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2章
84話
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「……記憶が作られたものって、どういうことなの……?」
声が震えたのがわかる。だって、それではまるで、ディーンが……。
「……ディーンは、人間であって、人間ではない」
ルーカス陛下の視線が下がる。そこからは、バーナードが引き継いだ。
「……これを知っているのは、一部の人間だけ。……ルーカス陛下の父親である前王陛下は――永遠の命を望んだんだ」
「え……」
それ以上の言葉が続かなかった。永遠の命を、望んだ? 人の命には限りがある。限りがあるからこそ、人はその一生を懸命に生きることが出来るって教えられた身としては、なぜ永遠の命を望むのかわからない。
「……」
なんて聞けばいいのかわからなくて、口を閉ざす。バーナードはそれを見つつ、言葉を続けた。
「ディーンの身体は宮廷魔導師たちが作り上げたものだ。人間と同じような作りの、な」
「そして、その魔法技術を提供したのがバーナードの祖父だ」
「うちの一族は魔術に関しては詳しいからな……」
「ええと、じゃあ、もしかして……。バーナードはディーンの幼馴染ではない、ってこと?」
「……いや、ディーンは成長する個体として作られた。赤ん坊からな。五歳くらいまでは研究所で記憶を入れていたけど……」
「き、記憶を入れていた?」
「前王陛下のな」
……つまり、永遠の命のためにディーンに自分の記憶を植え付けていたってことなのね。
「ディーンがアクアを知っていたのは、父がアクアと接したことがあったからだろう」
「……そうなんだ」
……確かに、伯父さまに会った記憶はある。シャーリーさま……お母さまの後ろに隠れていたけど。優しく頭を撫でてくれた記憶があるのよね。
「……それで、肝心のディーンはこのことを知っているの?」
「知らない」
「教えるつもりもない」
きっぱりと言い切った。わたしが目を瞬かせて彼らを見ると、彼らは苦渋の表情を浮かべていた。自分の身内が作り上げた『ディーン』は、なにも知らないで生きている。
「……ディーンの身体って、わたしの回復魔法が効くくらいだし、ほぼ人間なのよね……?」
こくりとうなずくバーナードに、ほっと息を吐いた。……作られた存在だとしても、ディーンはディーンなのだと理解した。
「……ディーンの性格は、前王陛下と似ているの?」
「全然。そもそも、ディーンは前王陛下の魂を移す前に完成されたから……」
「……うん、ごめん、全然わからない……」
人間を創造しようとしたこともないし、永遠の命を求めたこともない。よみがえった記憶と相まって、わたしの頭は大混乱中だ。
「……待って、ディーンの容姿が似ているのは」
「前王陛下の遺伝子を使っているから」
「わたしと血の繋がりは」
「あると言えばある、ないと言えばない」
「なにそれぇ……」
わけがわからなくて思考がうまく働かない。額に手を当てて唸ると、ルーカス陛下がそっと上着を掛けてくれた。
「……記憶を取り戻したら、この話はしないといけないと思っていた」
「……俺らは、ディーンに『普通の人間』として生きていて欲しいと思っている」
「……永遠の命、はどうなの? ディーンは……永遠の命なの?」
「……それは、わからない」
緩やかに首を左右に振るルーカス陛下。……まぁ、それはそうだろう。負傷していたディーンは見たことあるけど……。
「人よりは頑丈、だと思う。恐らく……」
その頑丈なディーンがあれだけの傷を負った? ……一体ディーンは、どんな魔物に襲われたのだろう……?
「えっと、じゃあ……わたしは、今まで通り、普通に接していれば良いってことなのね?」
わたしが記憶を取り戻したら、ディーンとの思い出がないことに気付いて、齟齬が発生してしまう。
……だからかな、わたしの記憶を積極的に取り戻そうとしなかったのは。タイミングを窺っていた可能性もあるけれど……。
「そうだ。ディーンに対して、今まで通りにしてくれるのが一番良い。……頼めるか?」
ルーカス陛下の哀願するような声に、わたしは首を縦に動かした。……確かにこれは、ディーンにはいえないことだし……ね。たまにディーンを見るバーナードの表情が苦々しそうに見えたのは、気のせいではなかったのね。
「……このことって一部の人しか知らないのよね。知っているのって、誰なの?」
「……そうだな、ルーカス陛下に、俺らの一族、宮廷魔導師の数人ってところだ」
バーナードが指折り数えた。両手で足りる人数らしい。その中のひとりに、わたしが入るようだ。
「……というか、そんなに少ない人数で……」
人間を創造したのだとしたら……。
「ああ、言っておくが、その時のチームはもう解散させている」
ルーカス陛下がそうフォローした。……フォローなのかな、これ?
「……うん、わたしにはよくわからない魔法だし、深く追及はしません」
興味を持っても良くない気がした。……この国で、そんなことが行われていたとは……。……永遠の命、ねぇ……。わたしにはやっぱり、理解は出来ないな……と心の中で呟いた。
声が震えたのがわかる。だって、それではまるで、ディーンが……。
「……ディーンは、人間であって、人間ではない」
ルーカス陛下の視線が下がる。そこからは、バーナードが引き継いだ。
「……これを知っているのは、一部の人間だけ。……ルーカス陛下の父親である前王陛下は――永遠の命を望んだんだ」
「え……」
それ以上の言葉が続かなかった。永遠の命を、望んだ? 人の命には限りがある。限りがあるからこそ、人はその一生を懸命に生きることが出来るって教えられた身としては、なぜ永遠の命を望むのかわからない。
「……」
なんて聞けばいいのかわからなくて、口を閉ざす。バーナードはそれを見つつ、言葉を続けた。
「ディーンの身体は宮廷魔導師たちが作り上げたものだ。人間と同じような作りの、な」
「そして、その魔法技術を提供したのがバーナードの祖父だ」
「うちの一族は魔術に関しては詳しいからな……」
「ええと、じゃあ、もしかして……。バーナードはディーンの幼馴染ではない、ってこと?」
「……いや、ディーンは成長する個体として作られた。赤ん坊からな。五歳くらいまでは研究所で記憶を入れていたけど……」
「き、記憶を入れていた?」
「前王陛下のな」
……つまり、永遠の命のためにディーンに自分の記憶を植え付けていたってことなのね。
「ディーンがアクアを知っていたのは、父がアクアと接したことがあったからだろう」
「……そうなんだ」
……確かに、伯父さまに会った記憶はある。シャーリーさま……お母さまの後ろに隠れていたけど。優しく頭を撫でてくれた記憶があるのよね。
「……それで、肝心のディーンはこのことを知っているの?」
「知らない」
「教えるつもりもない」
きっぱりと言い切った。わたしが目を瞬かせて彼らを見ると、彼らは苦渋の表情を浮かべていた。自分の身内が作り上げた『ディーン』は、なにも知らないで生きている。
「……ディーンの身体って、わたしの回復魔法が効くくらいだし、ほぼ人間なのよね……?」
こくりとうなずくバーナードに、ほっと息を吐いた。……作られた存在だとしても、ディーンはディーンなのだと理解した。
「……ディーンの性格は、前王陛下と似ているの?」
「全然。そもそも、ディーンは前王陛下の魂を移す前に完成されたから……」
「……うん、ごめん、全然わからない……」
人間を創造しようとしたこともないし、永遠の命を求めたこともない。よみがえった記憶と相まって、わたしの頭は大混乱中だ。
「……待って、ディーンの容姿が似ているのは」
「前王陛下の遺伝子を使っているから」
「わたしと血の繋がりは」
「あると言えばある、ないと言えばない」
「なにそれぇ……」
わけがわからなくて思考がうまく働かない。額に手を当てて唸ると、ルーカス陛下がそっと上着を掛けてくれた。
「……記憶を取り戻したら、この話はしないといけないと思っていた」
「……俺らは、ディーンに『普通の人間』として生きていて欲しいと思っている」
「……永遠の命、はどうなの? ディーンは……永遠の命なの?」
「……それは、わからない」
緩やかに首を左右に振るルーカス陛下。……まぁ、それはそうだろう。負傷していたディーンは見たことあるけど……。
「人よりは頑丈、だと思う。恐らく……」
その頑丈なディーンがあれだけの傷を負った? ……一体ディーンは、どんな魔物に襲われたのだろう……?
「えっと、じゃあ……わたしは、今まで通り、普通に接していれば良いってことなのね?」
わたしが記憶を取り戻したら、ディーンとの思い出がないことに気付いて、齟齬が発生してしまう。
……だからかな、わたしの記憶を積極的に取り戻そうとしなかったのは。タイミングを窺っていた可能性もあるけれど……。
「そうだ。ディーンに対して、今まで通りにしてくれるのが一番良い。……頼めるか?」
ルーカス陛下の哀願するような声に、わたしは首を縦に動かした。……確かにこれは、ディーンにはいえないことだし……ね。たまにディーンを見るバーナードの表情が苦々しそうに見えたのは、気のせいではなかったのね。
「……このことって一部の人しか知らないのよね。知っているのって、誰なの?」
「……そうだな、ルーカス陛下に、俺らの一族、宮廷魔導師の数人ってところだ」
バーナードが指折り数えた。両手で足りる人数らしい。その中のひとりに、わたしが入るようだ。
「……というか、そんなに少ない人数で……」
人間を創造したのだとしたら……。
「ああ、言っておくが、その時のチームはもう解散させている」
ルーカス陛下がそうフォローした。……フォローなのかな、これ?
「……うん、わたしにはよくわからない魔法だし、深く追及はしません」
興味を持っても良くない気がした。……この国で、そんなことが行われていたとは……。……永遠の命、ねぇ……。わたしにはやっぱり、理解は出来ないな……と心の中で呟いた。
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