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よんしょう!

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「アリーの均整の取れた雄々しく逞しい身体に、燃え盛る炎のような深紅のドレス。さぞかし映えるに違いない」

 マクシミリアンがうっとりと頬を染め、隣にいるラドフェン公爵が甥っ子の荒く鬱陶しい鼻息に眉を顰めた。

「ふむ。アリー嬢の肉体は細身だが、完璧な筋肉の見本のようだね。我が国では、女性は何事にも控えめで大人しいことが美徳とされるが、筋肉も内面も、もっと主張していいんだ。この体つきであれば、人々は畏敬の念をもって見つめるに違いない。世の令嬢は、全員アリー嬢を見習ってほしいものだ」

 アリーの体を頭のてっぺんからつま先まで眺めて、ラドフェン公爵は納得したようにうなずいた。褒めてくれているんだろうが、微妙に貶されているような気がしないでもない。
 スティラが「くわあ」と可愛らしいあくびをし、それを合図に全員が帰り支度を始めることになった。
 筋肉特戦隊たちが魔法を駆使して火の後始末、パーティー会場の撤収を行う様を、それぞれの婚約者たちが目を輝かせて見つめている。

「アリーさん……いいえ、アリーって呼んでもいいかしら。わたしたち、いいお友達になれると思うの。だから貴女にも、わたしのことマリリンって呼んでほしいな」

 マリリンがアリーを見て、はにかんだ笑みを浮かべた。残る3人の口から「わたしも」「わたしも」と声が上がる。

<マリリン、キャロル、カーリー、リンダ……>

 アリーは元親友たちの顔を順番に眺めた。「元」という冠を、外してしまっていいものかと一瞬悩む。
 なにしろこちとら、貴族社会では最底辺の男爵令嬢。彼女たちのお家で侍女になってもいいくらいのポジションなのだ。

「ねえみんな。わたしたちも、未来の旦那様のクラバットと同じ色のドレスを仕立てない?」

「素敵! わたしたち5人でスティラ様を囲んだら、きっと目立つに違いないわ」

「さしずめ『スティラ様を守り隊』ってところかしら? わたし、絵物語の少女戦士に憧れてたの」

「ネーミングセンスなさすぎ。でもそれしか言いようがないわね」

 やたらパワフルな彼女たちを「お、おう」という気分で眺めながら、アリーは腹をくくった。

<もう一度友達になろう。身分云々はいったん忘れよう。今回の人生では、死ぬ気で彼女たちを守るんだ>

 なにも筋肉特戦隊たちのように、徒手空拳の肉弾戦で己を鍛える必要はない──いやもしかしたらあるのかもしれないが、とりあえず己の身を守れる程度の魔法は使えるようになってほしい。

「マリリン、キャロル、カーリー、リンダ。おこがましいけど、とてもとてもおこがましいけど、わたしたちは親友になれると思う。だから明日から、筋肉エクササイズを教えてあげる。できる限りで構わないから、西翼に通ってくれる?」

 アリーはきりっとした眼差しで言った。彼女たちはなぜか頬を染め、胸の前で神に祈るように指を組み合わせて「はい」とうなずく。
 マクシミリアン&イベルのペアが転移陣を作り、全員でいったん西翼に戻った。
 ラドフェン公爵はスティラの頭をなでなでし、「中央に放ってる間諜スパイに会ってこよっと」と超絶軽いフットワークで出て行った。
 四天王たちは精霊レジェンドから貰った飴ちゃんで親御さんもひと安心な姿になってから、それぞれの婚約者を馬車で送っていった。

「殿下。大変申し訳ありませんが、1時間後に広間まで来ていただけますか」

 アリーは半分夢の中に入っているスティラを抱っこし、背中をよしよししながらマクシミリアンの濃い顔を見上げた。こくこくこくこくと超高速でうなずく姿を確認し「では」と踵を返す。
 用件言い忘れたけどまあいっか、と思いながら、可愛いスティラの就寝前のお世話を丁寧にやって、健やかな寝息を確認した。
 時間に余裕をもって西翼の広間に向かうと、マクシミリアンはフロアのど真ん中で東洋の座禅を組んで、両手の親指を超高速でもじもじもじもじさせていた。

「お、おおアリー、俺を呼び出したからには何か言いたいことがあるのだろう。さあ、遠慮せず飛び込んでくるがいい!」

「いえ遠慮します。そういうあれでは一切なく、殿下のワルツの腕前を確認させて頂きたいのです」

「ワルツだと?」

 マクシミリアンのいかつい肩が、ぎくりと強張る。それを見てアリーは「やっぱり」と腰に手を当てた。

「殿下……もしかしなくても、ワルツが苦手ですね?」

「なぜわかる」

「むしろなぜわからないと思いました?」

 9歳からの修行三昧、存在しない婚約者。この2点だけでも、女性との接触に不慣れなことは丸わかり。もしかしたらさっきマイムマイムを踊るまで、同世代の女の子の手すら握ったことがなかったんじゃなかろうか。
 アリーは無礼を承知で、マクシミリアンの顔にビシッと指先を突き付けた。

「今日から特訓を開始します! このわたくしと大舞踏会で踊りたければ、誰も真似できないほどの優雅で完璧な動きを習得して頂かなくてはなりませんっ!」

 公爵令嬢の上から目線入ってるな、と思いつつ、アリーは誇り高くそう言ってのけた。
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