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にしょう!

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「どう思う、アリー」

 マクシミリアンがぎゅんっと首を巡らせてアリーを見る。
 クリスの出した火で弱々しいながらも灯りが得られたスティラが、目を輝かせながら魔法書に書き込みをしていた。

「そうですね……。相手が闇の使徒や光の天使の場合は一対一の契約となるので、ただ美しいだけでは絶対に呼び出せないと思います。でも火・水・土・風の自然の精霊たちに関しては何体もいるので、殿下たちがへりくだることですんなり出てきてくれる個体もいるのではないかと……」

 たしかに宗教画の美青年って周囲に無意味に精霊が舞ってるしな、などと思いながらアリーはマクシミリアンを見つめ返した。

<そういや9回目までのマクシミリアンって、ただ外を歩くだけで指先に蝶だの、肩に小鳥だのが勝手に止まってたっけ……>

 なにしろ前世のマクシミリアンは、もし王太子でなかったら吟遊詩人になるのが夢だと公言していたくらいだ。
 彼が作った愛の歌を「下手くそだなあ」と思いつつも受け取る瞬間は、やっぱり嬉しいものだった。
 やがてその愛の歌は、聖女ミアにだけ捧げられるようになって──アリーは過去の記憶に髪を掴まれて、後ろに引っ張られるように急速に気分が落ち込みかけた。
 慌てて現在のマクシミリアンの手を見る。でかい。そして傷だらけ。竪琴など到底似合いそうにないことを確認して、アリーはほっと息をついた。

「フッ、アリーよ、願望を隠すのが案外下手だな。そんなにこの男らしい手に抱かれたいか」

「いや違いますから。夢の中の殿下は存じ上げませんが、今の殿下には『イケメン無罪』スキルはゼロどころか抉れてマイナスですから。発言にはよく気を付けてください。今のはセクシャルハラスメントですよ」

 西翼の侍女に、若い娘が応募していなくて本当に良かった。
 元々持っている素養なのか、それとも夢の影響なのか、ちょいちょいイケメンだったころのマクシミリアン的発言をするの、本当にやめてほしい。社交シーズン前に矯正しないと、セクハラで王宮治安判事に訴えられかねない。

「お、俺はセクハラなんかしていない! それに、俺がこんなことを言うのは、夢の娘とアリーだけだっ!」

 マクシミリアンが駄々っ子のように地面を踏んだので、局地的に震度3くらいの揺れが発生した。

「まあまあ殿下、アリーさんは照れていらっしゃるんですよ。何しろ男爵令嬢という身分ですし、本来だったら殿下のお側近くにも寄れないのですから。殿下との急接近に戸惑うのも無理はありません」

 リーダー格ジェフリーが訳知り顔で微笑む。急接近にはたしかに戸惑っているが、お側近くにはまったく寄りたくない。
 アリーは筋肉特戦隊を順番に睨みつけた。お前らへの恨み、まだ忘れたわけじゃないからなという気持ちを込めて。

<今だって、スティラ様がいなかったら逃げ出したいというのに……>

 公爵令嬢アリーシアだったころには、まったく関わりのなかったスティラに目をやる。
 アリーシアが最も華々しく活躍していた思春期の頃、王宮でスティラやケリー妃の姿を見たことは無かったから、もしかしたら過去9回までのスティラは、王妃の目論見通りひっそり殺されていたのかもしれない。

<来月の社交シーズンがどうなるか、まったくわからないけど。スティラ様だけは、死んでも守ろう……>

 自分の中のブレない芯を確認していると、スティラがくあああっと大あくびをした。

「皆さん、とりあえず今日はここまでにしましょう。四属性の精霊をスムーズに呼び出す詠唱を、それぞれ考えてきてください。闇の使徒とは恐らく力比べになるので、寝る前の筋肉トレーニングは続けてくださいね。もちろん、質のいい食事と十分な睡眠を忘れずに」

 闇の使徒と光の天使はプライドが高いので、魔力が弱い者の前には絶対に出てこない。過去9回の公爵令嬢人生でも闇属性は使えたが、契約できた闇の使徒は末端もいいところだった。
 いずれ光の天使を下ろすことを目標とするなら、体を鍛えて魔力を増幅することは、これまで通り続けるべきだろう。
 眠そうに目をこすっているスティラを抱き上げ、アリーは筋肉特戦隊を眺め回した。夢の世界に入りかけているお姫様を見てまで、特訓を続けたいとのたまう輩は、さすがにいなかった。
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