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本編
三十九話 ポーズ
しおりを挟む朝、皆で王都探索にでも行こうかと話していたら、玄関のチャイムが鳴らされ、声が聞こえてくる。
「すいませーん、ポランコ工房の者でーす。防具が完成しましたので引き取りにきてくださーい」
玄関に向かいドアを開ける。前に見たことのある、ドワーフらしい少女がいた。
「お、シールだったか、伝えに来てくれてありがとう。よく迷わなかったな」
「いえ、ここわかりづらくて、何回か別の建物と勘違いしましたよ。でも次からは大丈夫ですね。レイセン卿がお得意様になってくれるなら次があるかもです」
「その辺は防具の性能次第かな。シーラと向かうから少し待ってくれ。送っていく」
シールを待たせ、シーラと出かける準備をして、三人で工房前に転移した。なんかややこしいな。中に入るとポランコさんが防具を用意して待っていた。防具と共に空き部屋に押し込まれる。
「どうだ、着心地は」
「わるくない」
シーラは軽くストレッチしたり、蹴りを繰り出したりしている。特に動きにくいという事も無さそうだな。
シーラは着ている女性物の防護服に合わせた、斥候職が着けるようなスカウトフードを被っている。必要な時は目から下を隠せるようにもなっているし、裏地は合金が縫い込まれている。足には装甲で補強されたロングブーツ。防護服の下には合金製の鎖帷子のシャツ。
「俺の方も、悪くないな」
軽く身体を動かしてみるが、特に動きにくいという事はない。シーラの真似もしてみるが同様だ。
俺が着ているのは、腰まで丈のあるフード付きのロングコートと装甲で補強されたロングブーツである。コートの裏地にはシーラのスカウトフードと同じように合金が縫い込まれている。
全て防具の性能を底上げするエンチャント付きの逸品だ。魔法耐性強化や頑強さ向上、衝撃吸収、軽量化なんかが付与されている。ランクはエピックとなっていた。主に希少な鉱石とバイコーンの革を使用している。少し他の素材もミックスしているそうだが。
念を入れ、外に出てシーラと二人で身体強化を使った状態で走り回ったり素振りしたりしたが、動きやすい以外の感想はなかった。中に戻ってポランコさんに礼を言う。
「完璧に身体に合わせて作られている。その上防御力もかなり高そうだ。これならミスリル級相手でも命を預けられる。ありがとうポランコさん」
「ありがとう」
「こちらとしても、いい素材でいい仕事ができていい経験になった。嬉しい言葉だが、デザインはどうだ? 少しはそちらも気を遣ったが」
「シーラはお洒落な斥候職って感じだな。染色して服と色合いを合わせてるし、デザインも似せてる」
「ユウトは真っ黒でアサシンみたい、魔銀糸や緋金糸で装飾されててかっこいいからいいけど」
「そうか、ならよかった。俺は作れる防具の性能には自信があるが、恥ずかしながら装飾なんかは不得意でな。弟子達に手伝ってもらったんだ」
「ポランコさんにも弱点があるんだな。後でこっちが感謝していたと伝えておいてください」
「了解した。滅多なことがなければ大丈夫だと思うが、何か問題が起きたら持ってきてくれ。できる限りの事はさせてもらう」
「その時はよろしくお願いします」
そんなこんなで装備を着けたままウキウキ気分で家に帰った。製作で余った素材は受け取り済だ。早速マギーに大きめの鏡を作ってもらうと、俺はスタイリッシュアサシンウィザードって感じの姿だった。カードゲームのキャラにいそうな横文字が並んだな。まあ見栄えはいいから喜んでおこう。
シーラもシャムシールを持ちポーズをキメていた。シーラにしてはテンション高いな。かなり嬉しそうだ。
しばらく二人でオリジナルのカッコいいポーズをキメて遊んでいたが、他の皆が不満そうだったので、皆でポーズをキメて遊んだ。タルトは何故か途中招き猫のポーズをしていたが。
タルトにも装備とか必要かな。いや、姿を変えたりもするから難しいかもしれない。それに胸の隷属紋は弄って小さくし、毛に隠れて目立たないようにしたから、何も着てなくてもそっちは特に問題はないはずだ。
ちなみに、普段はリアナもシーラも隷属紋は隠れている。リアナは全身鎧、シーラは錬金術師なんかが使う手袋である。俺の奴隷であることを示す際には、鎧を変形させたり、手袋を外している。前ギルドでナンパされた時なんかもそうしていた。ナンパしていた奴らは俺の事を見ると、げっあの噂の連中かよ、みたいな感じで去っていったが。
話は戻るが、鑑定した感じ、問題となるタルトの耐久力は、ミスリル級の魔物だけあってかなりのものであった。他も軒並み高かった。というか低いものがない。
下手したら俺たち全員と戦ってもいい勝負をするかもしれない。俺の封印が上手くかからなかったらだが。タルトの魔法耐性と、俺の魔法強度を考えると、微妙なラインなんだよな。魔法強度は使える魔法の平均的な強さなので目安にしかならない。
ミスリル級が複数来た場合、一体を受け持ってもらえたら助かるな。後でタルトに話しておこう。
▪️
「精霊の寝床ですか」
「その可能性が高いかと」
前に緋金を採掘した時に出てきたゴーレムは、精霊が作ったものではないか、という事だった。装備の慣らし運転がてら南に向かおうとなった時に、情報屋のことに思い至った。向かって聞いてみるとそんな答えが還ってきた。
「同種の精霊でも好みはバラバラのようですが、気に入った場所を荒らされないように色々と手を打つ事があるようですね。おそらくはあの鉱脈を気に入った精霊が守護者として用意したのがあのゴーレムなのでしょう。本宅なのか、たまにくる別荘なのか、もうほとんど使っていない場所なのかは分かりませんが」
「なるほど。また採掘しても大丈夫ですかね?」
「はっきりとしたことは言えませんが、大体の精霊は人族を敵視してはいないので、必要だから採取したというのであればそれほど怒らないのでは。鉱石を喰らう魔物や、何かの材料に使う魔物、コボルトなどを近寄らせないために設置したくらいかと」
「変わり者の精霊がいたら少し怖いですね」
「お酒でも供えれば多少は機嫌が良くなるかもしれませんよ」
という話だった。前に言ってたパペッタや、迷宮から湧いたのでは、という話はどうなのかも聞くと、あのクラスのゴーレムを作れるパペッタはそういないし、あのクラスのゴーレムを吐き出すレベルの迷宮はあの辺りにはまだ湧かないのではないか、との事だった。
なんか迷宮は勝手にできるのはそうだが、魔物をあらかた吐き出すと勝手に消えたりもするらしい。その消えるまでの期間は短ければ短く、長ければ非常に長いらしい。
研究者の仮説によると迷宮は地脈の余剰な魔力を放出する装置であり、魔物やアイテムなどを創造して魔力を消費しているのではとの事だった。
なんか天気予報や地震予測みたいに色々基準があるらしいが、ざっくり言うと、まだあそこの地脈には余剰の魔力は溜まっていないのではとの事だった。
まあ最近は不自然な場所にポッと出てくる迷宮も多いので、絶対にとは言えないそうだが。
前回繰り越しのサービス分以上に色々聞いたので、代金を払って帰った。勉強になったな。
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