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本編

三十四話 ニャイトワラス

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 飛んでいるハーピーに重力魔法をかけると墜落していく。他の魔法、封印なんかと同じであまり遠距離だと届かないが、近くまで飛んできた時に発動するとかけられた。得意の鉤爪を使う事もなく封殺される。

 まだ生きているようだが地面に磔で身動きできない様子なのでシーラが始末する。人型の女性の部位もあるので最初は抵抗感があったが、顔面は醜悪だし、フンを落としてきたりもするので、慣れたら楽になった。それでもあまり直接手を下したくはないので皆に任せた。

 重力魔法、使えるかもしれないな。設置式も試したがそれなりに使えそうだった。ワイバーンやラピッドスパロウなんかにどれぐらい通用するかは未知数だが。

 ハーピーは当然の如く俺を狙ってきた。前と同じだな。別に人族の男がいなくても単為生殖で有精卵を産まないこともないらしいが、攫った男とまぐわうとその個数が劇的に増えるらしい。だからハーピーが大量発生すると、運が悪い奴がいたんだな、となるらしい。

 この顔面相手だとモノが立たないような気もしたのだが、媚薬効果のある木の実を食べさせようとしたり、他にも色々してくるらしい。色々は色々だ。リアナやシーラやアリシアさんがするような事である。ハーピーと比べたくはないが。

 肉はあまり食べられることはないが、羽毛や卵なんかは用途があるらしい。卵は詳しくはわからないが魔力に富んでいて美味いとか。人間以外も好むようで、アイトなんとかという魔法が得意な蛇の魔物に与えたりなんかすると、襲ってこなくなり、稀には懐くとか。

 そのアイトなんとかいう魔物は通常隷属が効かないミスリル級なので、ごく稀に隷属できたりなんかすると普通の妖精以上の騒ぎになるらしい。まあ試そうとして死ぬものが後をたたないらしいが。普通の卵でも少しは興味をひけるので、お守りがわりに持ち歩く者もいるとか。

 その辺りの話はアリシアさんに聞いた。ハーピーは街道や人里に近くない場合は、狩りすぎないようにする不文律もあるらしい。卵を盗んで稼ぐ冒険者、ハーピーの卵が好きな金持ち、研究に使う錬金術師がいるかららしい。ここは街道から近いのでいいとか。

 せっかくなので卵を狙う。マギーの隠密を使い森に入り、巣を探す。索敵を使ったり、マギーに高所を探してもらった。巣に何もいなければそのまま卵を探す。親の個体が巣から離れなければ、幻惑の魔法を使い隙を作ったりした。重力魔法の実験は済んだので、後は無闇に倒さないことにしたからである。

 結構な巣があったが卵は三つしか手に入らなかった。他の冒険者も結構取りに来ているんだろうか。オークも浅いところにはあまり数がいなかったし人気な魔物なんだな。ハーピーの数が減ったら男の奴隷が放り込まれたりなんかもしそうである。オークの場合はどうなんだろう、あまり考えたくはないな。

 ドレイクなんかもいたがこちらもハーピーに感づかれたら面倒なのでスルーした。ドレイクは口から無属性エネルギーのブレスを吐く大トカゲである。恐竜という方が正しいかもしれない。こちらも卵を産むらしいが、デカいのはいいが大味らしく、ハーピー程は人気がないとか。なので探すのはやめておいた。

 目的は達したので、卵以外を売りに行く。一つは予備、一つはシーラの研究用、最後の一つは皆で食べる事にした。

 家に帰ってリアナがオムレツを用意するのを待っていると、いつもはマギーと遊んでいる黒猫の挙動がおかしかった。後ろ足で立ち、前足を合わせて縦に振っている。何かのおねだりか?マタタビでも欲しいのだろうか。召喚された動物や魔物に特に餌は必要ないらしいので、特にあげていなかったが。今度買ってくるか。

 リアナが切り分けたオムレツをテーブルに並べると、挙動がさらにおかしくなった。どうして通じないんだにゃー!と憤慨しているようにすら見える。
なんだこれは。

「もしかしてこのオムレツが食べたいのではないでしょうか」

「そんなかんじ」

「あげてみれば?」

 可哀想なので俺の分を黒猫に差し出すと、勢いよく顔を突っ込んでいた。お菓子を食らう時のマギーのようである。

「マギーみたいだな」

「失礼ね。私はこんなにはしたなくないわよ」

「じゃあ今度同じようにしてたらお菓子禁止な」

「うっ、じゃあいいわよ同じって事で」

 オムレツを平らげた黒猫はげっぷをし、舐めた手で顔を拭っていた。こころなしか毛並みが光を増している気がする。すると手入れを終えた黒猫はお尻を立てるポーズをし、尻尾をピンと伸ばした。次第に光が尻尾に集まっていき、黒い炎を灯す。は?

「な、なんだこれ?普通の黒猫じゃないのか?シーラは知ってたか?」

「しらない。少し召喚に使う魔力が大きい気はしたけど、他がわからないし、ふつうの猫だと思ってた」

「普通の猫ちゃんじゃなかったんですねぇ」

「なんとなく魔法が使えそうな感じはしたけどね。鑑定してみれば?」

「そうだな、やってみる」

 鑑定をすると、名前はニャイトワラスという魔物だった。アイトワラスという蛇の魔物の亜種だそうだ。アイトワラス、なんか聞いた事あるな、ハーピーの卵が好きなミスリル級の魔物じゃなかったか?

 どうやらアイトワラスは色々なものに変化できるらしく、猫の姿が気に入った個体がずっとそのままでおり、繁殖して生まれた亜種との事だった。

 ステータスなんかを見てもバイコーンより少し強い。特に魔力に秀でているようだ。皆に説明すると驚いている。

「どうして俺だけ何度試してもゴブリンなんだ…」

「そのうちドラゴンとか召喚できるかもしれないじゃない。気にしない方がいいわよ」

「げんきだして」

「も、もしかしたらあのゴブリンも凄い魔物なのかもしれません!」

「そ、そうだな」

 皆でオムレツを食べた後、ゴブリンの森へ行き、召喚を試してみる。いつものようにゴブリンが現れた。特に普通のゴブリン以外には見えないが。森を進むと野良のゴブリンのグループがいたので戦わせてみると、普通に袋叩きにされていた。袋叩きにされていた召喚ゴブリンは、真なる力に覚醒するということもなく普通に魔力に還っていった。

「…」

 皆何も言わないのが傷つく。ゴブリン達は笑いながらこちらに向かってくる。今ならゴブリンの一撃でも立ち上がれなくなりそうだ。

「ニァア」

 そこで連れてきていた黒猫が颯爽とゴブリンに駆け寄ると、口から黒炎のレーザーのようなものを放ちゴブリンを薙ぎ払った。レーザーはゴブリンを切断し、後方の木々も両断していった。切断されたゴブリンの身体は黒い炎で燃えている。後ろの木々は火が燻っているだけのようだが。

 驚愕する俺たちをよそに、黒猫は燃えているゴブリンの臭いをかぎ、くちぁあーというように顔を顰め、こちらに戻ってきて足にまとわりつく。こうしていると普通の猫にしか見えないのだが。尻尾の黒炎も普段は消しているし。

「こ、こいつ凄いんだな。と、火を消さないと」

 軽く火が燻っていた木々は水ですぐに火が消えたが、ゴブリンはなかなか消えなかった。なのでマギーが氷結魔法で消化した。消化しなくてもよかったかもだが、念の為である。

「貴重な戦力になるわね」

「凄いです」

「召喚したわたしも凄い」

「マギーを召喚したリアナも凄いけどな。俺に比べて…」

「私は昔試したら色々だったわね。一番マシだったのはアルラウネかしら、今は召喚されてるからか使えないけど」

 マギーの場合はランダムらしい。アルラウネは植物を操る魔物だとか。頭に花が生え、草木で身体を覆った美女らしい。相手の生命力や魔力を吸い取ることもできるらしい。俺もそんなのがよかった。

「別に必ず固定ってことでもないのか」

「そうみたいね。狙って呼び出せたり、できなかったりするわ。そいつもそのまま出しておいた方がいいんじゃない?」

「鑑定されたらまずいんじゃないか?リアナの鎧みたいに鑑定妨害をかけておくか?今でも少し忘れてそうで怖いんだが」

「それもそうね」

 話していると、黒猫が前足でこちらの足を叩いた。長い尻尾で自分の方を指している。なんだ?

「たぶん鑑定してみろってことだと思う。なんとなくだけど」

 シーラに言われて鑑定してみると、普通の雑種の黒猫と出た。能力も低い。鑑定を偽装したのか?結果を皆に伝える。

「鑑定を偽装するなんてな。こちらの話す言葉は翻訳の魔法を使ったのかな」

「ニャァ」

 そうだニャ、というように黒猫は鳴いた。こちらは特に翻訳されなかったが。言語という程のものではないからだろうか。細かな違いがよくわからないが。

 鑑定偽装は俺も参考にするかな、リアナの鎧も普通に隠すと不自然だが、何かの合金でできた鎧と出た方が自然だし。ポランコさんが防具を作り終えたら参考にしよう。

 いや、今更遅いかな。情報屋とかが鑑定できない鎧として既に認識してそうだ。今更鑑定できると若干不自然だ。そのままにするかどうするか今度考えよう。

 ニャイトワラスについてもアリシアさんに聞くかな。ギルドではアイトワラスについて聞いてみよう。黒猫を連れていてニャイトワラスについて聞いたらアレだし。

 そんなこんなで新たな頼もしい仲間が加わった。名前は何にするかな。
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