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3章:アシュリンと再会。
アシュリンとお兄ちゃん。 7話
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「元気なら良かった!」
とは一年前のことなので、現在はわからない。アシュリンはあとで手紙を書こうと心に決めて、近くに立っているアンディの服を右手でくんと引っ張る。
「ねえ、お兄ちゃんの本、読んでもいーい?」
こてんと首をかしげて、左手を握り顔の近くに寄せる。そのポーズはフォーサイス家でアシュリンがアンディにおねだりするときのポーズで、それをすれば兄は折れてくれると気付いていた。
「――しょうがないなぁ、アシュリンは」
デレッとした表情を浮かべて、アシュリンの願いを聞いてくれる。家にいるときからそうだったけれど、三年ぶりに会えたからかとてもやさしい。
「おれもアシュリンの本を読んでも?」
「いいよー」
アンディの本をがしっとつかんで、ソファに座る。そして、最初のページを開き視線を落とす。
どうやらアンディの本はエッセイらしい。三年前に本とアンディが運命の出会いをし、旅立つ様子が書かれていた。アシュリンと同じように、兄もなにかに呼ばれるように地下室に足を進め、本と出会ったようだ。
アンディの感じていたことや、見てきたこと――きっととても印象に残ったことが挿絵になっている。そっと挿絵に触れると、パッとアシュリンの目の前に浮かび上がってきて、目を丸くする。
「すごーい……」
なんと、その浮かび上がった挿絵は動いているのだ。
風で揺れている木々や、ぴょこんと跳ねるうさぎ、アンディに撫でられて心地よさそうに目を閉じるニーグルム。
アンディが目にしたものを、そのまま挿絵として閉じ込めているように見えて、アシュリンは思わずパチパチと手を叩いた。
『どうですか、兄の記録は』
「すっごくすてきだよ!」
たまにわからない文字もあったが、本に聞けば教えてくれるので読み進めることができた。アシュリンはすっかりと夢中でアンディの冒険エッセイを目で追っていく。
三年間の記録だ。一日で読める本ではない。だけど――アンディが家族を恋しく思ってくれていることに、アシュリンの胸はじわじわと温かくなった。数ページ読んだところで、ぐぅーっと彼女のお腹が鳴った。
それは静かな室内にとてもよく響いて、アシュリンはかぁっと顔を赤らめた。本をパタンと閉じて、別の場所に座って彼女の本を読んでいるアンディに近付いていく。
彼は本に視線を落としているふりをしているようで、笑いをこらえるように肩を震わせていた。
「……聞こえてた?」
「聞こえてた。お腹空いたなら、ごはんにしようか」
「うん!」
とは一年前のことなので、現在はわからない。アシュリンはあとで手紙を書こうと心に決めて、近くに立っているアンディの服を右手でくんと引っ張る。
「ねえ、お兄ちゃんの本、読んでもいーい?」
こてんと首をかしげて、左手を握り顔の近くに寄せる。そのポーズはフォーサイス家でアシュリンがアンディにおねだりするときのポーズで、それをすれば兄は折れてくれると気付いていた。
「――しょうがないなぁ、アシュリンは」
デレッとした表情を浮かべて、アシュリンの願いを聞いてくれる。家にいるときからそうだったけれど、三年ぶりに会えたからかとてもやさしい。
「おれもアシュリンの本を読んでも?」
「いいよー」
アンディの本をがしっとつかんで、ソファに座る。そして、最初のページを開き視線を落とす。
どうやらアンディの本はエッセイらしい。三年前に本とアンディが運命の出会いをし、旅立つ様子が書かれていた。アシュリンと同じように、兄もなにかに呼ばれるように地下室に足を進め、本と出会ったようだ。
アンディの感じていたことや、見てきたこと――きっととても印象に残ったことが挿絵になっている。そっと挿絵に触れると、パッとアシュリンの目の前に浮かび上がってきて、目を丸くする。
「すごーい……」
なんと、その浮かび上がった挿絵は動いているのだ。
風で揺れている木々や、ぴょこんと跳ねるうさぎ、アンディに撫でられて心地よさそうに目を閉じるニーグルム。
アンディが目にしたものを、そのまま挿絵として閉じ込めているように見えて、アシュリンは思わずパチパチと手を叩いた。
『どうですか、兄の記録は』
「すっごくすてきだよ!」
たまにわからない文字もあったが、本に聞けば教えてくれるので読み進めることができた。アシュリンはすっかりと夢中でアンディの冒険エッセイを目で追っていく。
三年間の記録だ。一日で読める本ではない。だけど――アンディが家族を恋しく思ってくれていることに、アシュリンの胸はじわじわと温かくなった。数ページ読んだところで、ぐぅーっと彼女のお腹が鳴った。
それは静かな室内にとてもよく響いて、アシュリンはかぁっと顔を赤らめた。本をパタンと閉じて、別の場所に座って彼女の本を読んでいるアンディに近付いていく。
彼は本に視線を落としているふりをしているようで、笑いをこらえるように肩を震わせていた。
「……聞こえてた?」
「聞こえてた。お腹空いたなら、ごはんにしようか」
「うん!」
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