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3章
141話
しおりを挟む真名の誓いを交わした、わたしとアルマ、それからスライムのシオンは、大聖堂から出ていった。
扉の近くにルーカス兄さまたちがいて驚いた。
「話は終わったのか?」
「うん。じゃあ、改めて紹介するね。わたしの専属侍女になった、アルマです!」
ぐいっとアルマの手を引いて、腕を組んだ。
「……改めて、ご挨拶させていただきます。エメライン・サラ・マクファーソンと申します」
あれ、アルマは名乗らなかった。そういえば、バーナードもファーストネームは名乗らないよね。
どうなっているんだ、この国の名前事情。
「……真名の誓いを交わしたか」
「はい。アクアさまなら、受け入れていただけると思いましたので……」
……わたしのことを大らかな人だと思っていそうだなぁ。実際そんなことはない……と思う。
リネットの記憶を取り戻してから、なんだか記憶がごっちゃ混ぜになっている気がする。そういうのって、わたしの性格にも影響あるのかな?
「ええと、じゃあ屋敷に帰ろっか。アルマのことを紹介しないといけないし」
セシリーたちに紹介して、アルマの部屋を決めて――うん、やることはたくさんある。
ステラの肖像画を見たいって願いは叶ったし、これ以上ここにいると注目を浴びそうだわ。
「ルーカス兄さまは、一緒に戻る?」
「ああ。仕事も残っているしな」
……仕事よりもわたしとの神殿訪問を優先してくれたのか……。相変わらず、わたしに甘いなぁ。
そんなルーカス兄さまに感謝しつつ、わたしたちはモーリスさんとリリィに見送られながら、神殿をあとにした。
「ねえ、ルーカス兄さま。この国での名前って、ファーストネームを隠す風習でもあるの?」
「それは西のほうだ」
「アルマは?」
馬車に乗り込んで、わたしの住んでいる屋敷まで向かっている途中で、ふと気になってルーカス兄さまに聞いてみた。
「アルマが名乗ったのって、『エメライン・サラ・マクファーソン』だったでしょ? でも、アルマは真名の誓いで……」
「ああ……。マクファーソン家も出身は西のはずだ。西からこっちに来た理由も、『手ごたえのある魔物を倒したくて』だしな」
窓の外を眺めながら、ルーカス兄さまが驚くことを口にした。
「えええっ? 魔物退治のためにこっちに来たの!?」
「そのはずだ。私も驚いたよ。西のほうは魔王がいるから、魔物たちが大人しいらしい」
……血気盛んな人だったのかな、若い頃。いや、今も若いとは思うけど。
一度会ったことのあるマクファーソン夫妻を思い出しながら、肩をすくめた。
「人間と争うよりは、戦いやすい、とのことだ」
「それはまた、なんともコメントしづらいことを……!」
人間と魔物。人の姿をしていない分、魔物のほうが戦いやすいってことなのかしら……。一体、西のほうでなにがあったんだ。
「……西のほうでは、人間と魔物の争いってあんまりないのかな?」
「恐らくな。こっちだと魔王がいないから、魔物も暴れ放題。ある意味自由にやっていると思うぞ」
あ~、前に作物が荒らされたとか、飼っていた牛を食われたとか聞いたことあるな……。
「魔王がいたら、もう少し変わるのかしら?」
「どうだかな……。魔王は魔王でも、きちんと魔物を統(す)べることができるヤツじゃないと……」
こっちの大陸には国がそれぞれあるけれど、魔王はひとりで魔物を統べないといけないのかな。……そうだとしたら、かなり大変そうだ。
「まあ、実際魔王に会ったことがないから、なんとも言えないが……」
「会いたい?」
「いや、あまり……」
会いたくないっぽい。
ルーカス兄さまの仕事ってかなり大変そうだもんね。これ以上悩みごとを増やさないように、わたしが力になれたら良いのだけど……。
「ルーカス兄さま、わたしにできることはなんでも言ってね」
「アクアにはもう充分に助けられているよ。瘴気の有無で呼吸が楽になったり、苦しくなったりするんだな」
喉元に手を置いてしみじみとつぶやくルーカス兄さまに、私は眉を下げた。
「ルーカス兄さまも大聖女ステラの孫だもの。きっと、自分で思っている以上に、瘴気に関して敏感なんだと思うわ」
「私が?」
「うん。だってそうじゃないと聖剣なんて効果ないと思うし……」
聖剣セイリオス……。大聖女ステラと、私の神力を合わせた剣。それを振るえるのは、やっぱり『選ばれた人間』だと思うのよね。
そういう『選ばれた人間』が剣を振るうことで、ようやく本来の力を発揮できるのだと……考えているんだけど、どうなんだろう?
バーナードやディーンが振るっても同じ効果はあるのかしら?
まあ、ふたりともルーカス兄さまの持っている剣を持ちたいとは思わないだろうけど。
「そんなものか?」
「セイリオスを振るう姿を見たのは、ルーカス兄さまだけだからわからないけど……たぶん」
一撃で敵を薙ぎ払うことができるのは、ルーカス兄さまの力じゃないかなぁ?
ダラム王国で見たルーカス兄さまの戦うところ。
確かにあんなに強かったら護衛は必要ないだろうって思う……。
「あ、そういえばララとはどんなことを話しているの?」
「いろいろなことだ。コボルトの考えることは面白いな。そして、とても同族思いだ。我々も見習ったほうが良い」
……一体どんなことを話してたんだろう……。
ララは頭が良さそうだし、コボルト社会と人間社会の違いをルーカス兄さまに話していたのかな?
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