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本編

五十一話 ナイトメア

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「いけっ、ナイトメアッ」

 黒色の大きなスライムが複数に分裂し、剣の形になって飛んでいく。飛んで行った剣はドレイクを切り刻む。今は完成した魔法生物の試運転だ。色んな武器に身体を変形でき、ある程度の知能も備えている。

「魔槍!」

 分裂したナイトメアを介して魔槍を撃ち込む。魔力を予め大量に蓄積し、隷属の魔法を介してイメージを念入りに刷り込んでおかないといけないが、ある程度の魔法も使える。

「防御!」

 残りのドレイクがブレスを吐いてきたので、近くに転移させ、盾の形状に変化させる。形状の変化や硬度を上げるのにも魔力を大量に使うらしいが気になる程でもない。

 防御しつつ、一本の槍に変化させたナイトメアを飛ばしてドレイクに突き刺し、マギーに声をかけると、マギーが色々と魔法をかける。

 マギーが魔法をかけたドレイクの様子を眺めると、先程マギーが魔法をかけた時より魔法の効きが長い。成功のようだな。

 ナイトメアはダメージを与えた相手の魔法耐性を少し削ることができる。さらに幻惑、睡眠、混乱、魅了などの精神へ作用する魔法への耐性はさらに低下させる事ができる。

「これ、いいわね。私が戦いやすくなるわ」

「仲間の指示にも従うように言ってあるから、直接か念話なんかで伝えてくれ」

「私も後でお話してみます」

「わたしも」

 残ったドレイクを仕留め、戻ってきたナイトメアはスライムの姿に戻った。タルトが近寄って猫パンチを始めるがナイトメアはプルプルと震えるだけだ。一応魔力の補充をしておくか。俺も手で触れ魔力を流し込む。

 リアナのメイスとシーラのシャムシールも受取済だ。メイスはさらに強固になり、重くなった。リアナは最初はそれなりに重く両手でしか振り回せなかったそうだが、最近は片手でも振れるので重さが不満だったそうだ。今回はアダマンタイトを付加した事で強度を増し、重さを増している。

 さっき試運転をしたところ、片手でも両手でも丁度いいくらいの重さだそうだ。バスタードソードみたいだな。

 シーラのシャムシールは魔法の通りがよくなったらしい。刃以外に緋金やミスリルや色々なものでコーティングし回路を刻んだそうだ。重量はあまり変わらないように調整も行ったらしい。後シャムシールの側面の強度も上げたとか。

 こちらも試運転済だ。やっぱりリーチがある方が安心感があるとシーラは言っていた。短剣も悪くないそうだが。

 タルトに猫パンチをされていたナイトメアを見ると、身体の一部を分離して、猫のような姿を作り出した。少々歪だが猫っぽい。タルトはにゃんだこりゃ、というように警戒のポーズをとり、マァアーオーと鳴いている。

「アルクさんは学習していくって言ってたな。最初から子供ぐらいの知能があるとも」

「自律思考できるのはすごい。ホムンクルスみたい」

「なんかそのあたりの専門の人にも手伝ってもらったらしいな」

「なるほど。何かの遺伝子もくみこんだのかも」

「何入れたんだろうな。まあいいか」

 そんなこんなで新たな仲間が増えた。アルクさんは可愛がってあげてくださいね、と言っていたな。愛嬌もあるようだし色々教えていくか。



 今日はシーラが上級錬金術師の資格試験に行っている。俺も魔術ギルドについていった。たまに顔を出さないと手配されるからである。話を聞いたらシーラが申請したお肌ツルツルポーションはそれなりに売れているそうだ。今までのものより効きがいいらしい。材料費がそれなりにするので庶民向けではないそうだが。

 試験は結構時間がかかるらしいので、俺は魔術師ギルドの瞑想室に籠っている。なんかいい匂いの香が炊かれた薄暗い部屋だ。防音も施されている。

 アリシアさんに言われた通りに瞑想を行い、呼吸法なんかも試していく。体内の魔力を動かしたりなんかもする。ある程度集中できたところで色んな魔法のイメージを浮かべていく。

 実は小さい頃、父親に似たような事をさせられていた。瞑想とか呼吸法とか。魔法がどうとかではなく精神修行の一環として。遡り瞑想とかもあったな。そのうち他の事も教えると言われたが、その前に父親は行方不明になった。母親は物心ついた時からいなかったからそんなものか、という感じだったが、父親がいなくなった時はショックを受けた。

 一応は遠い親戚が親代わりとなったが、早々に一人暮らしを始めた。大学生になった頃にはもうあまりそういった事はしなくなったな。少し懐かしくなる。

 魔法がそれなりに使えるのもその頃の経験が生きているんだろうか。元の世界にも魔術師とかいたのかね。下手したらあちらで現代ファンタジーモノに関わっていたのかもしれない。少し興味深いな。今となってはこっちの方が気楽そうだな、となるのだが。

 修行を終えて瞑想室を出てロビーに出ると、ちょうどシーラが歩いてきた。頭の上で○を作っている。合格したようだ。

「難しかったか?」

「そんなには、もう少しで特級でも合格できるかも」

「上級ってどんな利点があるんだ?」

「錬金術をする場所の縛りがなくなる。後貴重な素材なんかの手配がしやすくなるし、魔術師ギルド所属の店での割引率が上がる。後講義なんかができる」

「なるほど。場所の縛りや割引は聞いてたけど色々あるんだな」

「あ、後今までは見れなかった資料なんかも閲覧できるようになる。私は資料室に行ってくるから先帰ってて」

「わかった。念の為ナイトメアをつけておこう」

 ナイトメアを収納から取り出しシーラの指示に従うように言っておく。魔法通りは鎧姿の人がたまに歩いていたが、アレは魔法生物だと後で知った。魔術師が持ってる武器なんかもたまにそうらしい。前はあまり長時間通りに滞在した事はなかったが、最近近くのベンチで通りを眺めて暇を潰すと、大きなゴーレムらしきものが通りを歩いていく事もあった。一応他の人の邪魔にならないように普段は収納したり、何処かにしまったりしているものもいるそうだ。

 ギルド内でもチラホラと魔法生物を連れている人を見かけたので問題ないと判断する。

「メアちゃんはわたしの護衛をする事、不用意に攻撃したりはしない事。わかったらこう」

「(プルプル)」

 シーラが○を作るとナイトメアも真似をしていた。大丈夫そうだな。

 少し他によってから家に帰るとタルトがいたので買ってきたマタタビを繰り出す。タルトは一心不乱に身体を擦り付けていた。ゴロゴロロと喉を鳴らしたりウニャウニャと変な鳴き方をしている。

「酒に酔ったマギーみたいだな」

「失礼ね。こんなにだらしなくはないわよ」

「伯爵から貰った酒を飲んだ時はもっと酷かったんだけどな。壁の中に埋まったりしないように気をつけろよ」

「うっ、わかったわよ。でも美味しかったんだもの」

「確かにかなり美味しかったな。魔法で作られたものだったのかも。それか原料がいいのかな。今度いくらぐらいするのか聞くか」

「私もまた飲みたいですねぇ。でも高かったら無理しないでくださいね」

「わかった」
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