
「ああ、書庫に恋愛小説を置いていた気がしますね」
「たまに入っていたが普通に掃除してるだけだと思っていたな。文字も学習してたのか」
「やっぱり学習速度が早いね。基盤に関わった僕も少しは鼻が高いよ」
「加工して武器の形状を覚え込ませたのは俺もだがな。何回も難しい加工をさせられて大変だったわ」
「一応パパみたいなもんだから失礼がないようにしろよ」
「ワカッタ。アリガトウパパタチ」
「お、おう」
「はは、まだ子供はいないけど照れるね」
聞いたらイザークさんは息子と娘がいるそうである。娘は武具以外も作りたいらしく色々な経験を積みに他所に行って今はいないらしい。息子は工房で働いている。
「それで魔道具って言ってたがどんなやつなんだ?」
「これですね。こうやって風景を切り取る事ができます」
その場で写真を撮ったり、前に撮った写真なんかを見せた。
「へぇ、面白い魔道具だね。どんなふうにして欲しいんだい?」
「防水、頑丈、部品の劣化防止とかですかね」
「それぐらいなら簡単じゃないか? 魔銀箔や緋金箔は俺が作って回路状に貼るから、アルクに付与させればいい。専門外だがそれぐらいは簡単だ」
「そうだね。防水、頑強、劣化防止はある程度つけられると思うよ。昔精密機器を少し触った事があるから、その時の感覚でいけるはずさ」
「お、やった。武器のメンテと合わせてよろしくお願いします」
「あいよ」
「了解」
その後武器を見てもらったが、リアナのメイスは特に問題は無かった。片手剣は微細な手入れ、シーラのシャムシールは側面の少しの修繕、短剣は研いだりするようだ。
アリシアさんの槍も見てもらったが、こちらも少し研いで付与のバランスを調整するぐらいで良いとの事だった。明日の夕方にはスマホ含めて一通り終えるらしい。
代車ならぬ、代用品の曲刀と槍も貸してもらえた。それなりの業物らしい。工房にいる弟子達の教育用の見本の品だとか。
まだ残っていたワインやピザやチーズは他の工房の者への差し入れにしてくれと言っておいた。アルクさんが残りのワインとチーズを半分は収納し、イザークさんが最後に少しの自前のウイスキーとピザでくぅーっとやっていたが、まだ残ってはいる。
この後追加で買い出しをさせた上で慰労するらしい。一旦失礼する事にした。
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