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第七章 紅白さまのお札

(四)がらがら寺

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なんとも、ほこりっぽい。
塔の中は、やたらほこりが舞っていた。
丸窓が大きいためか、日が入って明るいもののもやっとなっている。さらに、床はというと木簡らしき文字の刻まれた木札がやたらと散らばり、棚も横倒しとなっている。ちょうど部屋の真ん中には、二階への階段があったが途中から崩れ落ちていた。
さて、どうしたものかと才蔵は仰いだ。
「いや、上にはおらぬ」
秀麿はけろっという。そして階段の上がり口へゆくと杖で床を叩いた。すると床板がずれた。才蔵がさっそくはずしてみる。はたして、下りる階段があった。
「ここも、地下なのか」
「薬庫がある。そこをねぐらにしておったとな」
やおら、秀麿は腰袋から手持ちの燭台を出すと火打ち石で火を灯す。それでそのまま下りていった。才蔵は苦い笑い。
「いよいよか、またもやか」
「おそらくよ」
その階段はどれほどもゆかぬうちに地下に下りた。石積みの壁のなか燭台をかざすと、手前に扉がある。さびた鉄枠の扉であった。
「蹴破れそうもないな」
ふと、秀麿が左の壁を燭台で照らす。扉の近くに窪みがある。そこへ手を入れると、じゃらりとはずれた錠前があった。
「ふむ、やつはおるな」
いるか、いるのか、と才蔵はいままさに飛び込もうとする。それを秀麿が止めた。
「下手に入って、玉をくらってはたまらぬ」
それもそうかとなった。これで爆発したら逃れようもない。もろにあびてしまう。ゆえにと、お歯黒が笑った。
「こちらが、玉をくらわせる」
なるほどと才蔵はなる。中なら、どかんとなっても扉が爆発を防ぐ。そしてやつは半死半生。こんな暗く狭い処で戦うこともない。
手早く秀麿は玉に火をつけると、ひの、ふの、みっつで、扉を少し開けて放つと、すぐに閉じる。どおんと爆発があった。二人で扉を押さえるも、ぶるっとゆれた。
じわりと、わずかな隙間から煙が流れる。しんと静かになった。
「やったか」
「はてさて、のぞいてみるか」
そろりと扉を押して入る。ともあれ、真っ暗であった。秀麿が燭台を照らす。薬庫はさすがに滅茶苦茶であった。
ここにはちりぢりの書物や巻物があった。壊れた棚の木片のほかに、枯れた葉やら干からびた皮、砕かれた骨が散らばり足の踏み場もなかった。
頼りない燭台の灯りでやつを捜す。掻き分け、掻き分け捜すもいない。なにか背が冷やりとする。
そもそもと才蔵はなる。ほんとに居たのか。
けれど、それが爆発でよくわからない。なにもかも跡が消えている。かえって、ほうろく玉が仇となったか。そのくせ、ひょいと坊主が出るかもしれない。いまにも闇から出るかもしれない。
ふいに、秀麿が呼ぶ。
「ずれた床板がある」
もしやと、才蔵がゆくと床板はなんなく取れて、そこにはひとひとりの穴があった。その下は蔵なのか、瓶がいくつもある。下りる梯子が壊れており屈んでのぞくしかない。
「まろは、うまく屈めぬ」
燭台を渡され才蔵がのぞく。薬庫より小ぶりなところ。瓶のほかにこれというものはないものの、瓶のなかは油やら、火薬のものでもあるのか、ぷんとにおった。
「やつはおらぬか、おらぬのか」
それで、さらにのぞき込む。するとまたもや、蔵の床に下への階段があった。
「おっと、あるぞ。まさか、あっこか」
と、ここで、のこのこいってよいものか。
「さて、あの先にはなにがある」
「はておそらく、奈落」
えっと才蔵は振り向いた。
「ひゃあっ、あそこ、やつめがおる」
なにと、またのぞいたとき、ふっと燭台を吹き消された。真っ暗になる。とたん、才蔵は蹴り落された。ちちっと導火線の燃える音。つづいてどかんと爆発があった。それで瓶の油に飛び火したのか、辺りは瞬く間に火の海に包まれた。
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