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1章
37話
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「落ち着け、お前が慌ててどうする」
「……あ、そ、う……だよね」
バーナードのいうとおりだ。わたしが慌ててどうする。今から、助けに行くわたしがパニックっていたら意味がない。何度か深呼吸を繰り返して、自分の気持ちを落ち着かせる。そして、わたしは杖を構えて、コボルトの村に向けて神力を使った。
「神よ、我が祈りを聞き給え――……!」
コボルトの村に、簡易的な結界を張る。結界内の魔物は浄化されるから、コボルトの村には近付けなくなるはずだ。ダラム王国の結界が破れたことで、コボルトたちの村も危機が訪れている。……と、思う。とにかく、みんなの安全を確認したい。急いで飛んでいくと、すぐにコボルトの村についた。
……儀式のときにしか使っていなかったこの杖、もしかして、かなり良い物……? おっと、そんなことを考えている暇はなかった。コボルトの村に降り立つと、わたしのことを知っているコボルトたちが集まって来た。
「アクア!」
「アクア、結界破れた!」
「どうして? どうして?」
「アクアの気配も、消えてた!」
わらわらと集まって来るコボルトたちに、ディーンとバーナードは困惑気味だった。コボルトたちを見て、わたしは軽く経緯を説明すると、コボルトたちは悲しそうに耳をぺたんと伏せた。
「ここ、もう住めない?」
「ここ、ぼくらの村」
「たくさん思い出、ある」
片言で一生懸命に話すコボルトたちを見て、胸が痛む。森を離れたくないコボルトたちをどうやって避難させようかと考えていると、ディーンがコボルトたちに近付いた。初めて見る人間に怯えるように、わたしにぴったりとくっつくコボルトたちの頭を撫でる。ふわふわのもこもこ……。いや、今は癒しを堪能している暇はない!
「初めまして。オレはアルストル帝国の……いや、アクアの騎士。ディーンって呼んでくれるかな?」
しゃがみ込んでコボルトに視線を合わせた。コボルトたちはディーンの優し気な声に、怖い人じゃないと判断したのか、尻尾をブンブンと振って片手を上げた。
「ディーン! 覚えた!」
「アクアの騎士!」
わたしにぴったりとくっついていたコボルトたちが、フンフンと鼻を鳴らしてディーンの匂いを嗅いでから、彼に近付いてくるくるとディーンの周りを走った。か、可愛い……。それを見ていたバーナードが、辺りを見渡してコボルトたちに声を掛けた。
「ここにいるのはお前たちだけなのか?」
「知らない人間!」
「怖い!」
「ダメだよ、バーナードそんなに怖い顔しながら言っちゃあ……」
「この顔は生まれつきだ」
ディーンの言葉にイラっとしたかのように眉間に皺を刻むバーナード。……本当、このふたりの関係性がよくわからない。幼馴染みで同じ騎士団で一緒に働いていたことくらいしか情報がないのだから、当たり前といえば当たり前かもしれないけどね!
「アクア、この人怖い!」
「……だ、だいじょうぶよ、悪い人じゃあないから……たぶん」
「お前な……」
「それより、他のみんなは? 長老や戦士はいないの?」
「長老も戦士も! 魔物と戦っている!」
「ぼくらに隠れてろって!」
……なら、もう少しすれば戻って来るかな。長老まで戦っているのかも……? コボルトの村には長老がいて、この村を切り盛りしていた。……森が焼けてしまっているから、この森で暮らし続けるのは大変かもしれない。かといって、住み慣れたこの森から新しい場所に向かうのは、コボルトたちにとって……ストレスになるかもしれない……。うう、結界が破られなければ、この森でひっそりと暮らせていただろうに……。この場合って、わたしのせいでもあるのかな……。すべての元凶はあのバカ殿下だと思うのだけど……。……あのままずっとこの国で暮らしていたら、どうなっていたんだろう。ふと考えたことに、わたしは肩をすくめた。
「長老!」
「戦士!」
「戻って来た!」
コボルトが耳をピンと立てて、長老と戦士たちのところへと向かう。長老はわたしたちに気付くと、「もしや結界を張ったかね?」と声を掛けてきた。……ので、わたしはこくりとうなずく。長老は「そうかそうか」と納得し、戦士はわたしたちを……いいえ、ディーンとバーナードを警戒しているように気を張り詰めていた。
「アクア、この者たち、なんだ」
「この国の人間じゃ、ない!」
「強そうな、匂いがする!」
コボルトの戦士たちがディーンとバーナードを見てわたしに問いかける。わたしは再びこれまでの経緯を話す。すると、長老が目を伏せて「そうか、……そうか」と呟いた。
「コボルトたちよ。わしはアクアの誘いに乗ろうと思う」
「長老!」
「この村を捨てるのですか!」
長老の言葉に、他のコボルトたちが異議を唱える。長老は「ふぉっふぉっ」と笑い、わたしを見た。
「なぁに、住む場所が変わっても、我らの絆は変わらん。この森も少し休ませてやらんとな」
森を休ませる……? と首を傾げると、戦士のひとりが……いや一匹? コボルトの数え方ってどうすれば良いのかしら。と、とりあえずひとりが、長老の前に立った。
「アルストル帝国に、コボルトの村、作るのか」
「そうじゃ。我らはコボルト。……森の中でひっそり暮らすのも悪くなかったが、堂々と表を歩いても良いとは思わないか?」
……裏を歩いていたわけでもないと思うけれど……。長老の言葉に、コボルトたちは考え込んでしまった。……でも、子どものコボルトがわたしに抱き着いて来た。
「アルストル帝国、アクアいる!」
「アクアいるなら、一緒に行く!」
「……みんな……」
そんなにわたしのことを慕っていてくれていたの……? と感激していたら、「アクアのゴーレム、もらう!」と目をキラキラさせながら小さなコボルトたちがねだって来た。……まさかあのゴーレムたちがコボルトにも人気があるとは……。いや、うん……いいんだけどね?
「……あ、そ、う……だよね」
バーナードのいうとおりだ。わたしが慌ててどうする。今から、助けに行くわたしがパニックっていたら意味がない。何度か深呼吸を繰り返して、自分の気持ちを落ち着かせる。そして、わたしは杖を構えて、コボルトの村に向けて神力を使った。
「神よ、我が祈りを聞き給え――……!」
コボルトの村に、簡易的な結界を張る。結界内の魔物は浄化されるから、コボルトの村には近付けなくなるはずだ。ダラム王国の結界が破れたことで、コボルトたちの村も危機が訪れている。……と、思う。とにかく、みんなの安全を確認したい。急いで飛んでいくと、すぐにコボルトの村についた。
……儀式のときにしか使っていなかったこの杖、もしかして、かなり良い物……? おっと、そんなことを考えている暇はなかった。コボルトの村に降り立つと、わたしのことを知っているコボルトたちが集まって来た。
「アクア!」
「アクア、結界破れた!」
「どうして? どうして?」
「アクアの気配も、消えてた!」
わらわらと集まって来るコボルトたちに、ディーンとバーナードは困惑気味だった。コボルトたちを見て、わたしは軽く経緯を説明すると、コボルトたちは悲しそうに耳をぺたんと伏せた。
「ここ、もう住めない?」
「ここ、ぼくらの村」
「たくさん思い出、ある」
片言で一生懸命に話すコボルトたちを見て、胸が痛む。森を離れたくないコボルトたちをどうやって避難させようかと考えていると、ディーンがコボルトたちに近付いた。初めて見る人間に怯えるように、わたしにぴったりとくっつくコボルトたちの頭を撫でる。ふわふわのもこもこ……。いや、今は癒しを堪能している暇はない!
「初めまして。オレはアルストル帝国の……いや、アクアの騎士。ディーンって呼んでくれるかな?」
しゃがみ込んでコボルトに視線を合わせた。コボルトたちはディーンの優し気な声に、怖い人じゃないと判断したのか、尻尾をブンブンと振って片手を上げた。
「ディーン! 覚えた!」
「アクアの騎士!」
わたしにぴったりとくっついていたコボルトたちが、フンフンと鼻を鳴らしてディーンの匂いを嗅いでから、彼に近付いてくるくるとディーンの周りを走った。か、可愛い……。それを見ていたバーナードが、辺りを見渡してコボルトたちに声を掛けた。
「ここにいるのはお前たちだけなのか?」
「知らない人間!」
「怖い!」
「ダメだよ、バーナードそんなに怖い顔しながら言っちゃあ……」
「この顔は生まれつきだ」
ディーンの言葉にイラっとしたかのように眉間に皺を刻むバーナード。……本当、このふたりの関係性がよくわからない。幼馴染みで同じ騎士団で一緒に働いていたことくらいしか情報がないのだから、当たり前といえば当たり前かもしれないけどね!
「アクア、この人怖い!」
「……だ、だいじょうぶよ、悪い人じゃあないから……たぶん」
「お前な……」
「それより、他のみんなは? 長老や戦士はいないの?」
「長老も戦士も! 魔物と戦っている!」
「ぼくらに隠れてろって!」
……なら、もう少しすれば戻って来るかな。長老まで戦っているのかも……? コボルトの村には長老がいて、この村を切り盛りしていた。……森が焼けてしまっているから、この森で暮らし続けるのは大変かもしれない。かといって、住み慣れたこの森から新しい場所に向かうのは、コボルトたちにとって……ストレスになるかもしれない……。うう、結界が破られなければ、この森でひっそりと暮らせていただろうに……。この場合って、わたしのせいでもあるのかな……。すべての元凶はあのバカ殿下だと思うのだけど……。……あのままずっとこの国で暮らしていたら、どうなっていたんだろう。ふと考えたことに、わたしは肩をすくめた。
「長老!」
「戦士!」
「戻って来た!」
コボルトが耳をピンと立てて、長老と戦士たちのところへと向かう。長老はわたしたちに気付くと、「もしや結界を張ったかね?」と声を掛けてきた。……ので、わたしはこくりとうなずく。長老は「そうかそうか」と納得し、戦士はわたしたちを……いいえ、ディーンとバーナードを警戒しているように気を張り詰めていた。
「アクア、この者たち、なんだ」
「この国の人間じゃ、ない!」
「強そうな、匂いがする!」
コボルトの戦士たちがディーンとバーナードを見てわたしに問いかける。わたしは再びこれまでの経緯を話す。すると、長老が目を伏せて「そうか、……そうか」と呟いた。
「コボルトたちよ。わしはアクアの誘いに乗ろうと思う」
「長老!」
「この村を捨てるのですか!」
長老の言葉に、他のコボルトたちが異議を唱える。長老は「ふぉっふぉっ」と笑い、わたしを見た。
「なぁに、住む場所が変わっても、我らの絆は変わらん。この森も少し休ませてやらんとな」
森を休ませる……? と首を傾げると、戦士のひとりが……いや一匹? コボルトの数え方ってどうすれば良いのかしら。と、とりあえずひとりが、長老の前に立った。
「アルストル帝国に、コボルトの村、作るのか」
「そうじゃ。我らはコボルト。……森の中でひっそり暮らすのも悪くなかったが、堂々と表を歩いても良いとは思わないか?」
……裏を歩いていたわけでもないと思うけれど……。長老の言葉に、コボルトたちは考え込んでしまった。……でも、子どものコボルトがわたしに抱き着いて来た。
「アルストル帝国、アクアいる!」
「アクアいるなら、一緒に行く!」
「……みんな……」
そんなにわたしのことを慕っていてくれていたの……? と感激していたら、「アクアのゴーレム、もらう!」と目をキラキラさせながら小さなコボルトたちがねだって来た。……まさかあのゴーレムたちがコボルトにも人気があるとは……。いや、うん……いいんだけどね?
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