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本編

五十話 ノッカー

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 緋金のあった鉱脈の祠に、アルテミシア数本と手紙を供えておく。手紙の内容は、以前貰ったインゴットの価値からすればアルテミシアはいくらでも買えるものなのでたまに供えるという事、あとはロンドミアの水の精霊に、他の精霊が飲む分を含めて定期的に大量に卸すという事だ。

 皆とラベンダー畑で採取しながらリラックスしてきた帰りだ。お供えも終えたので帰ろうとすると、声をかけられた。

「ここにはもう大したものは無いぞ」

 振り返ると、襦袢で身体を覆った浅黒い小人が立っていた。服はボロの布切れだが、貴金属で作られた装飾品で身体を飾り付けている。これがノッカーか。

「手紙は読みましたか?」

「手紙、これか? ……翻訳トランスレートを使うか」

 古代のドワーフ語ではなく、普通にこちらでの共通語で書いたからな。慣れてきてたし。読めない可能性を考えてなかった。

「律儀なやつだな。久しぶりに飲んでキマった勢いで金属を集めて、寝床に使う以外は大して使い道がないからくれてやっただけなのに」

「こっちが貰いすぎなんですよ。普通にあれだけ集めるならかなり苦労します」

「で、たまに持ってきてくれるって? あとアイツの所に行けば飲めるってか」

「そうなりますね」

「ふぅむ。これからは普通に飲めるのか。こっちは寝床の一つだから移動するかもしれんし、これからはアイツの方だけでいいぞ。他の連中と飲んだ方が楽しいしな」

「じゃああっちにまとめて持っていきますね」

「そうしろ。それとそうだな、そっちの娘の鎧になにかしてやろう。精霊との相性もいいようだしな」

「ありがとうございます」

 ノッカーはリアナに近づき、鎧に触れて手を光らせる。鎧も次第に光を放つ。

「硬度を自由にコントロールできるようにした。単に硬くするだけでは形状変化の邪魔だしな。アダマント程に硬くするのは長時間は持たんが、攻撃を受ける時だけなら便利だろう。後は柔らかくもできる。こちらは長時間でも大丈夫なはずだ」

「ありがとうございます。精霊様」

「精霊様はやめろ。それと今から俺が攻撃するから、鎧を硬くしてみろ」

 ノッカーは徐にツルハシを取り出しリアナに叩きつける。いきなりやりやがったー!と心配したが、特に問題はないようだった。ツルハシは弾かれ、鎧も大して傷ついた様子はない。

「これはミスリルの鎧ぐらいなら軽く貫けるものだから、上手く使えているようだな」

「安全性が増したな、リアナ」

「そうですね。ありがたいです」

「その片手剣や他の仲間の装備も少しだが頑丈になるはずだ。俺の小さな分体が宿っているからな。見たところその娘もそこまでの魔法の才は無さそうだが、簡単な金属細工ぐらいはできるようになるんじゃないか。鎧との相性もいいようだしな」

「俺やシーラの装備もか、凄いな……」

「金属細工ですか……ミニチュアの置き物とかで試しますかね」

「精霊王なんかがその鎧を使ったら、俺たちのような普通の精霊の比ではないがな。では俺は行く」

 そう言ってノッカーは消えた。精霊王ね、ダメな人のイメージだが凄いんだな。

 宝石の査定はしてもらったが、インゴットがどれぐらいの値段になるかは聞いてなかったな。イザークさんに聞いてみるか。



「ギザンですか。また厄介な魔物ですね。イースタスからは離れていますが」

「伯爵にも念の為伝えてあります」

「騎士の巡回の優先度などにも影響しますからね。立場がありますし、こちらが二番手でも文句は言いませんよ。それとこの前の酒の件ですが」

「効果はありましたか?」

「そのようですね。卿の時ほどではないですが。近く武具の値上がりも収まるかと思います。確証がとれましたので、今回の情報料に色をつけて追加でお支払いしますよ。先方も事が成功した際に追加で支払ってくれましたからね」

「それはよかったです。最近物騒ですからね」

「ちなみに、ユウト様は何処のアルテミシアをご購入なされたので?」

「あー定期的に大量発注することになったので、そっちの余裕があるかどうか。精霊に頼まれましてね」

「なるほど。ご迷惑になってしまいますか」

「ただヒントとしては精霊が一番好きだと言った酒造のものだったとだけ」

「なるほど、同じ酒でも違いがある訳ですか。そちらの酒造元には心付けを渡して、優先的に購入できるような契約はされてますか?」

「いえ、特には。関係者に宝石をチップとして渡したくらいですね」

「ちなみにその宝石の価値などは……」

 宝石屋で査定してもらった金額を伝える。

「それであれば向こうもそういったつもりで話を進めているはずです。一応念の為確認した方がいいですが。確認がとれましたら、精霊が好む酒にも良し悪しがあるという情報を売り出しましょう。それであればある程度大丈夫かと思います。貴族などが出てきた場合は卿や伯爵が後ろについているという情報を流しますので」

「気を回してもらってありがとうございます。あ、そうだ。インゴットが沢山あるんですが、どれぐらいの金額になるか査定ってできますか?」

「可能ですよ。奥にお持ちください」

 奥の部屋に案内され、イザークさんに渡していない分のインゴットを並べる。

「希少金属が沢山ありますね……えーと、これは確か今の相場だと……もっと大きな秤を持ってこないと……」

 それからしばらくして査定は終わった。使ってない分だけでもかなりの金額だ。感謝しないとな。アルテミシアの原料を栽培しているところを抑えるとかもした方がいいのかな。値上がりしそうだしな。

 その辺りの事も情報屋に相談した。値上がりの可能性は確かにあるという。生産地をリストアップしてもらった。後は王都のギルドの担当者に、酒造元とのアルテミシアの優先販売契約から、原料の生産地を抑える事などを任せればいいと言われた。酒造元の設備投資のための融資をしてあげてもいいんじゃないか、とも言っていた。可能であれば材料の原産地への支援も。最近物騒だしな。

「精霊の力を借りられれば、少しは情勢がよくなるかもしれませんね。古代帝国の崩壊ほどの事となるとわかりませんが」

「ロンドミアの騎士団も精霊に力を借りたりしてますからね。よくなることを願います」



 王都のギルドに行って、担当者ともろもろの話をした。一応こちらに優先して販売する話に持っていくつもりだったようだ。設備投資や原料の生産地への支援についても乗り気だった。

 後ほど報告書を書くのが大変そうですが頑張ります、と担当者は言っていた。小間使いをした時にどんな仕事をしたかは報告書を書かないといけないらしい。まあ出世しやすくなりそうだし頑張るそうだが。頑張ってくれ。

 商会なんかを作って独立するなら支援するとも言っておいた。色々手を広げる事になるからな。そうしたら、レイセン様を会長にして自分が回すという形でどうでしょうか、と言われたので了承しておく。

 商会の設立手続き自体は簡単なのですぐに済んだ。ランクが低いと審査なんかが手間のようだが。副商会長には担当者を任命しておいた。その時知ったが、名前はナシェルというらしかった。商会の名前はレイセン商会だ。なんのひねりもない。

 それなりの金を商会用の口座に振り込み、ナシェルにあれこれやってくれ、と言っておいた。発明品の特許使用料はゼロである。まあアルテミシア関係がメインの目的の商会だが。後は貧困層への支援をある程度行うように言っておいた。

 ギルドでの出世も悪くはないが、商会の運営も夢だったようで、さっさとギルド員を辞め、商会の運営に乗り出すそうだ。トランプ、麻雀、プリン、アイスクリーム、リバーシ、スポンジケーキなんかは申請済だが、囲碁や将棋やチェスなんかもテコ入れに使うかな。モノポリーなんかの人生ゲームもありか。まあ暇ができたらだな。

 手配されていた五百本のアルテミシアを受け取ってギルドを後にした。
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