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36話

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 ……わたくしたちの動きが止まり、ぎぎぎ、と音が鳴りそうなほどぎこちなく首を動かして扉へと視線を向ける。お父様が「あ~……」と申し訳なさそうな声を上げて、それから頭を掻いた。

「ごめん?」

 両手を重ねてそう言うお父様に、わたくしとリアンはゆっくりと息を吐いた。

「それにしても本当に大人の姿になったんだね、アリコーン様。子どもの姿も可愛かったですが、大人になると美形なんですねぇ……」

 じーっと上から下までリアンを見て、お父様がそんなことを口にする。……本当にもう、このお父様は! わたくしがはぁ、と小さく息を吐くとハッとしたようにお父様が咳払いをして、表情を真剣なものに変えた。

「イザベラ、アリコーン様。……ひとつ、お願いがございます」
「ど、どうしたの、お父様。そんなに改まって……」

 お父様の真剣な瞳に、わたくしは戸惑った。

「――陛下が目覚めた。一度、顔を見せてやってくれないか……」
「……陛下? ……それは、もしかして……」
「ああ……、イザベラにとっては祖父だよ」

 神帝国の陛下。実を言うと一度もお会いしたことがない。ランシリル様は元気だと口にしていたけれど、やはり……具合は悪かったのかな……?
 そんなことを考えながら、わたくしはリアンに顔を向ける。リアンは小さくうなずいて、それからベッドから降りてわたくしに向けて手を差し伸べた。

「イザベラのおじいちゃんなら、会ってみなきゃ」
「……ええ、ありがとう、リアン」

 彼の手を取って立ち上がる。どこかホッとしたような表情を浮かべて、お父様は「こっちだよ」と私たちをおじい様のところへと案内してくれた。
 おじい様の部屋の前には、ランシリル様とお母様が居て、わたくしたちを待っていたみたいだ。

「……大人の姿、格好良いわね」

 ひっそりとお母様がわたくしにそう言った。小さくうなずく。誰が見ても、今のリアンは格好良いと思うから。
 ランシリル様はわたくしとリアンに視線を向けると、お父様へと顔を向けた。お父様がこくりと首を縦に動かすのを見て、そっと扉をノックする。

「入れ」

 厳かな男性の声がした。ランシリル様が扉を開けて、お父様、お母様、わたくし、リアンの順に入室すると、ランシリル様が最後に入って扉を閉める。ベッドの上に座る老人――この方が、神帝国の陛下……? 白髪交じりの髪の毛、やつれた表情。具合はあまり良くないように見える。

「……お久しぶりです、父上」
「――愚息が帰って来ていたか」

 お父様が近付いて、声を掛けると……おじい様はちらりとお父様へ視線を向けた。……あ、目元……お父様に似ている……いいえ、お父様が似ているのね。

「ランシリル、私はどのくらい眠っていた?」
「約半年ほど。お目覚めになられて大変嬉しく思います、陛下」

 そっとランシリル様がわたくしの背中を押す。わたくしたちの存在に気付いたおじい様は、怪訝そうな表情を浮かべた。

「父上、紹介します。我が妻のユーニスと、娘のイザベラです」

 お母様がすっと裾を持ち上げてカーテシーをするのを見て、わたくしも慌ててカーテシーをした。おじい様はわたくしたちをじっと見つめると「……そうか」と呟く。

「そして、イザベラ様は『ユニコーンの乙女』です」
「……『ユニコーンの乙女』?」

 近くにユニコーンが居ないからか、おじい様は少し残念そうだった。だけど、額に角を持っているリアンの存在に気付くと、その角を凝視した。

「イザベラのおじいちゃん、初めまして! ボクはリアン。アリコーンだよ!」

 あまりにも明るいリアンの声に、おじい様は目を白黒とさせて、それから悩むように眉間に皺を刻んだ。

「ユニコーン様は人間になれるのか……?」
「うん。イザベラ以外の人とお話しするには、ボクが人型にならないとダメなんだ!」
「……なんとまぁ、この歳でこのような経験をするとは思わなんだ」
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