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本編
五十六話 蘇生と再生
しおりを挟む「マギーのいたとこって何処なんだ?」
「ここよりは寒いとこね。後は近くにトリンって村があった事くらいしか特徴はないわ」
「もしリアナが死んだり魔力が枯渇したら元の場所に戻るんだよな」
「まあそうなるわね」
「マギーには転移場所をこの屋敷の前に指定した帰還のスクロールでも持たせておいた方がいいかな?リアナはそうなって欲しくはないが私財を投げ打てば蘇生させられるかもだし、シーラが蘇生薬を作れるかもだが、マギーは離れ離れになっちゃうしな」
「そうしてくれるとありがたいわね。念話が届くか分からないし。ついでに収納の魔導書も買ってちょうだい」
「それなら在庫がありますよ。帰還のスクロールの場所の指定もわたしが手伝います」
「あっ、じゃあよろしくお願いします」
「承知しました。それとユウトさんの場合は蘇生の魔法をオリジナルで作れそうな気もしますし、試してみてはいかがでしょうか。莫大なお金を積んでそれらをする必要もないかもですし」
「あっ、そうか、自分でできる可能性もありましたね。なかなか出回らない魔導書らしいので考えてませんでした」
「最初はゴブリンあたりで試してみたらどうでしょう」
「なんか最近少し罪悪感みたいなものがあるんですよね、魔物での実験。まあゴブリンはタチが悪い魔物だしいいかな…」
「捨て値で買った奴隷を使うよりはマシでは?」
「この世界の倫理観、俺よりもっと低かったんだよなぁ、そういえば」
「このせかい? あの元素表とかいうのにも関係してる?」
「ご主人様は不思議な知識をたくさんお持ちですよね」
あ、思わず口からこぼれてしまった。この世界における異世界人の扱いとか知らないから今まで言わなかったのだが。迫害されてたら嫌だし。
「あー、気づいたら記憶がなくて森の中でな」
武具店の女性や伯爵にもついた嘘を使った。赤髪の人の話も付け加えた。みなふむふむと言った感じだ
「自分の感覚と違うと、このせかいは不思議だなぁ、となるんだよな。まあそんな感じ」
「ふーん」
「その赤髪の男性には感謝しないといけませんね。おかげで私は幸せに暮らせています」
「私もユウトさんに巡り会えましたし感謝しないとですね」
「わたしもいやなやつに奴隷にされるよりはずっとしあわせ」
「俺はたまに祈ってるぞ。ありがとうございましたって。皆もたまにお願いね」
「わかった」
「「はい」」
「なんか暇を持て余した神みたいなやつね。まああんたに会えなきゃ美味しいお菓子にありつけなかった訳だし感謝しておくわ」
その後マギーに収納の魔法を覚えさせたり、皆が使える帰還のスクロールを用意したりした。帰還のスクロールはかなり高かったな。今の資産からすると普通に買えなくはなかったが。後は蘇生や再生の魔法のテストだが、またゴブリンさんに犠牲になってもらうか。
◆
腕を切り飛ばされたゴブリンが蔦でがんじがらめにされている。泣き叫ぶゴブリンが哀れだが、こいつら結構卑劣な魔物だからなぁ。
漫画なんかで悪魔系の敵キャラが切られた腕をヌンッて回復させてるイメージで再生の魔法を使うと、ズボッとゴブリンの腕が再生された。魔力の消費は5%くらいだろうか。ゴブリンは少し痩せた感じがする。再生のためのエネルギーが必要だったのかな。手始めに再生の方を試してみた。
次にゴブリンの首を切断し、死体に向かってゲームなんかの蘇生確率がランダムじゃない、100%蘇生できるやつのエフェクトをイメージした。
ゴブリンの首と胴体が光り輝き、光が消えると、ジタバタと元気にもがくゴブリンがいた。成功だ。魔力は20%ほど持って行かれた気がする。
「凄いですね。蘇生までできるものは限られていますのに」
「ご主人様が死なない限りはどうとでもなるわけですね。戦い方を考えないと」
「そうかも」
「最近は杖をぶち当てに行ったりもしてたわよね。ひかえたら?」
「せっかく様になってきたのにな。まあ仕方ないか」
「一撃離脱を基本にすればまた変わりますよ」
後で試したら、マギーやアリシアさんも再生は使えるようだった。ギリギリだが。蘇生は無理だった。とんでもない魔力が持っていかれそうになって慌てて止めたらしい。魔力回路に無理をさせないために二人の蘇生の練習は止めた。
そんなこんなで俺は蘇生や再生が使えるようになった。人体実験はまだだが。伯爵に伝えると、再生はともかくまだ人前での蘇生は控えておくように言われた。俺の価値が高まりすぎるのが問題だそうだ。使うにしても迷宮産のポーションを使っているように見せかけろと言われた。それと、騎士爵は役不足すぎるな、とも言っていた。
再生の人体実験は引退した冒険者に試せば良いと言われた。情報屋か冒険者ギルドに聞けとの事だ。
◆
そんなこんなで実験先を探したら、イースタス北の地主が足のつま先がかけてしまって満足に走れなくなった冒険者だった。代金はいらないので試させてくれないか聞くと渋っていたが、俺の黒髪を見て、噂のアレか、となったらしく了承していた。
先に十二分に食事をとってもらい、再生の魔法をかけると、ちぎれたつま先が光り輝き、ズボッという感じで指が生えてきた。筋力なんかは少し衰えているようだが、走るには支障はないようで、その地主はバテるまで走り続けていた。
なんか泣いてもいたな。鼻水垂れ流しながらお礼を言われた。悪質な実験に利用されたり、高額の治療費を請求されるかもと思っていたらしい。それだけ再生のポーションや魔法の費用は高いのか。これもどうにかした方がいいのかね。情勢を考えたら問題だ。伯爵に相談してみるかな。
◆
「要件は比較的安価で作れる再生のポーションのレシピについてだったな。毎度ながらお前は大事ばかりを持ってくるな」
「やっぱり問題ですか」
「魔物の数が増えている以上、戦える人間の数が減るのは避けた方がいい。だが再生のポーションを売っている連中は製法を秘匿し、値を釣り上げている。そういった連中には魔術師ギルドの上位の者たちもいるから、広めれば圧力がかかったり、後ろ暗いものを動かすかもしれん」
「ウルスラからのアレソレも出回っているみたいですしね」
「ああ、アレな。最近は善悪の魔道具より情報屋の方が使えるようになったとか言われる原因の。話しは戻るが、今回は王家に話を持って行ったほうがいいだろうな」
「王家ですか?」
「王家に後ろ盾になってもらう。苦労しているペイルーンへの外交カードにもなるしな、安価で作れる再生のポーションは。シーラといったか、あの娘が情報源という事は秘匿されるが、代わりに恩賞があるはずだ」
「あまり王家とか偉いところと関わりたくないんですけどね」
「私もついて行くからあまり心配するな。後で手紙を書いて置くから、王城に持っていけ。後日話し合いになるはずだ」
「わかりました」
後ほど、伯爵が書いた手紙を王城の門の前にいた騎士に届けておいた。何やら機密性の高い旨が分かる印章だったらしく、騎士はスリーマンセルで足早に去って行った。
少しそのまま待つように言われたので、元の世界のそれより巨大で立派な城だなぁ、と見物をしていると、戻ってきた騎士に今から話し合いがもたれるから、伯爵と錬金術師を連れてくるようにと言われた。
急いで伯爵とシーラを連れてくる。伯爵も少し驚いていた。執務を一時中断して、身だしなみを整え、装飾の多い服に着替えたり、色々慌ただしく準備をしていた。
それから伯爵の王都別邸に移動し、そこから馬車に乗って王城に移動する。ある程度の地位の貴族は普通は馬車で王城に乗り付けるものらしい。
「私が王都に来ていると勘違いされたか? それにしても急すぎるが」
「俺が転移を使えるからですかね……? 特に悪い予感はしないですが」
シーラはのんびりと本を読んでいた。その胆力には恐れ入る。さてどうなる事やら。
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