9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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いっしょう!

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 9回目の処刑から計算すると、およそ17年ぶりに見た王宮はやっぱり記憶にあるとおりだった。
 オランドリア王国はまあまあ強い国だし伝統があるし、その王宮ともなるとやはり大きいのだ。
 国土も広いから、貴族もたくさんいる。領地を持たない称号だけの男爵、子爵なんかもたくさんいる。
 クルネア男爵家にはかろうじて領地があるが、王宮侍女としての格は高くない。それでもまあ、出世コースに乗ったことにはなるけれど。

<前世のグランツ公爵家にも、男爵や子爵家出身の侍女がたくさんいたものねー。この国、末端貴族の数が多すぎ>

 母のおさがりの粗末なドレスに小さな手提げかばんひとつを持って、アリーは王宮に足を踏み入れた。
 公爵令嬢アリーシアの時には使ったことのない、裏口からの出入りだ。

「アリー・クルネアさんね。待ってたわ、早速この侍女服に着替えて頂戴。スティラ様は東の離宮にいらっしゃるから、そっちに行ってもらうわ。あそこは慢性的に人手不足だから何でもしてもらうことになるけど、あなた頑丈そうだから大丈夫ね」

 おてんとうさまに当たって畑仕事をしすぎたせいで、しっかり日に焼けているアリーを見ながら侍女頭が鼻で笑った。

<あら、やっぱりマリアンヌが侍女頭なのね。そこらへんは、やっぱり前世と同じ>

 伯爵家の6女から、侍女たちをまとめる立場まで上り詰めたマリアンヌは大変性格が悪かった。
 公爵令嬢アリーシアには、平身低頭してたけど。

「はい、わかりました」

 アリーは侍女服を受け取り、ぺこりと頭を下げた。たかが男爵令嬢が、淑女らしくひざを折ってご挨拶したら、そっちの方がびっくりされるだろう。ど田舎出身であることは、あいては先刻承知だろうし。
 更衣室を借りて侍女服に着替え、アリーは東の離宮を目指した。王宮の一角に、ひときわ古びた建物がある。

<何代前の王妃様かは忘れたけど、とにかくものすごく昔の人が療養するために建てられたのよね、あの離宮……>

 アリーがお仕えすることになっているスティラ様は、御年10歳。奇遇なことにジャンと同い年だ。

「はじめまして、クルネア男爵家から参りました、アリーと申します!」

 離宮の扉をくぐっても、執事も誰も出てこなかったので、アリーは仕方なく声を張り上げた。
 しかし返事がない。慢性的に人手不足にしても、王女の使用人がただのひとりもいないなんて──この王家ならありうるな、とアリーは眉を顰めた。

<マクシミリアンのお母様、ベルフィア様はとにかく嫉妬深い人。私も可愛い息子を奪う女狐ってかんじで、かなり睨まれたし……>

 王女スティラの生母は、王宮の湯殿番という末端にもほどがある身分だった。侍女どころか下女に手を出し、あまつさえ妊娠させたとあって、ベルフィア様の怒りはすさまじいものがあったという。

「かといって10歳の女の子に、なんて暮らしをさせてるのかしら。これはちょっと許せませんわね……」

 捨て去ったはずの公爵令嬢モードが復活しそうになって、アリーは慌てて首を振った。
 案内役が誰も来ないので、ずかずかと離宮内に入っていく。
 どこもかしこも古びて、手入れの行き届かない建物を進むと、やがて廊下の日当たりのいい一角で寝そべっている女の子の姿が目に入った。
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