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第五章 白鈴の文

(四)明国

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ぎいっ。
廊下をそろり、そろり。
手燭を手に先をゆく阿国に白鈴をおぶった千石、具合をうかがう百学とつづく。
さらっと、ふすまを開けた。
その部屋は大荒れのまんまだった。
「いけねえな。なら、小雪と小桜を呼びにいくかい」
「いや、明日は早い。舞台に向け段取りがいる。二人がぴりっとしてくれないとね。ここは、あたしがやるよ」
阿国は手際よく散らばる書付や巻物を葛篭へ戻してゆく。百学が布団を敷き直すと、そこへそっと千石が白鈴を寝かせた。
ふと阿国が百学に問うた。
「このあと、王鈴とまた船蔵かい」
「はい。才蔵さんの火薬が飛ばされたので、その分をもらうために」
「すると、そこから才蔵の蔵へ」
「火薬丸をこさえてあげないと。あれは厄介ですから」
ふうんと阿国はなにやら腕組み。
「さて、姉さん。あれで太鼓腹のお狸は、おさまるかね」
「じたばたしたら、かえってどじを踏む。それは悟ったろう」
ううっと白鈴が寝返りをうった。
額に手をやる百学は、ふむと笑った。
「よし、では旦那もお疲れだね」
「えっ、お開きか。ちょっと、あのさとりとやらは、どうする」
「はてさて」
だから、という千石に阿国はただ笑うばかり。
千石はむくれるも、立ち上がった。
「ふむ、南蛮には催眠とやらの術があるとか。それで心を空にしたら。でもそれで戦えるのか。ならいっそ、甘茶屋を仲間に、ひのふのみっつでいっぺんに攻めれば、悟れても避けられまい。ただ、いまさら呼び戻せるのか」
ぶつぶつと部屋をあとにした。
百学が手桶に水を張ってくる間に、阿国はびりびりに破れた紙切れを拾い、ようやく部屋がかたづいた。
ちゃぷりと音。
手桶を置くと百学は浸した手ぬぐいを白鈴の額にあてた。
「いや、色々とあったのですね。でも、和国でようやく」
「ふっ、すんなりといくものかい」
「えっ、あれからも」
「どうやって、こっちで王鈴の店をみっけるの。唐からやっとこさ逃げてきたのだろ。たどり着いたところで、西も東もわからない」
「そうか」
「なんとか、薬草を採っては銭にして、食いつないでたってね」
「なるほど」
「そんな旅のなか、白鈴はある湊で水夫から堺のことを知った。あそこは唐のものもおる。なにか、わかるかもと。さらに、この先の祭りで一座が芸をやってる。このあと堺へゆくから、頼んでみなってね。二人は小躍りしたそうな」
「それが、姉さまの一座」
「いいや。そいつらはひと買いのやつら。水夫は手先かね」
「だまされた」
「ところが、白鈴がへまをやった。たまたま通りかかった、うちの一座に飛び込んできたのさ。あげく、堺へお願いとしがみついてくる」
「助けてあげた」
「追っ払おうとした」
「げっ」
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