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番外編:エリオット殿下とお忍びデート。3

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 翌朝、扉がノックされる音で目覚めた。私はガウンを羽織り、扉に近付く。

「カリスタ、君の服を持って来た」
「……! 殿下が自ら……?」

 扉越しに声が聞こえる。私はそっと扉を開いた。その隙間から服を受け取って、「すぐに着替えます」と口にして扉を閉める。平民の服なら、私でも一人で着替えられるだろう。そう思ってパタパタとベッドの近くで着替えた。
 ……平民っぽい服、に偽りなく、肌に触れるそれは肌触りの良いもので……。ロングスカートに長袖のシャツ、それからショールを身につけ、帽子を被る。靴も用意されていたからそれを履く。……帽子と靴まで用意していたとは……。姿見に映る姿を確認して、私は扉を開けた。

「……うん、ドレス姿じゃない君を見るのは新鮮だね」
「……殿下の姿も新鮮ですわ」
「行こう、今なら抜け出せる」

 すっと手を差し出されて、私はその手を取った。……こんなにラフな格好のエリオット殿下を見るのは初めてだ。それでも、殿下から溢れ出す気品は隠しようがない。こんな平民居ないだろうとツッコミを入れたくなったけど、殿下の表情が明るかったから、何も言えなかった。
 まだ早朝と言うこともあり、あまり人の気配がないような気がする。殿下は「ここ抜け道なんだ」と抜け道を教えてくれた。外に出ると、そのまま市場へと向かう。城から市場に向かうのにも近道があるようで、そこも教えてくれた。城を抜け出してから小一時間も掛からず、市場へと……。

「わぁ……!」
「早朝でも賑わっているだろう?」
「はい、すごい活気ですね……!」

 どんなものが売られているのかな、とか、美味しそうな匂いがするな、とか、実際この目で見るとすごく活気があふれていて、みんな楽しそうに買い物をしていた。

「カリスタに見せたかったんだ。わたしたちが守るべきものを」
「……殿下」
「おっと、今は『殿下』はやめてくれ」
「……エリオット?」

 ふわっとエリオットが微笑む。そんなに嬉しそうに微笑まれると、何だか気恥ずかしくなってしまう……!

「……行こう」
「はい」

 手を繋いだまま市場を歩いていると、色々な物が売られているのに目移りしてしまう。野菜やお肉はもちろんのこと、小物までも売られていて驚く。そして、市場の人たちの活気にも。
 みんなはこんなところで日々の買い物を楽しんでいるのね……と、何だか楽しくなって来た。実際はお金を持って来ていてないから、見ているだけなのだけど。
 そんなことを思っていたら、エリオット殿下が串焼きを売っているお店で串焼きを買い、私に一本持たせた。それから、ジュースを売っているお店でジュースも。手を離してジュースもしっかり持つ。

「ベンチで食べよう」
「え、と、はい」

 ベンチも割と賑わっていたけれど、空いているスペースに二人で座る。

「オレンジジュースで良かった?」
「ありがとうございます」
「……こうやって、カリスタと一緒に食べたかったんだ」

 一緒に食事をすることはあるけれど、こんな風に食べるのは初めてだ。私は殿下に、「いただきます」と頭を下げてから串焼きを食べた。ジューシーなお肉に、丁度良い加減の塩味。一緒に焼かれている野菜は甘くて美味しい……!

「普段、わたしたちが食べているものとは違うけれど、美味しいよね」

 こくこくとうなずくと、エリオット殿下は嬉しそうに笑った。……この人は、こんな風に笑うのね、と改めて思った。そして、この国を愛しているんだわ、とも。
 だって、こんなに愛しそうに見ているんだもの。

「……愛しているんですね」
「え?」
「この国の人たちを」
「…………そうだね。うん、そうだ」

 串焼きを食べ終わり、オレンジジュースを飲む。……濃い! 美味しい!
 食べ終わり、ゴミはゴミ箱に入れてからデートを再開する。
 ちょっと不安だったけれど、もうすでに楽しい……!

「それじゃ、腹ごしらえも済んだところで、デートを再開しようか」
「はい」

 もう一度手を繋いで、私たちは市場から離れた。
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