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1章:出会い
雨宿りと出会い 4話
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「わぁ、すっごく似合ってます!」
「ありがとう。これ、とても良い生地ね。きちんと綺麗にしてから返すから、今だけ借りるわ」
祖父が朱亞のために作った服は、生地が赤く金色の糸で刺繍がされていた。おそらくいつか朱亞が結婚するときに着てほしいという思いで作られた花嫁衣裳。
朱亞は気にしていないようだが、桜綾は彼女の祖父の意を感じ取っていたようで、胸元に手を添えると誓うように彼女に声をかけた。
きょとんとした表情を浮かべて桜綾を見る朱亞に、彼女は眉を下げて微笑む。
「あなたは結婚式を見たことない?」
「結婚式? そういえば一度も見たことありませんね」
村の大人たちはみんな結婚していたし、結婚していないのは未成年の子どもたちだけ。その子どもたちだって数えるくらいしかいなかったため、朱亞は一度も結婚式を見たことがない。
「結婚式にはね、こういう格好をするのよ」
「あ、それ花嫁衣裳だったんですか!?」
「そうよ。ごめんなさいね、わたくしが先に袖を通してしまって」
心底申し訳なさそうにうつむく桜綾に、朱亞は近付いて緩やかに首を横に振った。
「私が着るのはいつになるかわかりませんし、服は着るためにあるのですから、気になさらないでください」
「……あなたは、とてもいい子ね」
桜綾がそっと手を伸ばし、朱亞の頭を撫でた。その優しい手つきに、ふにゃりと表情を緩ませる。祖父に撫でられることも好きだった。
「それにしても、朱亞を育てたおじいさんは、とても博識だったのね。もっと話を聞かせてくれないかしら?」
「もちろん構いませんよ! では、なんの話にしましょうか?」
祖父のことを褒められて、朱亞はぱぁっと表情を明るくさせ、桜綾に尋ねる。
彼女は思案するように視線を伏せ、「そうねえ」と自身が興味のあることを口にした。
「水辺には、どんな怪物がいるの?」
「馬腹や水虎、水盧がいますね。それぞれ少しずつ属性が違うらしいです。……でも、本当によくご無事でしたね」
「わたくし、昔から結構な幸運に恵まれているのよ」
自信満々に胸を張る桜綾に、朱亞はふふっと笑みをこぼした。その笑みを見て、桜綾はそっと手を伸ばして彼女の頭を撫でる。
「朱亞はいくつなの?」
「私は十三歳です。桜綾さんは、私よりも年上ですよね?」
「ええ、今年十八歳になったわ。朱亞のおじいさんは、あなたにたくさんの知識を与えてくれたのね」
目元を細めて柔らかく微笑む桜綾に、朱亞は祖父の顔を思い浮かべながらゆっくりと首を縦に動かした。
祖父はいろいろなことを教えてくれた。朱亞よりも先に逝ってしまうことは確実だったからか、丁寧にどうすれば暮らしていけるのを彼女に教え込んだ。
最期の言葉は『自由に生きなさい』だったことを思い出し、朱亞の瞳に涙がにじむ。
それを見た桜綾が、両手を広げて「おいで」と彼女を呼んだ。
驚いたように顔を上げて桜綾を見つめる。ぽろり、と朱亞の瞳から涙がこぼれ、頬を伝う涙の冷たさに、自分が泣いていることに気付く。
「ありがとう。これ、とても良い生地ね。きちんと綺麗にしてから返すから、今だけ借りるわ」
祖父が朱亞のために作った服は、生地が赤く金色の糸で刺繍がされていた。おそらくいつか朱亞が結婚するときに着てほしいという思いで作られた花嫁衣裳。
朱亞は気にしていないようだが、桜綾は彼女の祖父の意を感じ取っていたようで、胸元に手を添えると誓うように彼女に声をかけた。
きょとんとした表情を浮かべて桜綾を見る朱亞に、彼女は眉を下げて微笑む。
「あなたは結婚式を見たことない?」
「結婚式? そういえば一度も見たことありませんね」
村の大人たちはみんな結婚していたし、結婚していないのは未成年の子どもたちだけ。その子どもたちだって数えるくらいしかいなかったため、朱亞は一度も結婚式を見たことがない。
「結婚式にはね、こういう格好をするのよ」
「あ、それ花嫁衣裳だったんですか!?」
「そうよ。ごめんなさいね、わたくしが先に袖を通してしまって」
心底申し訳なさそうにうつむく桜綾に、朱亞は近付いて緩やかに首を横に振った。
「私が着るのはいつになるかわかりませんし、服は着るためにあるのですから、気になさらないでください」
「……あなたは、とてもいい子ね」
桜綾がそっと手を伸ばし、朱亞の頭を撫でた。その優しい手つきに、ふにゃりと表情を緩ませる。祖父に撫でられることも好きだった。
「それにしても、朱亞を育てたおじいさんは、とても博識だったのね。もっと話を聞かせてくれないかしら?」
「もちろん構いませんよ! では、なんの話にしましょうか?」
祖父のことを褒められて、朱亞はぱぁっと表情を明るくさせ、桜綾に尋ねる。
彼女は思案するように視線を伏せ、「そうねえ」と自身が興味のあることを口にした。
「水辺には、どんな怪物がいるの?」
「馬腹や水虎、水盧がいますね。それぞれ少しずつ属性が違うらしいです。……でも、本当によくご無事でしたね」
「わたくし、昔から結構な幸運に恵まれているのよ」
自信満々に胸を張る桜綾に、朱亞はふふっと笑みをこぼした。その笑みを見て、桜綾はそっと手を伸ばして彼女の頭を撫でる。
「朱亞はいくつなの?」
「私は十三歳です。桜綾さんは、私よりも年上ですよね?」
「ええ、今年十八歳になったわ。朱亞のおじいさんは、あなたにたくさんの知識を与えてくれたのね」
目元を細めて柔らかく微笑む桜綾に、朱亞は祖父の顔を思い浮かべながらゆっくりと首を縦に動かした。
祖父はいろいろなことを教えてくれた。朱亞よりも先に逝ってしまうことは確実だったからか、丁寧にどうすれば暮らしていけるのを彼女に教え込んだ。
最期の言葉は『自由に生きなさい』だったことを思い出し、朱亞の瞳に涙がにじむ。
それを見た桜綾が、両手を広げて「おいで」と彼女を呼んだ。
驚いたように顔を上げて桜綾を見つめる。ぽろり、と朱亞の瞳から涙がこぼれ、頬を伝う涙の冷たさに、自分が泣いていることに気付く。
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