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本編
六十六話 グリフォン
しおりを挟むマギー用の防具作成と、他の防具の改修も完了したので冒険者家業に復帰である。ポランコさんは少し休業するとの事だった。伯爵からの依頼も含めて、馬車馬のように働いていたしな。休業といってもせいぜい三日らしいが。
アラクネはお留守番だ。たまには散歩に連れ出していたが、今の所戦闘要員にする予定はない。生産の方で役立っているしな。いろいろ隷属の魔法で言いつけてあるから大丈夫だろう。
今日はグリフォンを探しに向かう。南西の山脈の南端だ。近くのサイスベルまでは転移できるので皆で転移する。
サイスベルは畜産業で栄えている都市のようだ。騎士団がプラチナ級のヒポグリフを乗り回し、空を行き交っているのが遠目に見えた。グリフォンもそうだが、ヒポグリフも加速や身体強化や風魔法が使える。この都市の戦力を考えたら、少し他とは比べものにならないかもしれない。
サイスベルを治めているのはなんとかいう侯爵らしい。家紋にグリフォンの紋章が入っているとか。グリフォンの幼体を捕獲してから急ぎ変えたとか聞いた。この街の情報屋にだ。
グリフォンの生息域までの情報を買おうとすると、ちょっと高くなりますよ、と言われた。聞いてみると確かに高い。どうも侯爵家からの圧力がかかっているらしい。そんな風にほのめかされた。
山の麓の草原で馬肉でも焼いていたらやってくるかもしれませんよ、と言われたのでそれを試すことにする。ここの馬肉は生が美味いらしいので勿体無いらしいが。馬刺しか。食べたことないんだよな。市場に行き馬肉を手配する。
バーベキュー用のキットは以前一応用意していてあったのでそのまま北門から山脈へと向かう。
農地を横目に見ながら北の山脈に、皆で身体強化をかけながら走る。俺が見えるところまで転移して、戻って皆を連れてくるでもいいかと思ったが、運動不足の解消になると言われた。なのでそのまま走る。
結構な時間走ると、山のふもとが見えてきたので、良さそうなところでバーベキューをする。馬肉以外の食材もあるが、酒は飲まない、一応だ。
ひとまず普通に皆でバーベキューをすると、グリフォンではない普通の魔物が寄ってきたりした。完全防備に武器も携えていたので何も問題は無かった。というかタルトが率先して燃やしていた。
今回はハーピーの卵を奮発したからな。最近はギルドで他より高めに依頼料を払って納品してもらっていたりもする。その方が経済が回るからな。
食事を終えたのでいよいよ馬肉を焼いていく。アリシアさんが風魔法で匂いを山脈に向かって送ったりなんかもしていた。
警戒態勢で馬肉をしばし焼いていると、山脈から何かが高速で接近してきた。おそらくグリフォンである。皆に話してバフをかけなおす。アリシアさんが周囲の物品にも風耐性をかけていた。物品にもかけられるんだな。そういえば人にかけたら装備にもかかっていたな。
アリシアさんは魔導書にするものよりは高度な魔法が使えるとの事だった。イメージをそっくりそのままは難しいらしい。俺は魔法耐性なんかを中心に組み立てていく。
準備を終えたアリシアさんと二人で防壁を貼っていると、遠距離から風の砲弾を受けた。攻撃はなんとか防げたが、防壁は破られたので貼り直す。
しばらく遠くから風魔法を連発していたグリフォンは、風魔法を止め、加速を使ったのかさらに高速で突っ込んできた。鷲の上半身にライオンの下半身の魔物である。
寸前でタルトが黒炎の壁を作り出したら、かすりながらも急いで急停止していたが。かすってはいたが、すさまじい反応速度だな。
俺は慌てながら封印と解呪を使い、皆で総攻撃に入る。が、今までの魔物と違い不利を悟ったら遠方に逃げたりして埒が開かない。
こちらに向かってくる時に何度目かで魔槍が一本羽を掠めた時がチャンスだった。墜落はしないが、よろめいて着地したグリフォンに皆で向かう。
俺が先制して転移して、高背部から羽に杖を叩きつける。俺はさっさと重力魔法をかけてから転移してなりゆきを見守った。皆時々被弾していたようだが、防具の強化が十分だったのか意に介していなかった。
皆の攻撃によりボロボロになったグリフォンに隷属をかけ続けると、何度目かで通ったので、快癒や再生をしておく。
確かめてみるとオスのようで、巣に戻りたそうにしていた。思いは隷属の魔法を伝い伝わってきた。妻と卵がいるらしい。
なんか可哀想なので馬肉をあげると、喜んで食べていた。生肉のブロックをわたすと、巣に飛んでいった。何か交渉をしてくるらしい。
しばらくすると先ほどのグリフォンと共に高速で接近するグリフォンがやってきた。尋常ではない速度だが、攻撃してくることはなかった。一応魔法で対策をしていたが。
またボロボロになったグリフォンのオスと、その番らしきグリフォンが並び立つ。オスが隷属の魔法を通じて通訳して伝えてくる内容としては、繁殖を強制しないことと、餌と住処を用意すれば付いてくるらしい、卵も持っていけ、との事だった。
メスのグリフォンにも馬肉をあげ、巣に案内してもらう。巣はかなりの高所の崖っぷちにあったが、なんとか辿り着く事ができた。出てきた他の魔物は二体のグリフォンが蹴散らしていた。鎧袖一触、まさに羽虫のようである。魔法を封じられないグリフォンはこれだけの強さがあるのかと冷や汗をかいた。
グリフォンの巣は黄金やメノウなんかの原石が散らばっていた。どうやら自分達や卵の生命力の強化に使うらしい。それらも収納することにした。黄金は幸運の強化や生命力強化、メノウはリラックス化や生命力強化だったかな。
有精卵らしきグリフォンの卵は収納できなかったのでかかえて転移する。生魚なんかはいけたんだけどな。魂の有無だろうか。ハーピーの卵はすべていけた記憶があるが。イースタスに着いた頃には夕方になっていた。
イースタスでは囲まれて取り調べられると言うことはなかったが、大騒ぎになった。しばらくして伯爵も門までやってきた。
「ま、まさか、それはグリフォンの番いか?」
「そうです。いくらか条件はありますが隷属させています。繁殖を強制しないことと、餌と住処の用意ですね」
「そ、それだけでも十分すぎる。抱えているのは卵だな。おまえはなんということをやってくれたのだ。半分冗談だったというのに……」
「半分冗談だったんですか……受け入れはできます?」
「少し窮屈かもしれんが、厩に併設してある大きめの納屋を急いで整備しよう。牧場も拡充せねばならんな」
「じゃあ、そういう事で、後グリフォンは馬肉が好みらしいですよ。暇な時なら俺がときどきサイスベルに買いに行っても良いですが」
「しばらくは頼めるか? あっちのは質がいい。今から定期的な発注をかける」
そんなこんなでグリフォンを伯爵に引き渡した。しばらくしたら伯爵の紋章がグリフォン入りのものに変わっているのかな。今のはなんとかいう花の絵柄だったが。
巣にあった黄金やメノウの原石も渡しておく。前に水の精霊に貰った生命力強化の宝石も渡そうかと思ったが、今は俺の服に縫い込まれていたのを忘れていた。伯爵に話すと、それぐらいならこちらでも用意するぞ!と張り切っていた。生命力強化による繁殖力強化は願ってもないらしい。
卵は鑑定したらメスだったが、シュバルツと相性が良ければいいな。どれくらいで育つのか、シュバルツがいくつなのかは知らないが。よく鑑定を読んだら一年で成体になるらしい。魔物は成熟が早いんだな。
そんなこんなでかけわまる伯爵の部下と、喜ぶ伯爵を眺めていた。半分冗談だったらしいが、おせっかいにならなくてよかったな。
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