12年目の恋物語

真矢すみれ

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13年目のやさしい願い

2.はじめての怒り

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 くっそー!! ハルのバカタレ。

 ……あ。もしかしたら、オレは今、生まれて初めて、ハルのことを悪く思ったかもしれない。
 そんな自分を少し後悔した。

 ハルがああいう子だってのは、よーく分かってたんだ。ハルはあんなに、か細くて弱々しく見えるのに、実は結構しっかりしている。幼なじみ時代に終止符を打って、恋人になった今だって、オレに甘えたり頼ったりなんてしないんだ。
 そうして、公平で生真面目。悪く言えば融通が利かない。
 自分が折れれば済むことなら、平気でいくらでも譲ってくれるから、そんな頑固なハルを知ってるヤツは、ほとんどいないだろうけど。
 そう。こうなるのは分かってたんだ。もしバレたら、ハルがオレの不正を見逃すはずはないって。

 ……分かっていたから、ずっと隠し通していたのに。

「腐れ縁だな」って言うオレの言葉を信じて疑いもしないようなハルだったのに。

 くそったれっ!
 オレは、ハルにこのことをバラしたヤツの顔を思い出して、奥歯を噛みしめた。
 去年、そのせいでオレとハルの関係はこじれにこじれて、ハルは危うく死にかけた。それがきっかけで晴れてハルの恋人になれたのだけど、だからといって、とうてい許せるモノではない。
 くそうっ! どうしろってんだっ、まったく!



「叶太、本当に良いのか?」

 親父に聞かれたのは昨日の夜。

「え? なにが?」

 夕食後、リビングでくつろいでいる時、藪から棒に飛び出した親父の言葉に、思い当たるようなことは何もなかった。

「本当に、陽菜ちゃんと違うクラスで良いのか?」

「……は? なんのこと?」

 思わず、ぽかんと口を開けたオレに、親父は呆れたように言った。

「陽菜ちゃんから、おまえと同じクラスにしろって、学校に頼むのをやめてくれって言われたぞ」

 ……え?

「なんだって!?」

 思いもかけない言葉を聞いて、オレは思わず親父をジロリと見た。

「おいおい、親切に教えてやったパパをにらみつけるなよ。ここは、ありがとうだろ」

 パパってなんだ、パパって。
 この人は、どうもいつまでも自分を子ども扱いする。と言うか、こうやって自分をからかう。
 って今はそんなの、どうでもいい話で、問題は親父の言った話の内容。

「親父、もっかい言って。ハルがなんだって?」

「男の子はつまらんなぁ。怖い声で親父だもんな。色気も素っ気もない」

 オレをからかうように親父は言う。
 オレがじとーっとにらむと、親父は肩をすくめて続けた。

「陽菜ちゃんが、学校に、おまえと同じクラスにしてくれと頼まないでくれって」

 オレがその言葉をかみしめていると、親父は面白そうに続けた。

「で、学校に、今年は二人を敢えて同じクラスにする必要はない……って伝えておけばいいのか?」

「っんなわけ、ねーだろっ!!」

 思わず怒鳴り返すと、親父は「どうどう」と楽しげにオレの肩を叩いた。
 ……馬じゃねーし。

「いつも通りで頼むわ」

「ん? 聞こえないな」

 ちっ。人のことからかいやがって。

「いつも通り……ハルと同じクラスになれるよう、お願いします!」

 半ば誘導されて言い換えたのに、親父は、だけどな、と続けた。

「陽菜ちゃんからは、絶対よ、おじさまって頼まれたんだ」

「え?」

「だから、残念だけど、あきらめてくれ」

 親父はいかにも申し訳ないという雰囲気で言う。けど、本気で悪いなんて思っていないのは明らかだ。

「おい、親父!?」

 ちょっと待てよ!!

「だって、おまえ、言ってこなかったじゃないか」

 そ、そりゃそうだけど!!
 そんなの例年のことで、親父だって、去年は、いつもみたいに頼んでおけばいいのかって聞いてくれたじゃないか!

「やっぱり早い者勝ちだよな、こういうのは」

「でも!!」

「しかし、陽菜ちゃんは相変わらず、生真面目だな」

 と親父は目尻を下げて、楽しげに笑う。
 ハルのことを話す時、親父はやたらと幸せそうな顔になる。
 そう。うちの親父もお袋も、ハルのことが大好きだ。
 優しくって穏やかで、抜群に性格がいい上に、愛らしく整った顔立ちのハル。女の子が欲しかった二人が、ハルを好きにならないわけがない。
 だけど、それとこれとは別問題だ。

「まあ、叶太。ここは諦めて、運を天に任せてはどうだ?」

「任せたらどうなるの?」

 オレは憮然として、聞き返した。

「そりゃ、別々のクラスだろうな」

「なんでだよ! 運を天に任せるって言っておいて、なんで別クラス決定なんだよっ!?」

「学園長から打診が来ていてね。今年はどうしますか、と」

「で?」

「陽菜ちゃんに頼まれたとおり、あえて同じクラスにする必要はないと答えたよ」

 ……………っ!!
 ギリギリとオレは奥歯をかみしめた。

「そう怖い顔でにらむなよ」

「親父がそんなことを言ったら、」

「そうだろうな。同じクラスにして欲しくないんだと思うだろうな」

「勘弁してくれよっ!!」

 親父は肩をすくめた。

「ま、事前に教えてやったんだ、パパに感謝しろよ」

 この期に及んで、何がパパだ。

「感謝できるかっ! くそっ!」

 舌打ちすると、親父は苦笑した。

「叶太。言葉遣いには気をつけなさい」

 そうして、親父は頭から火を噴きそうなくらいに怒っているオレの肩を、ポンと叩いて、

「検討を祈る」

 なんて言葉を言い残して、笑いながらリビングを後にした。
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