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本編
四十四話 世間話
しおりを挟む「災害ですか?」
「ああ、西のペイルーンの方で起きたらしい。大地が揺れ、氷や雷が降り、竜巻なんかも発生したそうだ」
「それは大変ですね。被害状況はどんな感じなんです? こっちは大丈夫なんでしょうか」
「詳しい事はわからんな。過去幾度か各地でそういった事があったと聞いた事はあるが、私の祖父の代よりもっと前のことだ。トラキアは大丈夫だとは思いたいが、どうにもな」
「最近はあちこち物騒なようですね」
「そうだな。あちらの国は最近は新たにできる迷宮の数が少なく平和だったらしいが、ままならんな。あちらも災害の後から魔物が増えているらしい。かつての帝国が滅んだ時のような事が起きなければいいが」
「伯爵にはよくしてもらってますし、できる限りは力になりますよ。本気で危なくなったら何処かに逃げますが。いい場所があれば教えてください。余裕があれば伯爵も含めて連れて行けるだけ抱えて飛びます」
「その時は頼む。避難先だが、一旦は王都が安全かもしれんな。あそこは対魔物用の結界がある。情勢が悪くなってきたら他も考えんといかんが、領地から逃げた上に王都からも逃げればさすがに爵位を剥奪されるな。それでもなりふり構っていられなければ考えよう。まあお前が他に飛べればだが」
「そういえばそうでした。そのうち転移先を増やしておかないと」
「またウィルテル辺りに頼むか、魔術師ギルドで転移が使えるものを探してみろ。二人で一つ二つの街を越えるぐらいはできるものがいるかもしれん」
「ウィルテルっていうと……ヨシカさんか。そうですね。ヨシカさんに頼むか、魔術師ギルドで探してみます」
「そうしろ。それなりに物騒な時期だが、お前が近くに現れた事だけは幸運だったな。ロイヤルストレートフラッシュか役満かといったところだ。まあお前にとっては災難だったかもしれんが」
「家族と言っては烏滸がましいですが、ここに来たおかげで大事なものもできましたからね。むしろ運がいいと思っています」
「そうか? 生き別れになった恋人や家族がいるかもしれんし、それなりの地位があったかもしれん。まあ記憶がないようだし、美しく強い奴隷を二人抱えて、金にも困っていないのならそうなのかもしれんな。最下級とはいえ貴族でもある。私ならどうなっているか分からんな。家宝のおかげで冒険者としてある程度やっていけたかもしれんが、記憶を取り戻した時の喪失感は凄まじいだろうな。下手したら自刃するかもしれん」
「そ、そうでしたね。考えてもみませんでした」
うっ、騙している手前心が痛い。
「少しは考慮しておけ。まあ記憶を取り戻してさっさと他所にいかれると困るのだがな。最悪逐電しても許すが、可能な限り配慮しろ」
「分かりました。まあ転移や念話がありますし、元いた場所が簡単にはこれないような遠い国でもない限りは顔を出しますよ。危ない時はかけつけます。それに記憶を取り戻しても帰りたいと思わないかもしれませんし」
「そうか。余っていた爵位をくれてやっただけだが、お前は義理堅いな。三男がお前の奴隷を欲しがっていたが、後で拷問しておこう」
「ああ、やっぱり、ていうか拷問は流石にマズイでしょう。黒扱いになりますよ」
「後継でもないくせにつけ上がった三男など奴隷に落とさないだけマシだ。それにこの場合は大丈夫だ。伯爵家の品位を保つためという大義名分がある」
「そうなんですか……まあこちらに危害が及ばない限りは厳重注意ぐらいでいいですよ。何かしようとしたらそうしてください」
「爵位をくれてやったのだから安くで買い取れるだろうし、独り立ちする時の支度金はいらないから買ってくれ、だぞ。あと少し冷静でなければ肉片にしていたわ」
「それはなんというかアレですね。やっぱり死なない限りは好きに、いや、軽く痛めつけておいてください」
「そうする。すでに何発かくれてやったがな。何処かの執事にするか、御用商人のところで働かせるかと色々考えていたが、そのうち手切れ金を渡して放り出すか。態度が悪いようなら拷問した上で放り出し、街への出入りを禁止することも考えよう。いや奴隷にした方がいいか。まあそちらに迷惑がかからないようにする。すまんな。一体誰に似たんだか」
「貴族って権力を傘にやりたい放題のイメージでしたのであまり驚きはないんですが、結構厳しいんですね」
「多少はやりたい放題はできるぞ。一般人とは善悪の基準も少し変わるようだしな。実のところ他の貴族の家であれば、お前から買い取ろうとしていたかもしれん。爵位の剥奪をチラつかせてな。ウチはそれなりに良識のある方だからいいが」
「げっ、やっぱ貴族って怖いんですね。ロンドミアの湖に行きづらいなぁ。王都なら貴族街や王城に近づかなければいいかもですが」
「何か面倒に巻き込まれたら、私の名前を出すか、その貴族のいる領地や、その貴族と取引のある商会での発明品の製作や販売を禁じろ。前者でもある程度ならなんとかなるし、後者なら何もできなくなる。泣きついて詫びてくるかもしれんな」
「そんなに人気あるんですか? 発明品」
「巷での人気も凄いが、少し前に聞いたところでは王族が気に入ったらしいな。情勢が悪いから不満が溜まった民衆が怒るかもしれん。冒険者もいなくなり魔物の脅威に怯えるかもしれん。それで税収が減り、商会との取引もなくなり干上がるかもしれん。領地の物価も上がり、民衆が蜂起するかもしれん。さらに領地の管理ができなくなれば、お前に難癖をつけた事が気に入らない王族も喜んで爵位を剥奪するだろう。下手したら処刑だな」
「うわぁ。そうなると凄いですね。領地がない貴族でも大丈夫かな?」
「他の貴族の下で働いているものは追い出されるし、国で働いているものも酷いことになるだろうな。先程他の貴族ならお前の奴隷を買い取ろうとしていたかもしれんと言ったが、それは発明品が無い場合だ。私がヤツを始末してしまいそうになったのは、発明品の事も大きい。私は発明品の事がなくともそういった事はしないがな。分かるか? バカ息子の浅はかな考えで全てが滅びに向かうかもしれなかった気持ちが。殺さないだけまだ愛がある」
「よく分かりました。自分も似た状況ならそうしていたかもしれません」
「そういう事だ。今まで説明した理由で、余程のバカでもない限りは突っかかってはこないだろう。バカはいるにはいるが、周りの部下が必死で止めるだろうな。周りもバカだらけならわからんが。まあ、お前と揉めた事が広まれば、特に何もしなくても周りから敬遠されて反省するだろう。そうでなければ、まあ先程言ったとおりにすればいい」
「まあ、関係ない一般人にも迷惑がかかりそうですし、ある程度は無視してさっさと逃げますよ。かなり困った事になればそうしてみます」
「まあそうだな。無辜の民に被害が出るのはあまり良い事ではない」
「でもそれなら逆に怖がられそうですね」
「臆病なものであればそうかもしれんな。まあ普通の良識のある貴族なら、自分と同格か、少し上の立場のように接するくらいだろう。ロンドミアで会った貴族はそうだっただろう。ウィルテルもだ」
「まあそうでしたね。てかウィルテルさんも貴族なんですか」
「近衛騎士団や宮廷魔術師は騎士爵相当の扱いをされる。引退してもな。まああいつは領地のない男爵で、息子に爵位を譲り渡しているが」
「そうなんですか。家は質素でしたが」
「別に貴族といっても贅沢する者ばかりでもない。爵位はそこそこなのにそこらの商人や名うての冒険者以下の生活の者もいる。まあ貴族同士の付き合いなんかである程度見栄を張らないといけない者もいるし、単純に贅沢が好きなものもいるが」
「伯爵はどうなんです?」
「見栄を張らないといけない部分もあるし、それなりにランクの高い生活に慣れてもいる。半々だな。まあ、必要があれば節制するぐらいはできるが、それなりの税収はあるしな」
「なるほど。見栄を張る必要はないですが、似たようなものですね。稼ぎがないならそれなりの生活をしますが、余裕があるならまたそれなりですね」
「大体のものはそうだろうな。お前はもっと贅沢ができそうだが。手始めに屋敷を手配するか?」
「仲間が錬金術をするので、錬金術を使ってもいい場所か分からないですからね。管理も大変そうですし」
「そういえばそうだったか、それにペットの事もあるし、使用人を雇うにしても口が固くなければな。まあ今なら知られても大したことにはならんと思うが」
「そっちもありましたね。…実のところ、また爆弾が増えまして」
「今度はなんだ、ドラゴンのヒナでも手に入れたか?」
「ある意味似たようなものですね。実は……」
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