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本編
二十三話 騎士爵
しおりを挟む今、馬車の中にいる。指定の日時にギルドに迎えを送るので参上されたし、との事だった。紋章らしきものが描かれた高級そうな馬車に乗ると、イースタスの中の、さらに壁に囲まれた場所に連れてこられた。窓から見える景色はなんというか高級住宅街っぽい。商店のようなものはない。騎士や衛兵っぽい人達が警邏しているのを見かけた。
馬車を降りると、周りよりひときわ大きな屋敷の玄関だった。庭が広い、門までが長いな。執事という男性に案内され、屋敷に入り、応接室に入る。途中、使用人を多く見かけた。内装も豪華だった。
応接室で出されたお茶を飲みながら待っていると、そろそろお越しになられますとの事だった。立ち上がり出迎える。
扉が開き、貴族服のようなものを着た中年の男性が入ってくる。護衛のようなものも連れていた。
「お前が迷宮を討伐した冒険者か、よくやったな。まあ座れ」
向かい合って着席したので話しかける。護衛は立ったままだ。まあそうだよな。
「ユウトと申します」
「ディーデリヒ・アクセル・シュヴァルツマン・フルトヴェングラー・イースタスだ。伯爵位を賜っている。繰り返しになるがよくやったな。仲間は連れていないのか」
「奴隷なので、高貴な方に会わせるのもどうかと思いまして」
二人とも美少女だから目をつけられたら嫌だからですとは言えない。
「私は特に気にしないがな。功労者の仲間でもあるし。お前が育てたのか? パピルザグを倒せるほどに」
「そうですね。最初はゴブリンなんかから経験を積ませました」
「ほう、それは凄いな。お前も冒険者になって日が浅いと聞いたが、まだ若いのに大したものだ」
「ありがたいお言葉です」
「確か市民権を申請し、部屋を借りていたな、これからもこの街に住むつもりなのか?」
「旅をすることもあるかと思いますが、転移は同業者に驚かれる程度には得意なので、基本はこちらにいるつもりです。まあ気に入った場所があれば移ることもあるかもしれませんが、この街も良い街なので」
「そうか。腕の良い冒険者がいるとこちらにも利益があるからな。今回のような事態が起きると、場合によっては他所から呼んでこなければならん。常駐はしないのかもしれんが拠点を構えてくれるだけでもありがたい。ちなみに転移はどの程度使えるのだ?」
「ロンドミアまでなら三人で往復しても、消費は微々たるものでしたね。ダンジョンのあったところから他の冒険者を連れて十人以上でこちらに転移しましたが、同様でした」
「ほう、それは凄いな。収納は使えるか? どれぐらい入る」
「んー、ワイバーンやタラスクが五体くらい入ってもまだ余裕があると思います。限界はわかりませんね」
「それも凄いな。貴様は宮廷魔術師の倅か? それとも魔法大国のペイルーンから来たのか?」
「なんと言えばいいのか、昔の記憶はないのです。気づいたらイースタスの近くの森の中にいて、通りがかった冒険者に助けられました」
「ほお、それは災難だったな。それにしては色々と発明しているようだが」
それも調べたのか。ローゼスさんから聞いたのか?ギルドで調べたのかな。迂闊な事を言ったな。でも異世界から来たと言ってもな。誤魔化そう。
「自分が何処の何者かはわかりませんが、その辺りのことは記憶に残っていました。食事の取り方や服の着方と同じように」
「そうか。まあイブヒンが白だと言っていたから特に問題はないだろう。それとあのトランプだったか、あれはいいな。特にポーカーが気に入った」
釣れた貴族ってこの人なのかな。他の人に遊びに誘われたのかもだけど。
「お楽しみいただけたのであればこちらも嬉しく思います。また何か発明した場合は特許を申請しますので、お気が向きましたらお手に取りください」
「まだアイデアがあるのか?」
「いくつかありますね。細かいルールや遊具のデザインは決まっているのですが、素材を加工する技術がないので保留していました」
「なんだそんなもの、後は職人に作らせればよいではないか」
「その手がありますね。時間ができましたらそうしてみます」
「そうしたらいい。話は戻るが、お前はかなりの腕の魔術師のようだ。そこでだが、騎士爵になりたくはないか?」
「騎士ですか? お誘いはありがたいのですが、冒険者暮らしが性に合っておりますので」
騎士になるとか、そんな面倒くさそうな事ごめん被るのだが。これでキレられたら困るな。屋敷は高級な転移妨害が施されていて転移できないだろうし。前向きに考えますとか言ってから逐電するべきだったか。
しかし魔術師を騎士に誘うってなんか変だな。騎士団所属の魔術師として働けという事だろうか。
「騎士になれと言っているのではない。騎士爵という貴族としての爵位をくれてやろうかと思ったのだ。別に騎士として仕えろという訳ではない。お前の実力では騎士の給金では割に合わんだろう。発明品で金も入るだろうからな」
「はあ、それは光栄ですが。なぜでしょう」
「貴様は腕が立つからな。一応唾を付けておこうと思ったまでよ。こちらの依頼を気が向いたらたまに受けてくれるだけでいい。それに私が騎士爵を授けたものの発明品が有名になれば、私にも利益がある」
これは断れないか?困ったな。
「あまり難易度の高いものでなければお受けできるかと思いますが…」
「今のところはあの迷宮のように危機が迫っている訳でもなし、せいぜい貴重品や人員の輸送ぐらいだな。ロンドミア以外には何処に行ける?」
「それがこことロンドミアぐらいでして、先程も申し上げた通り、気づいたら近くの森でしたので」
「そうか。であれば行けるところが増えたらこちらに伝えろ」
「…承知しました」
「あまり気が進まない様子だな」
顔に出てたか。不味いな。やはり逐電…
「騎士爵は一代限りだが仮にも貴族だ。それに喧嘩を売る阿呆はあまりいない。爵位を授けた私に対しても喧嘩を売ったことになるしな。それに色々と特権もある。悪くはない話だぞ」
「それは理解できます」
「だが気が進まないか」
「ありがたい話ですが…」
「これは例え話だが、貴族が飼っている妖精を横から奪うのと、平民が飼っている妖精を横から奪うの、どちらが難易度が高いと思う?」
そっちも調べがついていたのか。
「まあ、誰でもわかる例え話だ。なに、今回のことには私も感謝しているのでな。余っていた爵位をくれてやってもいいかと思ったまでよ。先にも言ったが私にも利益になるからな。依頼は気が向いたらでよい。これでいいな」
「ありがたく頂戴します」
面倒な事になったな。まあこの人はそこまで無理筋を通すようにも見えないし、まだマシな方かもしれないが。マギーの事も知ってるみたいだし、他の権力者のちょっかいを防いでくれるなら悪くないのかね。貴様の持っている妖精を寄越せとか言われるよりは。
ちなみに後で聞いたら、貴族の運営する騎士団には、前衛の騎士と後衛の魔術師が両方いるらしい。騎士団というより、どちらかと言えば領軍だそうだ。
国の軍としての王国騎士団も、前衛の騎士と後衛の魔術師が両方いる。
しかし、王族を警護する近衛騎士団は騎士のみ、宮廷魔術師は魔術師のみらしい。ややこしいな。まあ多少勉強になったが。
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