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本編

三十二話 コーヒー 魔術師ギルド

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 ギルドへ行くと解体は終わっていた。差し入れにアイスクリームを提供すると、職員が凄い形相で取り合っていた。一応大きめのボウルに作ってきたのだが瞬く間に消えてしまった。

「元祖アイスクリーム!」

「前に高めのとこで食べたけどこっちのが美味しいわね」

「んめぇえー!」

 素材を受け取ったのでポランコさんの工房に行き、見てもらう。素材の確認を終えたポランコさんは、これならまあ使えるだろう、と言っていた。見積もりはそこまでの額ではないのでヨシとした。製作を始めてもらう。

 こちらにももう一つのボウルに作ったアイスクリームを渡し、溶けないうちに食べてくださいと言っておいた。作業中の人がいるかもだし、保冷をイメージして魔法も使用している。容器は今度受け取ろう。

 最近アイスクリームの材料が値上がりしている感じだ。自分は困るという程ではないが、他の人は大丈夫かな、と思う。

 次は春の湊亭に行く。おばちゃんからタルトを受け取るついでに話を聞く。

「うちでは三日以上泊まる客にたまに出したり、色々工夫しているね。生クリームとかいうのは使ってないけど、そんなに評判は悪くないね。前より部屋の埋まり具合もいいよ」

「それはよかった。他の店はどう?」

「そっちは結構なもんだね。特許使用料が無いから他よりも安く提供してるんだけど、それでか客が殺到しているよ。味も評判みたいだね」

「おお、それもよかった」

「レストランの方は設備をさらに増やすか、従業員を増やすか悩んでる様子だったね。宿の方は基本料金とは別で提供してるけど、下手するとそっちの方の儲けの方が大きくなりそうだってさ。レストランと同じく色々悩んでいるそうだ。でも利益はかなり増したから皆喜んでいたよ」

「問題が起きてるわけじゃなくて喜んでいるならいいか。材料費が値上がりしているみたいだけど大丈夫?」

「あー、そうなんだよね。一応一番値上がりしてる砂糖は蜂蜜で多少誤魔化せるから良いんだけど。また上がるとどんな感じで提供するか悩むね。向こうの宿みたいに別料金で出そうかとか。うちは設備や従業員を増やすほどではないからいいけど」

「ブームが一過性のものだったり、生産量が拡大なんかするかもだけど、なんとも言えないよね」

「そうだねぇ。でも生産量が増えるのはありえるが、アレが早々飽きられるとも思えないけどね。フレーバーだったかい?色々な種類の味を作れるじゃないか」

「確かにそうですね。いくつか工夫した感じのも見かけました。お酒入りのやつとかもバーとかで出されたりしてるのかな。それを考えるとそんなに早くブームが去ることもないのか」

「うちも蜂蜜なんかを使ってるしね。レストランなんかでは果樹の搾り汁を混ぜたりなんかもしてたし。色々発展するだろうさ」

「いいですねぇ。自分はチョコやコーヒー味のが好きなので、生み出されるのを期待します」

「チョコは何か分からないけど、コーヒーならあるじゃないか。自分でつくらないのかい?」

「えっ、コーヒーあるんですか?」

「あの黒くて苦いやつだろう? 眠気覚ましになるやつ」

「はい。そのコーヒーですね。何処で手に入るんでしょう」

「たまに貴族なんかも使うようなちょっと高めの喫茶店で出してたね。どこで仕入れられるのかは分からないが、ギルドで聞いてみたらどうだい?」

「ありがとうございます。そうしてみます」

 ギルドへ行くと顔パスで案内され、ザックさんと会うことになった。何かもう俺担当扱いなんだな。

「お久しぶりです。何かをお探しだとか」

「コーヒーを仕入れたいんですが、何処で扱っていますかね?」

「コーヒーですか、一応私どもの商会でも取り扱っておりますが、少し値が高いですな。まあユウト様であれば問題ないかと思いますが」

「大体一杯いくらぐらいするんですね?」

「そうですな。大体一杯50マールぐらいからでしょうか。品種によってはもっとしますね」

「うわ、凄い高いんですね」

「まあカフェなどで注文するより、自分で仕入れて飲む方がお安くすむかと思います。品種やコーヒーを入れる器具などにこだわりはおありですか?」

「特にこだわりはないですが、自分は酸味が苦手なので、酸味が少なければ大体飲めますね。自分はフィルターをコップに載せて、フィルターの上に紙を載せ、中に粉を入れ、上からお湯をそそぐ、という感じのものを使っていました」

「酸味が少ないものですか、であれば比較的安価なものが一つございますね。器具も色々とありますが、それぐらいのものであればお安くなっております。流石に紙ではなく布を使いますが。他は結構な値段のものもございますが」

「じゃあそれで手配していただいても大丈夫ですか?」

「はい。ちなみに豆と粉、どちらにいたしましょう。豆の場合はミルも必要ですが。後は焙煎済みかそうでないものかなども」

「あ、じゃあ焙煎済みの豆で、ミルもお願いします」

「承知しました。ひとまず豆は二袋ご用意しますので、飲まれる頻度などから次はどのぐらいを購入されるかお決めください。一刻後にはご用意できるかと思います。大体の総計としましては…」

 結構な金額になったが、最初に武具店で防具を買った時に比べるとずっと安い。二袋でどれだけ持つか分からないが、それも金貨がかかるとまではいかなかった。これならさらに高級な豆に手を出すとかしなければ大丈夫かな。

 一刻と言われたので、一旦家に帰る。マギーにタルトを渡すと、素朴な味も良いのよねぇ、と喜んでいた。一応マギーには高めの菓子なんかもたまにあげてるのだが。タルトは宿のおばちゃんにまた頼んだ時に、あんた達の分はさすがに無料でいいよと言われた。

 皆でもタルトを食べ、今度は二組に別れてリバーシで遊ぶ。前伯爵に紹介された工房に頼んだら、さほど時間はかからずに用意された。特許も申請済みである。

 マギーとシーラが結構強いな。俺やリアナはそれほどでもない。そしてマギーはシーラに勝ち越している。やっぱり悪知恵が働くからだろうか。リバーシはそれ程遊んだことはないので、最初に取りすぎると後で苦労することぐらいしか知らない。

 囲碁や麻雀なんかはそれなりに遊んだが、将棋やチェスなんかもそこまで遊んだことがない。コマの形状やルールぐらいは把握しているが。

 マギーが優勝したので拍手する。嬉しそうに飛び回り、寝そべる黒猫に突撃していった。最近では一緒に籠で寝てたりもする。仲が良くていいことだ。

「そういえばここって錬金術とかに使用していい物件なのか?」

「ここは大丈夫。私も中級錬金術師だし。上級錬金術師にもうすぐなれるかもだから、そしたらここじゃなくても大丈夫」

「あ、やっぱそんな制度があるのか。魔術師ギルドとかの会員なんだっけ?」

「そう。そこで試験に合格すると資格がもらえる。そういえば年会費をあと十日後までに払わないといけなかった」

「袋にいれてある中から使ってくれ、足りなかったら言ってな」

「わかった。ユウトは会員にならないの?」

「なったら何かいいことがあるのか?」
 
「他の魔術師の講義を受けられたり、市販ではあまり出回らない魔導書が手に入りやすくなるかも、普通の生物にも使える隷属とか。後ランクによってはギルド所属の店で割引が効いたりする」

「隷属はともかく他はいいな。ってか隷属って販売していいものなの?」

「ランクや素行なんかで審査されるけど、買えないことはないかんじ。すごく高いらしいけど。後魔法が魔法だから、使えるものは定期的に魔道具で調べられる」

「へぇ、そんな感じなのか。スクロールがあるからそんなに使い道無さそうだけど、あのスクロール高そうだしな」

「遠くから動物や魔物なんかにも使えたりする。妖精とか精霊に使えるかはあまり聞いたことないからわからないけど」

「へぇ、魔物使いか、カッコいいな。ドラゴンなんか使役したりとかできるかも」

「一番弱いドラゴンでミスリルクラスみたいだけど、ミスリルクラスを使役した、みたいな話はあんまりきかない。まあユウトならできるかもだけど。あとは、弱らせて抵抗をなくしてからじゃないと効きづらいとか。魔法耐性が高いとそれでもなかなか効かないんだって」

「なるほどな。まあいつかは挑戦してみるか。俺隷属使えるし」

「そうなんだ。何処で覚えたの?」

「お世話になった人に魔導書を貰ったんだ。まだ使ったことはないけどね」

「一応大丈夫だとは思うけどギルドに登録して申告しておいた方がいいかも。自力で使えるようになる人がいない事もないから大丈夫だとは思うけど。あと魔導書は迷宮で見つけたことにした方がいい。他人に渡すのはちょっとNG。それぐらいの嘘なら悪人じゃないから大丈夫だと思う」

「そうなのか、じゃあ後でギルドに行くか」

「案内するね」

 二時間ほど経ったので商人ギルドへ行き、コーヒー関連の一式を受け取る。その後魔術師ギルドへ向かった。シーラに案内され通りを進むと、長帽子に杖、ローブという感じの人物が看板に描かれた施設があった。なんか図書館みたいな外観だ。

 ロビーに案内され手続きをする。鑑定のような事をされ、使える魔法を一通り説明する。隷属の事も伝えると、善悪を測るとかいうアレを使わされたが結果は白だった。一安心した。ランクは上級魔術師からとなった。審査などは特にないらしい。

 ただ隷属を使えるので、顔を出したらたまに検査されるらしい。長くても五十日に一度は顔を出せと言われた。期間が過ぎると、各所に期限切れの者がいると手配されるらしい。たまに顔を出さないとな。

 ランクは新しく魔法を開発して広めたりすると上がるらしい。後はギルドへ貢献するとか。魔術師の教育だったり、魔法関連の品を作成して売り、税を納めるとか。貴重な魔導書や、古代の文献をギルドに納めるとかでもいいらしい。

 シーラは以前は初級魔術師であったらしいが、中級魔術師になったとか。肩書は中級魔術師・中級錬金術師である。俺も錬金術を身につけたりすれば肩書きが増えるとか。

 魔導書作家や魔道具技師、付与術師なんかも肩書きがあるらしい。こちらもテストがあったり、納税額で決めたり、貢献度で決めたり、色々だそうだ。

 魔法関係の特許はこちらで申請するとか。自分で使う分には問題ないが、無許可で販売すると違反になるらしい。再生のポーションは特許が申請されていないらしいが、特許を申請すると製法が広まるから秘匿されているのだろう。

 特許使用料をバカ高くすればいいかもだが、販売しなければ使用料はかからないから使ってもいいらしいしな。

 こちらで申請しようかとも一瞬考えたが、危険性がありそうだったのでやめておいた。シーラが開発したとかいうお肌ツルツルポーションぐらいにした方がいいかも。すでに申請されてるかもだが。

 聞いてみると類似品はあるようだが、それぞれ製法や原料、効果の程度なんかが違うらしい。

 シーラの年会費を払うついでに特許の申請をしておいた。現物はこの前シーラが作ったやつだ。使った感じだと前よりは効くかもとのことだった。シーラが書類を書き、現物を渡した。審査が通れば特許使用料が口座に振り込まれるようになるらしい。

 その後魔導書店により、なんか良い魔法はないか聞いてみた。

「そうですね。レイセン様のパーティはレイセン様以外も魔法を使われますし、魔力譲渡などはいかがでしょうか」

「魔力譲渡ですか。魔力を分け与えるとかそんなんですかね?」

「はい。以前見た限りではレイセン様は魔力量が膨大でしたので。魔力は全て渡されるわけではなく、少しロスが発生しますが」

「他にも魔法メインの仲間がいるのでそれもいいですね。買います」

「後は魔力吸収などもありますが、こちらは在庫がございませんね。まあオリジナルを作れなくはないかと思いますが」

「なるほど。そういえば前にラピッドスパロウの群れに襲われたんですが、あれどうしたら上手く対処できますかね」

 詳しくその時の状況を説明する。

「飛行タイプですのでやはり重力魔法かと、防壁の周囲や隙間に設置したりすれば、墜落して身動きがとれなくなります。個体にもよりますが、簡単に魔法を使うどころではなくなったりもするので。こちらは在庫はございますね。防壁の習熟度を高めて隙間をなくすなどもいいですが」

「重力魔法か、一応使えますけどゴブリンぐらいにしか使った事ないんですよね」

「ハーピーなどでお試しになってはいかがでしょうか。もし連れ去られても、レイセン様ならハーピー達も満足して、しばらくは繁殖活動を行わなくなるかもしれません。」

「そうですね。試してみます」

 ナチュラルにセクハラしてくるな。見るとシーラを手招きし、何かひそひそ話を始めた。

「…それはすごいですね」

「…もすごい…」

 何を話してるのだろうか。なんとなくロクなことではなさそうなので顔を背けて遠くを見る。

「私もユウト様の精力には興味がありますね。今夜如何ですか?」

「…」

 美人のエルフなので興味はなくも無いが、なんとも言えない。

「私も歳を取りましたので、このまま一人寂しく経験もないまま終わるというのも嫌なのです。レイセン様は好みですので。漆黒の髪も魔神様みたいです」

「魔神って黒髪なんですか。ちなみにおいくつで?」

「540歳ですね。長く生きましたが、これでも冒険者をしていた時期が長いので、まだ肉体的には若い方です」

 普通に二十代ぐらいにしか見えないのだが。元々長命の種族がレベルが上がるととんでもないな。見た目は薄緑色のウェーブがかった長髪に茶色の眼の美人さんである。胸はシーラよりスレンダーだが。

「俺も男なのでいいと言えばいいんですが、本当によろしいので?」

「レイセン様がよろしいのであれば」

 そんなこんなで泊まることになった。シーラは先に家に送っていった。
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