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本編
三十三話 アリシア ※
しおりを挟む「アリシアさんはなんで冒険者に?」
「私はさほどエルフが得意とする魔法が使えなかったので、里では居心地が悪く旅に出ました。迫害されるというほどではありませんでしたが、退屈でもありましたし」
「それで冒険者に」
「はい。かわりにその他の魔法は得意だったので。仲間が死んだり、引退したりで何度もパーティを移りましたね。なんとかミスリルにまではなりましたが」
「どうして引退したんです?」
「伸び悩んでいたのもありますし、最後にいたパーティが私以外全滅したのでショックを受けたのもあります。他の魔物との苦戦中にユニコーンの群れに襲撃されまして。強かった仲間があっさりと倒れていくのを見ますとどうにも。そのパーティとは一番長い付き合いでもあり、パーティの仲も良好でしたからね。よく夢を語り合っていました」
「それはショックですね」
「その後はまた旅をしました。冒険者で稼いだ蓄えもかなりありましたので。パーティ活動用の資金もありましたが、装備と同じで仲間の遺族や恋人、友人に渡していきましたね。そのあたりは予め皆で決めてありました。そして気が向いたらたまに魔術師ギルドで講習を受けたりもしました。多少は魔導書を書く才能もあったようで、これで生活してみるか、となり、魔導書を書いたり仕入れたりして今に至ります。ある程度過ぎてからは魔法使い達を支援する事に多少はやりがいも感じていますね」
「なるほどなぁ。人に歴史ありですね。しかし、ミスリルクラスでも不運で全滅したりもするのか…」
「はい。なのでレイセン様もお気をつけて。私は一人で仲間の亡骸を集めた後に、一つだけあった帰還のスクロールで転移しましたが、レイセン様なら皆を生きたまま逃がせるかと思います」
「そうします。もう一人転移が使える仲間もいるので、いざという時にどうするか皆で話しますね」
「噂の妖精さんでしょうか」
「の、ノーコメントで」
「何度か里で交流があった妖精と似た気配がしましたからね。妖精が懐く相手なら心配もないですし、興味もあったのでお誘いしてしまいました」
「ならいいか。でも俺じゃなくて仲間が召喚した妖精ですけどね。まあそれなりに仲は良いですけど。それで感想はどうでしたか?」
「そういった本なんかで読んではいましたが、その表現よりも素敵でした。これからは定期的にレイセン様にお情けをいただきたいと思うほどです。よければまたお越しください。レイセン様は自由に入れるようにいたしますので」
「今更ですがレイセンじゃなくてユウトでいいですよ。あと様付けもいらないです」
「分かりました。それとユウトさん、そろそろもう一度いかがですか?」
「そうしましょうか。それと今度は俺が持ち上げる感じでいきましょう」
「持ち上げる、ですか? あっ」
たまにピロートークを挟んでまた遊んだ。エルフの男は性に淡白らしいので、里を出てよかったと言っていた。まあ好みの相手には長いこと恵まれなかったようだが。
エルフなので言い寄られる事もあったが、好みでは無かったのであしらったらしい。強引なものは魔法で動けなくして衛兵に突き出したとか。
最後にいたパーティは既に恋人がいたり、家族持ちもおり、独身のものもそこまで好色ではなかったそうだ。いつかはお前みたいな美女と結婚したいぜ、ぐらいは言われたそうだが。褒め言葉として受け取っておいたらしい。そいつアリシアさんのこと好きだったんじゃ、と少し思ったが言うのはやめておいた。かわりに冥福を祈っておく。
翌朝合鍵を渡された。アリシアさんの家は結構な数の防犯魔法装置があったのだが、それがあると発動しないらしい。いつでもお待ちしてます、という裸のアリシアさんにキスをしてから家に帰った。
スレンダーだが肌も綺麗で触り心地も良かったな、リアナやシーラも可愛くて美人だが、ファンタジーで美女といえばエルフ、というだけはある美女だった。薄緑色の髪も綺麗だったな。
帰ると朝食が用意されていたが量がいつもより多かった。いつも事情が事情なので常人よりも多く食べているのだが。さらに多い。
「なんでこんなに多いんだ?料理の練習で作りすぎでもしたのか?」
「お疲れでしょうし疲労回復には食が必要です。それにご主人様には埋め合わせをしていただきますのでさらに必要です」
「そういうこと」
「あんたみたいなやつを色魔っていうのよね。私知ってるわ」
「…」
まいた種というか、種をまいたせいでさらに種をまく事になったというか。黙々と食事を摂り疲労回復を行った。自分で入れたコーヒーは、酸味は少なかったが昔飲んでいたそれより苦く感じた。
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