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1章:出会い
帝都にて 7話
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「なるべく人が少ない場所を、通っていきましょう」
「お手数をおかけしますが、お願いします」
あのままでは人に酔う。そう判断した朱亞は、梓豪にたいして深々と首を垂れる。
「少し遠回りになりますが、よろしいですか?」
「もちろんです」
だいぶ気持ちが落ち着いたのか、朱亞は梓豪を見上げて真剣な表情でうなずいた。
「では、行きましょう」
梓豪は朱亞の手を引き歩きだす。先程よりは人気が少ないとはいえ、まだまだ彼女の暮らしていた村よりは人が多く、やはりはぐれては大変だと、しっかり彼の手を握る。
薬草店を見つけたのは、三十分ほど歩いてからだ。
そこは小さな薬草店だった。きれいな空色の屋根に、朱亞の瞳のような若緑に塗られた壁が印象的な、こぢんまりとした薬草店。
「開いていますか?」
「ええ、今は営業中ですよ」
梓豪は朱亞から手を離し、彼女の背を押した。彼女は窓から中を覗き込み、緊張した面持ちで扉に手をかけた。
「こ、こんにちはー……」
がちゃりと音を立てて扉を外側に引いて開けると、ちりんちりんと鈴の音が鳴る。
その音に気付いた店主であろう老人が、顔を上げた。
「いらっしゃい。なにかお探しかな?」
老人に話しかけられ、朱亞は肩を跳ねさせる。
「おや……、李梓豪かい? 大きくなったもんだ」
「老師、この前お会いしてから、三ヶ月も経っていませんよ」
ふさふさの白いひげを撫でながら、老師と呼ばれた老人は、とぼけるように首をかしげた。
そして、朱亞に顔を向けると、優しく微笑む。
「お嬢さんはずいぶんと若そうだ。こんなこぢんまりとした薬草店で、なにをお探しかな?」
「あ、ええと。初めまして、朱亞と申します。いろいろ薬草がほしいのですが……」
朱亞は求めている薬草の名を口にする。ぽんぽんと飛び出る薬草の名に、老人はじぃっと朱亞を見つめた。
「どうしました?」
「いやぁ、こんなに若いお嬢さんが薬草に詳しいのが、意外でね。誰からか習ったのかい?」
「はい。祖父から教わりました」
「そうかそうか、教え上手な人だったんだねぇ」
にこりと目元を細めて笑う姿に、朱亞はぱぁっと表情を明るくさせてうなずく。
祖父からの教えも、あの村で教わったことも、すべてが朱亞の力になってくれている。
「ちょいとお待ちよ。用意するから」
老人は朱亞が口にした薬草を、すべて用意した。
ひょいひょいとためらうことなく集めていく姿を見て、一度聞いただけですべてを覚えているのだと感じ、朱亞は老人に尊敬のまなざしを注ぐ。
「お手数をおかけしますが、お願いします」
あのままでは人に酔う。そう判断した朱亞は、梓豪にたいして深々と首を垂れる。
「少し遠回りになりますが、よろしいですか?」
「もちろんです」
だいぶ気持ちが落ち着いたのか、朱亞は梓豪を見上げて真剣な表情でうなずいた。
「では、行きましょう」
梓豪は朱亞の手を引き歩きだす。先程よりは人気が少ないとはいえ、まだまだ彼女の暮らしていた村よりは人が多く、やはりはぐれては大変だと、しっかり彼の手を握る。
薬草店を見つけたのは、三十分ほど歩いてからだ。
そこは小さな薬草店だった。きれいな空色の屋根に、朱亞の瞳のような若緑に塗られた壁が印象的な、こぢんまりとした薬草店。
「開いていますか?」
「ええ、今は営業中ですよ」
梓豪は朱亞から手を離し、彼女の背を押した。彼女は窓から中を覗き込み、緊張した面持ちで扉に手をかけた。
「こ、こんにちはー……」
がちゃりと音を立てて扉を外側に引いて開けると、ちりんちりんと鈴の音が鳴る。
その音に気付いた店主であろう老人が、顔を上げた。
「いらっしゃい。なにかお探しかな?」
老人に話しかけられ、朱亞は肩を跳ねさせる。
「おや……、李梓豪かい? 大きくなったもんだ」
「老師、この前お会いしてから、三ヶ月も経っていませんよ」
ふさふさの白いひげを撫でながら、老師と呼ばれた老人は、とぼけるように首をかしげた。
そして、朱亞に顔を向けると、優しく微笑む。
「お嬢さんはずいぶんと若そうだ。こんなこぢんまりとした薬草店で、なにをお探しかな?」
「あ、ええと。初めまして、朱亞と申します。いろいろ薬草がほしいのですが……」
朱亞は求めている薬草の名を口にする。ぽんぽんと飛び出る薬草の名に、老人はじぃっと朱亞を見つめた。
「どうしました?」
「いやぁ、こんなに若いお嬢さんが薬草に詳しいのが、意外でね。誰からか習ったのかい?」
「はい。祖父から教わりました」
「そうかそうか、教え上手な人だったんだねぇ」
にこりと目元を細めて笑う姿に、朱亞はぱぁっと表情を明るくさせてうなずく。
祖父からの教えも、あの村で教わったことも、すべてが朱亞の力になってくれている。
「ちょいとお待ちよ。用意するから」
老人は朱亞が口にした薬草を、すべて用意した。
ひょいひょいとためらうことなく集めていく姿を見て、一度聞いただけですべてを覚えているのだと感じ、朱亞は老人に尊敬のまなざしを注ぐ。
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