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本編
三十五話 タルト
しおりを挟む「その子がニャイトワラスですか」
「ニャア」
マギーの事も知られているし、折角なので連れてきた。マギーには前に会わせた。やっぱりお菓子が好きなんですねぇ、と言っていた。マギーは飴玉を貰って頬を膨らませて喜んでいた。
「アイトワラスは有名ですが、ニャイトワラスは聞いたことがありませんね。亜種というからにはアイトワラスと同じような事ができるかとは思いますが」
「アイトワラスはどんな事ができるんです?」
「主に火炎魔法を使いますね。後は姿を消したり、飛んだり、回復も使えるようです。他にも小型のドラゴンに化けてブレスを吐いたり、普通の鶏に化けて獲物を油断させたりします。身体能力も高いですね。等級でいえば希少品程度の防具では締め殺される事もあります」
「か、かなり強そうですね。回復までできるのか」
「ミスリルの中でもかなりの強敵ですね。群れることがほとんどないのが救いでしょうか。複数を相手にすると普通なら死を覚悟しますね。空腹でなければ襲ってこないですし、卵で気を引けるのも大きいでしょうか。私達も一度依頼を受け、ハーピーの卵を与えてみると大人しくなったので、依頼主から渡された隷属のスクロールを使おうとしたところ、急に暴れ出し何人か死ぬところでした。卵を与えたものには積極的に攻撃せず、途中で気が変わったのか鳥になって飛んで行ったのでどうにかなりましたが」
「そんなに強いんですか。それにハーピーの卵が好きなのは本当なんだ」
「はい。近くにいた者を締め上げつつ火炎を放ってきました。普通のミスリル級程度の魔法なら私でもある程度は凌げるのですが、普通の炎ではなかったので困りましたね」
「もしかして黒い炎ですか」
「はい。普通のそれと違いなかなか消えないのです。魔法耐性や火炎耐性を皆にかけていましたが、消すには氷結魔法が必要でした。氷結耐性はかけておりませんでしたので、気づくまでにかなりやられてしまいましたね。情報収集不足でした」
「こいつも口から吐いてましたよ。レーザーみたいな感じでしたね。それになかなか消えませんでしたのでマギーが氷結魔法を使っていました。同じ感じですね」
「細い光線のようなものですか。私達が出会った個体は炎の球や、鞭のようなものを使っていましたが、まあだいたいは同じですね。その子もやっぱりアイトワラスなんですねぇ、亜種だそうですが」
「ナーオ」
アリシアさんが指を向けると鼻を押し当ててから舐めている。そんなに凶悪そうな魔物には見えないのだがな。まんま普通の猫だ。
「お前も何かに変身できるのか?」
「ンン」
カラスのような鳥に姿を変えた。次はネズミ。色々とできるようである。蛇やドラゴンにはならなかったが。
「これだとアイトワラスを欲しがる者が多いのもわかる気がしますね。ただでさえ強力なのに多種多様に姿を変えられる。回復や鑑定偽装まで使う。身辺に置いておけばどんなに安全か。猫にもなれるならペットにもなりますからね」
「そうですね。鑑定偽装まで使うとは聞いたことがありませんが、それがなくとも非常に貴重でしょう。魔銀貨が何百枚飛んでいくかわかりません。思えばあの依頼主は依頼料をケチっていましたね。成功報酬は目の眩むような大金でしたが、それでも今なら安い気がします。前金もそれなりでしたが。折角なので受肉させてみたらいかがですか?」
「受肉ですか?」
「はい。召喚した魔物は魔石はありませんが迷宮のそれと同じく実体は有りません。迷宮の魔物は外に吐き出されると実体を持ちますよね。それが受肉です」
「なるほど。ちなみにどうすればいいんですか?」
「肉体を構成する栄養と魔力を含んだものを与えます。一定量を満たせば、召喚したものの意思で受肉させることができます。受肉させれば召喚者の魔力を消費することもなくなりますし、召喚した魔物が魔法を沢山使っても消える事がありません。安全性を考えると隷属させなければなりませんが、召喚した状態で先に隷属させれば問題ないでしょう」
「その子は魔力の消費量が多いからその方がたすかる」
今まで口を開いていなかったシーラが口を開いた。結構使ってたんだな。あのレーザーで消耗したのかな。
「じゃあそうするか。隷属の魔法を使うがいいか?」
「ンン」
「たまにオムレツくれるならいいみたい。そんなかんじ」
「わかった」
隷属を発動すると、黒猫の胸に紋様が浮かび上がった。他人が召喚中の魔物にも使えるんだな。不思議な感じだ。魔力が切れると消えるようだが。
「相手が受け入れているとはいえ、簡単に成功されるとは流石ですね。何度も試さないと無理だと思っておりましたが」
「後は餌ですか。ハーピーの卵はいいとして他は何を食べるのかな。普通の卵も食べそうだが、魔力はどうしよう」
「魔石を与えてみるといいでしょう。そのままか、砕いて水に溶かしたものを飲ませるか。魔力を多く含みますので。あとは卵以外にも色々与えた方がいいですね。その子が食べるのなら」
「高濃度の魔力水ならわたしがつくる」
「お、いいな。じゃあ後は色々食べ物を与えてみるか」
そういう事になった。
◆
試してみると、魔力水は飲んだが、卵以外はあまり口をつけなかった。卵は何個でも平らげたが。後はマギーが食べている菓子をたまに奪うぐらいだった。これでなんとかなればいいが。
ちなみに予備のハーピーの卵を与えると、またがっついて尻尾に炎をともしていた。一番いいのはやっぱりハーピーの卵か。ドラゴンの卵とかも良いかもだがそんなの手に入らないしこっちのが手頃だしな。また探しに行くか。
「後は名前だな。皆良い案はないか?」
「そのままニャイトはどうでしょう」
「クロスケ」
「タルトがいいわ」
「シュバルツはどうだ?いや、伯爵と被るな」
色々案は出たが、結局マギーの案のタルトとなった。ニャイトをもじったナイトが候補に残ったりなんかしたが、どうもメスらしかったので可愛い名前がいいという事になった。
「マギーに食われるなよ」
「失礼ね」
鑑定すると名前の項目が増え、タルトとあった。名前が決まったが、当の本人はどうでもよさそうに毛繕いをしていた。
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