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1章:出会い
帝都にて 8話
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「はい」
「ありがとうございます」
用意された薬草をひとつひとつ確かめ、すべて揃っていることに朱亞はうなずいた。
代金を支払おうとして、想像以上に安い値段を伝えられ、思わず老人を見つめる。
「悪いですよ」
「いんや、初めてのお客さまだからね。大事にしたいのさ」
頑なに受け取ろうとしない老人。困ったように眉を下げて梓豪を見上げる朱亞。彼はぽんと彼女の肩に手を置いて、緩やかに首を左右に振った。
「お言葉に甘えましょう」
「ですが」
「良いんだよ、お嬢ちゃん。お金は大事にせんとな」
ほっほっほ、と笑いながら薬草を袋に入れて、朱亞に渡す。
反射的に受け取ってしまい、朱亞は慌てて「あのっ」と高い声を上げた。
「ありがとうございます! 大事に使います!」
「うんうん、そうしておくれ」
朱亞の言葉に老人は満足そうにうなずき、軽く手を振った。ぺこりと頭を下げてから、しっかりと薬草の入った袋を持ち、支払いをしてから店をあとにする。
「……本当に良かったのでしょうか」
「ええ。私が知っている薬草店の中で品質が一番良い場所ですし、あのように人当たりも良い。気に入っているお店なんです」
梓豪の表情は明るい。きっと彼のいう『良い人』に入っているのだろうと思い、朱亞はぎゅっと薬草の入った袋を抱きしめた。
「後宮に行く前に、もう少し街を見て回りますか?」
「いいえ。恐らく人に酔うのでやめておきます」
少し残念そうに頬を掻く朱亞に、先程の様子を思い出して、どこか納得したように「そうですね……」とつぶやく梓豪。
「それでしたら、このまま人通りの少ない場所を通って、後宮まで行きましょう。その途中、寄りたいお店があったら寄る、というのはどうでしょうか?」
「いいですね! 賛成です」
明るくうなずく朱亞に、梓豪は少しほっとしたように表情を緩ませた。
人通りの少ない場所を選びながら歩き、後宮に近付いていく。その途中、ふと視界に入ったのは様々な宝石を取り扱っている宝石店だった。宝石自体あまり見たことがないので、思わずその宝石店を見つめる。
「行ってみますか?」
「えっ、いえっ。きれいだなって見ていただけです」
遠くからでも、宝石はきらめいて見えた。
梓豪は朱亞の手を引いて、宝石店へ足を運ぶ。彼を止めようと「大丈夫ですっ」と大きな声を上げたが、彼は店の中まで入ってしまった。手を繋いでいるので必然的に朱亞も一緒だ。
「いらっしゃいませ。あら、李梓豪。珍しいですわね」
美しく着飾った女性が声をかけてきた。女性は梓豪と朱亞に気付くと軽く首をかしげ、それからはっとしたように口元を隠すように両手で覆う。
「まさか、その子に宝石を……?」
面白いものを見たかのように、目をらんらんと輝かせながら声を弾ませた。
「ありがとうございます」
用意された薬草をひとつひとつ確かめ、すべて揃っていることに朱亞はうなずいた。
代金を支払おうとして、想像以上に安い値段を伝えられ、思わず老人を見つめる。
「悪いですよ」
「いんや、初めてのお客さまだからね。大事にしたいのさ」
頑なに受け取ろうとしない老人。困ったように眉を下げて梓豪を見上げる朱亞。彼はぽんと彼女の肩に手を置いて、緩やかに首を左右に振った。
「お言葉に甘えましょう」
「ですが」
「良いんだよ、お嬢ちゃん。お金は大事にせんとな」
ほっほっほ、と笑いながら薬草を袋に入れて、朱亞に渡す。
反射的に受け取ってしまい、朱亞は慌てて「あのっ」と高い声を上げた。
「ありがとうございます! 大事に使います!」
「うんうん、そうしておくれ」
朱亞の言葉に老人は満足そうにうなずき、軽く手を振った。ぺこりと頭を下げてから、しっかりと薬草の入った袋を持ち、支払いをしてから店をあとにする。
「……本当に良かったのでしょうか」
「ええ。私が知っている薬草店の中で品質が一番良い場所ですし、あのように人当たりも良い。気に入っているお店なんです」
梓豪の表情は明るい。きっと彼のいう『良い人』に入っているのだろうと思い、朱亞はぎゅっと薬草の入った袋を抱きしめた。
「後宮に行く前に、もう少し街を見て回りますか?」
「いいえ。恐らく人に酔うのでやめておきます」
少し残念そうに頬を掻く朱亞に、先程の様子を思い出して、どこか納得したように「そうですね……」とつぶやく梓豪。
「それでしたら、このまま人通りの少ない場所を通って、後宮まで行きましょう。その途中、寄りたいお店があったら寄る、というのはどうでしょうか?」
「いいですね! 賛成です」
明るくうなずく朱亞に、梓豪は少しほっとしたように表情を緩ませた。
人通りの少ない場所を選びながら歩き、後宮に近付いていく。その途中、ふと視界に入ったのは様々な宝石を取り扱っている宝石店だった。宝石自体あまり見たことがないので、思わずその宝石店を見つめる。
「行ってみますか?」
「えっ、いえっ。きれいだなって見ていただけです」
遠くからでも、宝石はきらめいて見えた。
梓豪は朱亞の手を引いて、宝石店へ足を運ぶ。彼を止めようと「大丈夫ですっ」と大きな声を上げたが、彼は店の中まで入ってしまった。手を繋いでいるので必然的に朱亞も一緒だ。
「いらっしゃいませ。あら、李梓豪。珍しいですわね」
美しく着飾った女性が声をかけてきた。女性は梓豪と朱亞に気付くと軽く首をかしげ、それからはっとしたように口元を隠すように両手で覆う。
「まさか、その子に宝石を……?」
面白いものを見たかのように、目をらんらんと輝かせながら声を弾ませた。
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