132 / 153
3章
132話
しおりを挟む
彼らはここアルストル帝国で魔物討伐隊として働いていた。
ひょんなことからわたしがディーンを助けたのがきっかけで知りあった。
そして、いろいろあって、彼らはわたしの護衛としてこの屋敷に住んでいる。
――いや、本当にいろいろなことがあったわ……。思わず目元を細めて遠くを見る。
「アクア?」
「大丈夫か?」
「ああ、ごめん、大丈夫よ……。ちょっと、数ヶ月前までのことを思い出していただけだから」
ディーンとバーナードも祈りを捧げ、三人で食堂に向かった。
食堂にはすでにセッティングされていた。それもそのはず。
なんと今日は、ルーカス兄さまも一緒に朝食を食べるのだ。
と、いうのも、リリィに会いに(他の聖女や聖者も気になっていたし)行きたいとルーカス兄さまに相談したら、「なら、私も行こう」とさらっと言われたのよね。
で、どうせだから一緒に朝食を食べてからにしようってことになり、神殿に行くからわたしは聖職者のローブを着たいと自分の要望を伝えると、ルーカス兄さまがこっちに来てくれることになったの。
「……陛下の口に合えば良いのですが……」
そう言ったのは料理長。
……そう、料理長を決めたのだ。
みんなでいろいろと話し合った結果、一番料理上な人に決まった。本人は『マジっすか!?』と驚いていたけれど、彼の料理の腕は確かだ。
いや、本当……この屋敷に人が集まったおかげで、最初の数ヶ月の手探りはなんだったんだってくらい、役割が決まっていった。
まずはわたし、アクア・ルックス。このルックス邸の主人だ。
その正体はなんと、大聖女ステラの孫にして王族の血を引く『リネット・アンジェリカ・ウィルモット』。
……自分でなんと、っていうとちょっと虚しいわね……。
わたしは五歳の頃、ダラム王国(現アルストル帝国の領地)に攫われた。その時、大好きだった両親や護衛を失った。その記憶を封じ込めて、ダラム王国の神殿で『アクア・ルックス』と名付けられ、聖女としてダラム王国を守っていた。……守っていた、つもり。
そしてある日突然、偽物の聖女だから追放するっ! ってダラム王国から追放された結果、このアルストル帝国にたどり着いた。
……たどり着いたというか、ダラム王国の神官長の優しさ(?)でここまで飛ばされた。
わたしの現在の役目は、『ルーカス兄さまの味方でいること』。
現帝王とはいえ、ルーカス兄さまの信頼できる味方は多くはないらしい。
ダラム王国にウィルモット家の旅行がバレていた件、見知らぬ人が突然街道でナイフを振り回していた件、わたしを襲った人たちが呪術で亡くなった件――。
ルーカス兄さまは、そのことが繋がっていると考えている。
そして、どういうわけか知らないけれど、わたしはどうやら狙われているようだ。
どうして命を狙われているのかはわからないけれど、どうあっても『アクア・ルックス』が邪魔な人がいるということ。
だけど、そんなことでめげるわたしじゃない。
わたしは戦うことを決めた。
だから現在は、家庭教師であるユーニスに週三日来てもらい、様々なことを学んでいる。
次にディーン。
彼は元魔物討伐隊の隊長で、瘴気の森と呼ばれていたところで大けがをしていた。それを助けたわたしは、ディーンの誘いに乗ってノースモア公爵家でメイドとして働くことになった。
……約十日でクビになったけどね!
まあ、それは置いといて……。ディーンは水色に近い銀色の髪と薄紫の瞳がとても似合うイケメンだ。……残念ながらわたしの好みではないのだけど、誰が見ても『この人素敵!』というだろう。多分。
そんな彼だが、実は人間ではないらしい。
魔術で作られた人間――……。それがディーンの正体だ。
ルーカス兄さまの前の陛下が、永遠の命を望んだ結果……らしいが、本人はそんなこと知らないようなので、わたしも普通に接している。
その秘密を知る人は、わたしの他にルーカス兄さま、そしてバーナードだ。
「アクア?」
ぼーっとしているように見えたのか、ディーンがわたしの目の前で手を振る。
ちらりとディーンとテーブルに視線を向けて、肩をすくめた。
「……うーん、なんというか……朝から豪勢ね……」
テーブルの上には次々と料理が乗せられていく。
朝からこんなに作ったのか……昨日、一体どれくらい仕込んだのだろう?
「そりゃあまぁ、陛下が来るってわかったら、張り切らないワケにはいかないだろうからな……」
バーナードもその量の多さにちょっと引いている。
――ルーファス・バーナード・セシル・ピアソン。
わたしに真名の誓いをした人。
……とはいえ、現在はそんなことあった? ってくらい前と同じ態度だ。そりゃあ、いきなり態度がガラっと変わったら驚くけれど、誓った後も普通に接してくれるから、あれはバーナードなりに気を遣ってくれたのかなぁ? とも考えるわけで……。
いやまあ、それはいいの。今のわたしは、なぜわたしが狙われているかが知りたいし、対処したいから。
それに……わたし自身がバーナードをどう思っているか、なんてよくわからないしね……。
ゆっくりと考えられるようになってから……なんて思っていたりする。
真名の誓い――。わたしたちを結ぶその誓いに、レディとして応えられる日がくるのかな……?
ひょんなことからわたしがディーンを助けたのがきっかけで知りあった。
そして、いろいろあって、彼らはわたしの護衛としてこの屋敷に住んでいる。
――いや、本当にいろいろなことがあったわ……。思わず目元を細めて遠くを見る。
「アクア?」
「大丈夫か?」
「ああ、ごめん、大丈夫よ……。ちょっと、数ヶ月前までのことを思い出していただけだから」
ディーンとバーナードも祈りを捧げ、三人で食堂に向かった。
食堂にはすでにセッティングされていた。それもそのはず。
なんと今日は、ルーカス兄さまも一緒に朝食を食べるのだ。
と、いうのも、リリィに会いに(他の聖女や聖者も気になっていたし)行きたいとルーカス兄さまに相談したら、「なら、私も行こう」とさらっと言われたのよね。
で、どうせだから一緒に朝食を食べてからにしようってことになり、神殿に行くからわたしは聖職者のローブを着たいと自分の要望を伝えると、ルーカス兄さまがこっちに来てくれることになったの。
「……陛下の口に合えば良いのですが……」
そう言ったのは料理長。
……そう、料理長を決めたのだ。
みんなでいろいろと話し合った結果、一番料理上な人に決まった。本人は『マジっすか!?』と驚いていたけれど、彼の料理の腕は確かだ。
いや、本当……この屋敷に人が集まったおかげで、最初の数ヶ月の手探りはなんだったんだってくらい、役割が決まっていった。
まずはわたし、アクア・ルックス。このルックス邸の主人だ。
その正体はなんと、大聖女ステラの孫にして王族の血を引く『リネット・アンジェリカ・ウィルモット』。
……自分でなんと、っていうとちょっと虚しいわね……。
わたしは五歳の頃、ダラム王国(現アルストル帝国の領地)に攫われた。その時、大好きだった両親や護衛を失った。その記憶を封じ込めて、ダラム王国の神殿で『アクア・ルックス』と名付けられ、聖女としてダラム王国を守っていた。……守っていた、つもり。
そしてある日突然、偽物の聖女だから追放するっ! ってダラム王国から追放された結果、このアルストル帝国にたどり着いた。
……たどり着いたというか、ダラム王国の神官長の優しさ(?)でここまで飛ばされた。
わたしの現在の役目は、『ルーカス兄さまの味方でいること』。
現帝王とはいえ、ルーカス兄さまの信頼できる味方は多くはないらしい。
ダラム王国にウィルモット家の旅行がバレていた件、見知らぬ人が突然街道でナイフを振り回していた件、わたしを襲った人たちが呪術で亡くなった件――。
ルーカス兄さまは、そのことが繋がっていると考えている。
そして、どういうわけか知らないけれど、わたしはどうやら狙われているようだ。
どうして命を狙われているのかはわからないけれど、どうあっても『アクア・ルックス』が邪魔な人がいるということ。
だけど、そんなことでめげるわたしじゃない。
わたしは戦うことを決めた。
だから現在は、家庭教師であるユーニスに週三日来てもらい、様々なことを学んでいる。
次にディーン。
彼は元魔物討伐隊の隊長で、瘴気の森と呼ばれていたところで大けがをしていた。それを助けたわたしは、ディーンの誘いに乗ってノースモア公爵家でメイドとして働くことになった。
……約十日でクビになったけどね!
まあ、それは置いといて……。ディーンは水色に近い銀色の髪と薄紫の瞳がとても似合うイケメンだ。……残念ながらわたしの好みではないのだけど、誰が見ても『この人素敵!』というだろう。多分。
そんな彼だが、実は人間ではないらしい。
魔術で作られた人間――……。それがディーンの正体だ。
ルーカス兄さまの前の陛下が、永遠の命を望んだ結果……らしいが、本人はそんなこと知らないようなので、わたしも普通に接している。
その秘密を知る人は、わたしの他にルーカス兄さま、そしてバーナードだ。
「アクア?」
ぼーっとしているように見えたのか、ディーンがわたしの目の前で手を振る。
ちらりとディーンとテーブルに視線を向けて、肩をすくめた。
「……うーん、なんというか……朝から豪勢ね……」
テーブルの上には次々と料理が乗せられていく。
朝からこんなに作ったのか……昨日、一体どれくらい仕込んだのだろう?
「そりゃあまぁ、陛下が来るってわかったら、張り切らないワケにはいかないだろうからな……」
バーナードもその量の多さにちょっと引いている。
――ルーファス・バーナード・セシル・ピアソン。
わたしに真名の誓いをした人。
……とはいえ、現在はそんなことあった? ってくらい前と同じ態度だ。そりゃあ、いきなり態度がガラっと変わったら驚くけれど、誓った後も普通に接してくれるから、あれはバーナードなりに気を遣ってくれたのかなぁ? とも考えるわけで……。
いやまあ、それはいいの。今のわたしは、なぜわたしが狙われているかが知りたいし、対処したいから。
それに……わたし自身がバーナードをどう思っているか、なんてよくわからないしね……。
ゆっくりと考えられるようになってから……なんて思っていたりする。
真名の誓い――。わたしたちを結ぶその誓いに、レディとして応えられる日がくるのかな……?
1
お気に入りに追加
3,633
あなたにおすすめの小説
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
〖完結〗お飾り王妃は追放されて国を創る~最強聖女を追放したバカ王~
藍川みいな
恋愛
「セリシア、お前はこの国の王妃に相応しくない。この国から追放する!」
王妃として聖女として国を守って来たセリシアを、ジオン王はいきなり追放し、聖女でもない侯爵令嬢のモニカを王妃にした。
この大陸では聖女の力が全てで、聖女協会が国の順位を決めていた。何十年も一位だったスベマナ王国は、優秀な聖女を失い破滅する。
設定ゆるゆるの架空のお話です。
本編17話で完結になります。
そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。
秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」
私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。
「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」
愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。
「――あなたは、この家に要らないのよ」
扇子で私の頬を叩くお母様。
……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。
消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
私知らないから!
mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。
いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。
あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。
私、しーらないっ!!!
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。
完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
カクヨム、なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる