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本編
六十四話 糸
しおりを挟む王都に戻った時はえらい騒ぎになった、隷属紋をつけているとはいえミスリル級の魔物である。騎士団が警戒態勢に入った。
俺の身体検査や善悪の魔道具による審査も行われた。一応男爵なんだけどな。しばらく門で待たされて、手持ち無沙汰だったので、アラクネとあっち向いてホイをして遊んだ。他の皆もトランプをしている。
国の騎士団のお偉いさんがやってきて、一応内部で騒ぎにならないように布告を出したと言っていた。だが自衛以外で暴れさせたらしょっぴくからな、と言っていた。それに普通にアラクネは討伐するらしい。一応了解しておく。
門を抜けてギルド前に転移すると、蜂の巣を突っついたような騒ぎになった。急いで近くにいた騎士が安全上問題ないことを叫ぶと静かになったが。
アラクネはそれほど巨大ではないのでギルドには入れたが、冒険者達が戦々恐々としていた。さっきの騎士が先行して入り、また宣言をしていた。手間をかけてすまんね。
「そのアラクネが迷宮のボスですか……一体どうやって隷属させたんです?」
「弱らせて隷属をかけまくったら効いた、みたいな?」
「……こちらで迷宮の消滅を確認できれば依頼完了となります。お疲れ様でした。しかし凄いですね。アラクネを使役するなんて。服を作らせて売らせたらすごい値段になりますよ。糸を出させて染色して売るだけでもかなりになるかと思います。伸縮するのに鋼鉄並に強靭ですからね」
「それもいいですね。肌着なんか作ってもらうかな。アラクネって何食べるかわかります?」
「雑食なのでなんでも食べるかと思いますよ。あ、ミスリルの粉や緋金の粉を食べさせたら、配合された糸を出したりするかもですね。こちらは逆に食べさせたらマズイ可能性もありますので、学者なんかに聞いた方が良いですが」
「あ、それ良さそうですね。聞いてみます」
その後一旦イースタスに帰った。伯爵には先んじて伝えておいたので問題はなかったが、周知が徹底するまでは外に出さないように言われた。
アラクネはスプーンをグーで持っていたが、カレーをガッツいて食べていた。食欲があるのはいいことだな。
アラクネは皆に任せて、俺は知ってる中で一番の知識人っぽいオーガストさんに会いに行った。オーガストさんが言うには、昔何処かの国でミスリルや緋金の粉を飼っていたアラクネに食べさせていたという話がなんかの書物に載っていたのを読んだ覚えはあるらしい。
なので少し試してダメそうなら治療すれば良いんじゃないかと言われた。金属の排出も魔法薬でできるので、問題があれば薬を貰いにくるように言われた。
次はイザークさんの工房だ。ミスリルや緋金はあるが、粉にしてもらわないといけない。あくまで鍛冶屋なのでやってくれるかは分からないが聞いてみるだけ良いだろう。ダメならポランコさんに聞こう。
結果、武具作成の端材の粉なんかをインゴットと引き換えに袋一杯貰った。貴重な金属は少量でも大事なので再利用のために貯蔵しているとか。付与や治金にも使うらしいしな。
ついでにお酒も持ってきたので、アルクさんも交えて少し飲んだ。
アルクさんはナイトメアの成長っぷりを聞いて喜んでいた。やっぱ理論上はそうなるよねぇ、普通の人族には実用性が無いけど、とうんうんと頷いていた。魔力の消費がネックのようだ。まあある程度貯蔵はできるが。やっぱり普通は成長せず。形状変化しない鎧やゴーレムが主流らしい。今回のナイトメアの試作は長年の研究成果の成功例なので嬉しいともこぼしていた。
◆
あれからミスリルや緋金を混ぜた粉を食べさせて見たところ、吐き出す糸に光沢が生まれていた。鑑定してみるとそれらが含まれていることが分かった。アラクネの体調は特に問題ないようだった。
試しに皆の肌着やインナーや下着を作らせると、すごい手際の良さで作成していた。毒を含まない糸も出せるらしい。絹のような肌触りですこしひんやりとしている。身につけるのには最適だな。
アリシアさんは自慢のローブのものよりも良さそうな素材が気軽にできた事に少し複雑そうだった。吹っ切れたのかインナーをいくらか発注していたが。
ご飯はひたすらカレーを要求してきたが、それ以外は従順で人懐っこかったので可愛いものだった。部屋は空いている寝室を使わせたら巣を作っていた。
どうせなら魔法効果も付与してもらおうとポランコさんのところにそれらを持っていくと、ポランコさんは驚愕し震えていた。軽装防具の素材としては最高級の品なのに、普通の肌着や下着に使っているのでびっくらこいたとのことだった。
若干手が震えていたが、たまに糸を下ろす代わりに色々と付与してくれるそうだった。羽付き人型のマギー用の服も作ってくれるそうである。シールがマギーの採寸もしていた。
マギーは頭は猫耳フードが良いとか話してたな。属性が多すぎる気がするが。シーラもわたしもそうすればよかった、とか言っていたのは聞かないことにした。似合いそうだったが今のやつもカッコいいしな。
ポランコさんのところからも粉を貰うことにもなった。余った糸は伯爵なんかに売ろうかな。一応上司の安全性は大事である。
◆
「私に持ってくるのは良いが、先に王家あたりに献上すべき品じゃないのかこれは?」
「そのあたり怖いので伯爵からのものって事にしませんか? 多分俺が飼っているアラクネのものってのはバレますけど、ワンクッション置きたいんですよね」
「そのうち貯まったら運んでもらうか。そういえばペイルーンの王にも持って行った方が良いんじゃないか? カレーが好きなのだろう、そやつは」
「そうですね。糸を多く吐くのもあのカレーのお陰かもですしね」
「悪い事は言わんから戦闘に連れ出すのはやめておけよ。もし死んだら損失がデカすぎる。いや、お前は蘇生ができたか。まあゴブリンぐらいで、死亡後即時は可能、という事ぐらいしか分かっておらんからな。そのうち他の冒険者や魔物の遺骸があったら試してみろ」
「あんまり出くわしたくないですねそれは。アンデッドになってなければ試してみます」
「適当な重犯罪者でもいれば試せるのだがな。今は切らしている。奴隷を使うのもどうかと思うしな」
「その辺りの感覚がマトモな方なのが安心しますよ」
「私は一応は良識派だからな。ハーピーの卵を増やすために、男奴隷に精力剤を飲ませて生贄にするなんて事もしないぞ」
「やる奴がいるんですね。怖い世界だなぁホント」
「黒扱いの重犯罪者の奴隷でもなければあまりそういったことはないのだがな。更生させれば徳を積んだことになるという風潮もあるし」
「奴隷落ちイコール地獄真っ逆さまじゃない可能性があるだけマシではありますね」
「そうだろうな。話は変わるが、いつかグリフォンを見かけたら捕まえてこられるか?」
「ミスリル級ですよね。やってみないことには分かりませんが可能なら試してみます」
「違約金を払ってシュバルツの番にしてもいいし、その子供をシュバルツの番にしてもいい。グリフォンは繁殖力があるから、単にピポグリフを繁殖させられるだけでも莫大な利益になるからな。牧場を新たに作らんといかんが」
「なるほど。シュバルツってオスですか?メスですか?」
「見て分からんか? オスだぞ。まあそういうわけだからよろしく頼む。単体だけでもかなりのものだが、もしもグリフォンの番を捕まえてこれたら、私がやれるものならなんでもやろう。家宝の剣もギリギリ譲ってもいいかもしれんラインだ。娘は婚約者と良い仲だからダメだが」
「そこまではいいですよ。グリフォンってどの辺りにいるんですかね?」
「有名なのは南西の山脈の南端だな。かのピポグリフの産地のサイスベルが近くにある」
「暇ができたら行ってみますかね。そういやなんか野生の馬と繁殖してピポグリフができたりしないんですか?」
「野生だと基本は繁殖相手というより餌と見るようだな。稀にできる事があるようだが」
「なるほど」
気が向いたら行ってみるかな。その後もしばらく伯爵と世間話をした。
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