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1章:出会い

始まりの日 18話

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 三人の妃の姿を、小さくなるまで見届けてから、桜綾ヨウリンはずるずるとその場に座り込んだ。

「だ、大丈夫ですか?」
「……緊張したわ……」

 平然と相手にしていた彼女の本音に、朱亞シュア蘭玲ランレイは目を丸くする。緊張しているようには見えなかった。それだけ、桜綾は己の感情を律することができるのだと考え、朱亞はそっと彼女の肩に手を置く。

貴妃きひでも緊張するんですね」
「そりゃあね。タン淑妃しゅくひも、ユー徳妃とくひも、シャォ賢妃けんひも、銀波ぎんぱで一度は耳にしたことがあるもの」
「ちなみに、どんな内容で?」

 桜綾は自身の肩に置かれた朱亞の手に触れて、顔を上げる。銀波で耳に入れた噂を口にすると、蘭玲が目を丸くした。

「ああ、確かに私も耳にしたことがあります。ちなみに、朱亞は? 知っていた?」

 ふるふるふる、と首を横に振った朱亞に、蘭玲は「そう」と頬に手を添える。

 桜綾が口にした内容は、国中で噂されているものだ。それを知らないとなると、本当に隔離された場所で育ったのだろうと考え、蘭玲は不思議そうに朱亞を見た。

「朱亞は不思議な子ね……」
「田舎過ぎて届かなかったのかもしれません。山奥の村でしたから」

 あの山奥まで噂が届くには、外の人たちが村を訪れなければいけない。

 けれど、記憶にある限り、村人たち以外が村に入ったことはない。その村人たちだって、一度村を離れたら数ヶ月は戻ってこなかった。

「唐家や肖家は有名だからね。于家は内乱で負けた結果、彼女が後宮に入ったのでしょう」
「いろいろな理由で後宮に入るんですね」
「家の厄介払い、でもあるでしょう」

 硬い口調で蘭玲が口にする。厄介払い? と首をかしげる朱亞に、桜綾は彼女の手を肩から外させ、立ち上がる。

「肖賢妃が一番わかりやすいかしら? 肖家は代々、暗い茶髪に明るい茶色の瞳なのよ。でも、肖賢妃の容姿は?」
「白い髪に、灰色の瞳、でした」
「そう。だから、彼女が後宮に入ったのでしょう」

 朱亞はさらに首を捻る。なぜ、それだけの理由で雹華が生家から離れないといけないのだろうと考え込んだ。

「朱亞には信じられないかもしれない。でもね、血の繋がった家族でも、こういうことが起きるのよ」
「……なんだか悲しいですね」

 しょんぼりと肩を落として、声を震わせる朱亞に、桜綾はぎゅっと抱きついて慰めるようにぽんぽんと彼女の頭を撫でた。蘭玲も、ぽんぽんと朱亞の背中を撫でる。

 ふたりに励まされ、朱亞は決意を秘めた瞳で真っ直ぐに前を見据え、妃たちが楽しく過ごせることを願った。

「さて、片付けましょうか」
「手伝います!」
「ここはお願いしても良いかしら? わたくしはちょっと休憩したいわ」

 どっと疲れが出たのだろう。桜綾は自室に足を進めた。緊張していた、と話していたから、自室でゆっくり過ごして心を落ち着かせるのだろう。

「それじゃあ、私たちは片付けようか」
「はい!」

 元気よく返事をする朱亞に、蘭玲は和んだように表情を綻ばせた。
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