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本編
十七話 ごろつき ※
しおりを挟む「いつかは手を出そうかとは思っていたが、急にどうしたんだ? まあ相手をしてもらうのは嬉しいからいいんだが」
「べつに、わたしもそろそろ経験してみたいと思っただけ」
「ふぅん。で、感想は?」
「思ってたよりはよかった。そっちはよかった?」
「ああ、うん、よかったぞ」
「ならよかった」
シーラは少し地蔵気味だったが、美少女ではあるので色々と捗った。目立つほどではないがスタイルも良かったしな。ちなみに経験が無いと言っていた通り、シーラは初めてのようだった。その証は魔法で早々に消したが。
後始末が終わると、シーラは隣の部屋に戻っていった。かわりにリアナが戻ってくる。
「お疲れさまでした。私と比べてどうでしたか?」
「リアナの方が上かな。将来的には分からないが」
「負けないように精進しますね」
これ以上リアナに頑張られたらそれはそれで困るのだが、魔法である程度はなんとかなるが。真打ち登場とばかりにリアナは鎧をパージした。
◆
手頃な魔物で戦闘して、マギーとの連携の仕方を確認した。今までもかなり余裕はあったが、撹乱要因がいるとこれほど戦いやすくなるのかと驚く。
特にミノタウロスやドレイク等のゴールド級を複数体相手にした時が顕著だった。俺は自分と味方へのバフぐらいしかしなかったが、残りの三人でスムーズに対処していた。
「マギーは凄いな。特に幻惑が凄い。おかげでほぼ一方的だったな。複数来ても余裕があった」
幻惑を受けた魔物は主に見当違いの方向に攻撃を行っていた。たまにこちらを見ずに、きょろきょろと周囲を確認したりもしていた。
「私は仲間内でも魔法が得意な方だからね。感謝するならプリンをよこしなさい」
「プリンか。まあアイスクリームばかりだと俺も飽きるからいいが」
街の菓子屋を覗いたがプリンは無かった。もっと都会ならあるかもだが。連携の確認を終え、素材の売却に冒険者ギルドに寄ったところで、声をかけられた。
「おいお前、妖精は何処にいる」
「なんのことですか? 妖精って?」
「調べはついてるんだよ。黒髪の転移使いの魔術師が妖精を連れていたってな」
「知りませんね。誰から聞いたか知りませんが、酒でも飲み過ぎて、何か別のものを勘違いしたんじゃないですか」
「痛い目見せないと素直に喋らないか」
すっとぼけてみたが、しつこいな。マギーはギルドに来る前に姿を消している。念の為自分や仲間のバフがかかっている事を再確認しておく。話しかけてきた男の他に四人が側からこちらを睨んでいた。痛い目見せると言っているが、暴力行為をして捕まらないのか?それともそのリスクを背負ってまで手に入れたいのか。
おもむろにごろつきのうちの一人が杖を取り出しこちらに振るう。光の粉のようなものが飛んできたが、こちらに届く前に霧散した。ごろつき達は驚いたような表情を浮かべている。念の為解呪のスクロールに手を伸ばし、いつでも使えるようにしていたが不要だったか。
肩にマギーが乗って来たようなので、リアナとシーラに手を伸ばしそのまま転移する。南門の前だ。ちょうどこの前話をした門番が居たので話しかける。
「ギルドで絡まれた?」
「はい、言いがかりをつけられて適当にあしらってたら、痛い目見せてやるみたいな事を言ってこちらに魔法を使ってきたんですが、それって罪にならないんですか?」
「程度にもよるだろうが、悪意をもって他人に魔法を使うようなやつらなら、魔道具に引っかかるかもしれんな。確実なことは言えんが」
「襲われたら返り討ちにしても大丈夫ですか?」
「すでに直接魔法を使ってきた奴ならおそらく問題ないとは思う。他は武器を使ってきたりしたら倒しても構わないんじゃないか? 盗賊なんかと同じ扱いだから別に殺しても構わない。だができるだけ先に手は出すなよ。相手が既に悪事を積み重ねていたら問題ないが、万が一があるからな。取り締まり側が言うのもなんだが、アレの基準は俺も正確にはわからないんだ。一応上に報告を上げるから、ギルド付近を騎士が巡回するだろう。護衛してやれるかまではできるかわからないな。一応聞いてみるが」
「わかりました。お仕事中ありがとうございました」
礼を言って今度は魔法通りに向かう、まずは解呪のスクロールの予備を買いに行く。予備をさらに確保できたので、今度は魔導書店に向かう。
「本日はどのような魔導書をお求めでしょうか」
「今日はちょっと転移阻害について話を聞きたくて、一応何か良いものがあれば購入したいと思いますが」
「転移阻害ですか」
「はい、ちょっとタチの悪い輩に目をつけられまして、転移を使えなくされたら面倒かなと」
「そうですか。それは災難でしたね。あれは主に建造物の素材に使用されますね。六面ダイスで例えますと、最低五面にその素材を使用すれば転移を封じるというものです。まあ、高級なものでなければドアも含め、全て覆わないといけません。相当の実力者であればそれでも転移できる可能性はありますが」
「そうなんですか。急に転移を封じられたら厄介だと思っていたのですが、主に建造物なら何とかなりますかね」
「確実な事は言えませんがおそらくは。直接的には封印の魔法をかけられたりした後、封印や魔力吸収が付与された道具で拘束された場合が危険でしょうか。あれから解呪のスクロールは購入されましたか?」
「はい、予備が沢山あります」
「であれば少し安心ですね。あとは気になったのですが、試しに店の外に転移してみませんか」
「ん? やってみます」
転移を発動すると、店の外に出られた。驚きだ。転機阻害を使用していないのか?中に入って話を聞く。
「一応この店も転移阻害を使用しているのですが、奥は高級品を使用しているのに反して、こちらはいくらかグレードが落ちるのです」
「そうなんですか。前にとある場所で使ってみた時は使えなかったので驚きました。そっちは高級品を使ってたんですね。しかし、全く使えないという訳ではないんですね」
「お客様は結構な実力者のようでしたし、もしかしたら可能かと思いまして。ちなみに鑑定阻害などはご使用になられないのですか? 在庫にございますが」
「あっ、使えますが普段あまり使っていませんでした」
「鑑定の強力さによっては大したことは分かりませんが、手の内を知られるかもしれませんし、念の為日頃から使ってみるといいかもしれません。鑑定の程度によっては、その人物の半生を知ることすらできるようですよ。まあそんなのは御伽話ですが」
俺の鑑定も結構な情報量がある。リアナのアレとか見てしまったしな。半生とまではいかないが。
この人も魔法耐性を強化しているのにこちらを鑑定してきたし実力者なのかな。それとも鑑定は鑑定阻害でなければ防ぎづらいんだろうか。シーラと会った時は魔法耐性は強化されてたっけな。覚えてない。今後はひととおり切らさないように気をつけよう。
「ありがとうございます。使ってみます。それでですが、他に何か安全を確保できるものはありませんか」
「そうですね…敵意感知などはいかがでしょうか。周囲の敵意を感知します。恨みに思っていたり、危害を加えようとしていたり、捕食しようとしていたり、大体のことがわかります」
「いいですね。それ買います」
「私も使えるわよ」
耳元で囁かれた。マギーも使えるのか。じゃあ安全性が増すな。
「後は魔法鍵などはいかがでしょうか。扉に魔法の鍵をかけ、その扉の強度を鋼鉄以上にもできます。術者本人しか解除できませんね。こちらは永続します。強力な解呪や開錠の魔法を使われると危ないですが」
「それもいいですね」
そうしてまんまと良いお客になった。さらにシーラやリアナ用にもアドバイスを貰ったので参考にした。出費が痛いが安全を買えるなら安いものだ。
それからロンドミアに素材を売りにいき、家に戻った。いったんイースタスのギルドには寄らない事にした。拠点自体を変えようかとも考えたが、普段から外出する時は歩いて外に出ないし、歩いて帰らないので、家を特定される可能性は低い。向こうで厄介ごとに巻き込まれても困るし様子を見よう。向こうは権力者が多いらしいしな。
今度ごろつき達を見かけたら遠くから鑑定で詳しく見てみよう。リアナの時は流し読みしていたが、話を聞くに大体の強さが分かるらしいし。向こうの魔法がこちらに効かなかった事からしてそれほど脅威になるとは思えないが一応だ。
捕まえられそうなら、魔法を使ってきた男だけでも拉致して南門で検査して貰うかな。それぐらいなら問題ないだろう。他も芋蔓式でしょっぴければいいが。
門では通る者全員に魔道具を使用している訳ではないようだった。何かしらの基準があるらしい。身分証の有無とか、怪しげな風体とかで決めるんだろうか。消耗品だから毎度使えないのかな。何か事件が起きたら検査の頻度を増やしたり、街中でも職務質問みたいに怪しい輩に使うのかも。
そんなこんなで家に戻った。食事を終え、本を読み、リアナやシーラと運動をした後、護衛の時に使った警報や、魔法錠などを使って寝た。ちなみにマギーは居間の机に置いた、布を敷いたバスケットの中で寝る。
しかし妖精はあまり肉体的には疲れない体質らしく、睡眠もそれほどは必要ではないらしい、本でも読みながら軽く警戒しておくわ、と言っていた。身体との比率を考えると巨大な本のページを引っ張って持ち上げているマギーを見ながら、明日からは菓子を増量したり、早めにプリンを作ろうと考えた。
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