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本編

十話 オーク キマイラ

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 朝、リアナは気絶した時の姿勢のままだった。昨日の勝利を再確認し、自身の健闘を讃える。結局、昨日はアレとさらに疲労回復、防音の魔導書も買った。疲労は特にないが凄まじく腹が空いている。何の代償もない訳じゃないんだな。

 一応リアナにも疲労回復をかけておく。しばらくするとリアナは起き上がり、とろんとした目をしながらこちらに顔を寄せてきた。

 しばらくイチャイチャとし、鐘が鳴ったので服を着て食事をとりに行く。口の中に食べ物を入れる度、胃が早くよこせと催促してくる。咀嚼して流し込むと、凄まじい勢いで消化していくのを感じる。結果、二回おかわりした。リアナは一回だった。



 お試しとしてリザードマンを狩りに行ったが、特に問題はなかった。試してみると、リアナは一方的に多くを倒していた。中にはこの前の大きな個体も混ざっていたが。

 初めはアドバイス通りに湿地帯の南の方から狩りに行ったが、手応えがなかったので奥に分け入った。頑強の魔法の実験として、試しに攻撃を受けてみたら、大型の個体の攻撃を受けてもノーダメージだった。小型の個体の攻撃を試しに受けた時もヒヤヒヤしていたのだが、より怖がっていた分損した気分になった。リアナは鎧のみの素の防御力で無傷だった。

 他に手頃な魔物は、とギルドに行き、キマイラが出たところよりは手前の西の方にオークがいると聞いたので探してみたが、数体しか見つからなかった。こちらも瞬殺であった。

 オークは二足歩行する猪といった感じである。感覚的には熊に近い。ゴブリンなんかと同じく棍棒や石斧を持っていた。基本的なゴブリンと同じくフルチンである。ゴブリンマジシャンや弓を使うゴブリンなんかは知能が高いのか、何かしらで隠していたが。茂みとかで引っ掛けたら痛そうだもんな。

 フルチンなだけなら良いのだが、オーク達はリアナを見てフガフガと鼻を鳴らしながらモノを怒張させていた。人間の女にも興味があるらしい。俺は少し動揺していたが、リアナはたんたんと股間を殴って吹っ飛ばしていた。

 常設依頼の紙には、肉と牙、それと睾丸が高く買い取れると書いてあったのだが。一つの部位は消えてしまった。睾丸というからには精力剤にでもするのだろうか。

 後、牙はアクセサリーとかの工芸品で使うのは分からなくもないが、肉は食べるのだろうか。うーん、熊とかの肉と同じと考えればいけるのか?一応は二足歩行しているし、忌避感があるのだが。食べてみたらまた考えが変わるかもしれない。数が少なかったのも人気があるからだろうか。

「高級な家畜の肉には及ばないそうですが美味だそうですよ。私は食べたことがありませんが」

 リアナに聞いたらそう言われた。少し興味が湧いたが全て売ることにした。ちょっとね。もしかしたら前食べた串焼きや、宿の料理に使われていたかもだが。

 後、ギルドで素材を買い取ってもらう時に聞いたが、魔物の中には人族を犯して繁殖するものもいるとか。代表的なものではゴブリンやオークがそうらしい。両方メスはいるらしいのだが、奥地なんかで繁殖に勤しんでいてあまり出くわさないらしい。

 ゴブリンは人族でも犯す、くらいだが、オークは積極的に犯すらしい。具体的な違いは、ゴブリンは女性を餌にもするらしいが、オークは基本的には性的な事しかしないらしい。オークに連れ去られて生きて帰った女性はいない事もないが、ゴブリンは助けられない限りはゼロらしい。

 ゴブリンは痛めつけて楽しんだり、子供をある程度産ませて衰弱したら食うらしいが、オークはある程度気を遣うとか。両方雑食だが好みに違いがあるらしい。男は普通にオークも食うらしいが。

 人族と交わる魔物は他にもハーピーとか色々といるらしい。トリビアが増えたな。



 以前、赤髪の男性とキマイラに遭遇した場所に今はいる。そろそろキマイラを相手にしてもいいかな、となったのだ。

 索敵を使用してみるが範囲内にはいない。そういえば倒れていたところからこちらに移動していたら、後ろから迫ってきたのだった。なら倒れていたところに向かった方がいいか。リアナを連れて転移する。

 転移した直後、リアナと警戒態勢に入る。すでに各種魔法は使用済みだ。いきなり戦闘に突入する可能性もあったので。索敵の魔法を発動すると、遠くにキマイラらしきものを発見した。リアナに見つけた事を伝え、慎重に先へ進む。ある程度近づいたところで気づかれた。キマイラはこちらに向かってくる。

 打ち合わせ通りにリアナはその場に留まり、自分は少し距離を取る。やがてキマイラが木々を打ち倒しながらやってくる。こちらを視認したのかブレスを吐いてきた。リアナが炎に包まれるのと同時、キマイラの背後に転移して蛇の尻尾を破壊した。

 キマイラは悲鳴をあげてこちらに体の向きを変える。こちらに向けて爪を振り上げたところでキマイラは真横に吹っ飛んだ。リアナがメイスを振り抜いた姿勢で立っている。

 胴体から生えた山羊の頭部が凹んだ状態でキマイラは転がっていた。どったんばったんとしている間にすかさず魔槍を撃ちまくる。何発も槍がキマイラに突き刺さるが、貫通はしていないようだ。まあ今にも息が絶えそうな様子だが。

 槍に魔力を全力でそそぎ、タイミングを見計らい頭部に向かって撃ち込む。槍はキマイラの頭を貫き飛んで行った。今更ながら全力だと誤射が怖いな。近くには誰もいないからいいが、今後リアナを誤射らないように気をつけよう。

 倒れたキマイラに近寄って収納する。問題ないな。しばしリアナと勝利を分かち合う。リアナが炎に包まれた時は、大丈夫だと分かっていても心臓が縮み上がった。辺りを見ると火が燻っていたので水をかけておく。

 二人でキマイラがいた場所に向かうと、遠くの崖に大穴が空いているのが見えた。キマイラの巣だろうか。新手を警戒するが索敵に反応はない。一応慎重に近づき中に入ると、急に視界が切り替わった。薄く光を放つ石材で覆われた広い通路が見える。通路の向こうにいくつかの大きな生物の反応があった。

 リアナの手を掴み急いで洞窟の外に転移しようとするが、なぜかできなかった。なので走って外に向かう。視界が切り替わり森の中になった。洞窟の入り口を見ると、特に変わった様子はない。明らかに内部の空間と釣り合っていないが、これは。



 ギルドに戻り、キマイラの死体を提出すると、シルバーが?と少し驚かれた。受付で話を聞くと、やはりあれは迷宮との事だった。

 迷宮。前に一緒に酒を飲んだ冒険者から話は聞いていた。魔物がうろつく異空間で、奥ではいろんなものが手に入る。迷宮内の魔物は倒すと死体は消えてしまうが、魔石と、たまになんらかのアイテムを落とすらしい。最奥にいる魔物を倒すと、最低でもそれなりの財宝が手に入るとか。

 迷宮は最奥にいる魔物、ボスを倒すと、しばらくしたら消えてしまうらしい。一応中に冒険者がいる状態で消えるという事はないらしいが。

 迷宮は定期的に中の魔物を外に吐き出す。外に出た魔物は受肉した状態となり、アイテムは落とさなくなるが、死体は残るようになるらしい。

 キマイラが急に湧き出した事からして、迷宮ではないかとギルドもあたりをつけていたらしい。クエスト扱いではないが、キマイラを二人で倒した事と迷宮を見つけた事は評価対象らしい。クエスト扱いではないので死体の買取金だけだが、それで我慢してくれと言われた。そう言われてもそっちはハナから度外視で腕試しに行っただけだから構わないが。

 その後、他の冒険者を連れて現地まで転移した。迷宮の入り口を確認してもらい、その後何度か森の入り口までの間を転移し木々に目印をつけた。

「二人でキマイラを倒したってな。ランク詐欺じゃねーか。さっさと上がれよ。下が可哀想だぜ。俺たちもシルバーとブロンズが簡単に倒せたんだからと無茶振りされると困る」

 ギルドに転移すると、ゴールドの冒険者は受付に報告しに去っていった。こちらも別の受付に向かい手続きをする。相続手続きだ。一定期間ギルドに顔を出さない場合、指定の人物に残高を相続するというシステムを利用できる。ひとまず期間は三十日としておいた。

 冒険者ギルドの収入は一応全て俺の口座に入っている。登録の際にリアナは奴隷と説明したら、慣例的にはそうなるようだった。一応討伐した魔物や達成した依頼の評価自体はリアナにも反映されるそうだが。

 他の冒険者は基本分配するらしい。等分にしたり、パーティー内での重要度なんかを考慮し話し合って割合が変わったりするらしい。魔術師やリーダーは高く、見習いとか荷物持ちは低くなったりするとか。足手纏いのうちは無報酬なんてところもあるらしい。

 まあついていけば死なない限りは強くなれるかもだし、無報酬でってのも分からなくはないな。強い冒険者も足手纏いがいたら迷惑だろうし、下手したらそれで足を引っ張られて命に関わる。分配を渡さないとしても一概にはそこまで悪質とも思えない。中には悪質なのもいるかもだが。

 商業ギルドにも行き、リアナを登録させ、同じように手続きを行う。こちらはそれほど頻繁に来ないだろうから期間は九十日とした。年会費を払うなら登録自体はできるそうだった。リアナは複雑そうな表情だったが、指示に従い手続きをしていた。

 迷宮に潜るとすると何が必要だろうなぁ。確かゴブリンのそれとは質が違う罠があるらしいからその対策。後はマッピングか。罠感知や自動マッピングの魔法なんかがあればいいが。食事をとりながらそんな事を考えていた。現在は宿である。

 あの赤髪の人には去り際に迷宮に挑戦してみろと言われたので、できるのなら挑んでみたい気持ちがある。

 キマイラだけが出る訳じゃないからその対策も必要かもしれないな。キマイラ以外が出たら即転移で引き返して対策を練るとかすればいいのかね。いや、できないんだった。

 
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