【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

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2章:アシュリンと出会い。

アシュリンとお星さま。 3話

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「わたしの顔に、なにかついてる?」

 ごくん、と飲み込んでから自分を見つめるラルフに声をかける。アシュリンのことをじっと見ていたのは無自覚だったのか、彼はハッとしたように顔をあげて、頬をかく。

「ごめん、おいしそうに食べるなって思って」
「そう? ふつうだと思うけどなぁ」

 家族で食べていたときのことを思い浮かべて、アシュリンはぱちくりと目をまたたかせる。そして、ふと妹のエレノアがとてもおいしそうに食べていたな、と小さく口角を上げた。

 小さな口の中に食べ物を入れて、もっきゅもっきゅという音を立てながら幸せそうに笑う妹の姿を思い浮かべて、アシュリンはくすくすと笑い声を上げてしまう。

「ど、どうしたの?」

 いきなり笑い出したアシュリンに、肩をびくっと震わせるラルフ。

「ごめんごめん、わたしの妹のエレノア、あの子がすっごく幸せそうな顔で食べるから、思い出しちゃって」
「アシュリンに似たのかもね」
「えー、そうかなぁ?」

 でも、エレノアが自分に似ているのならちょっとうれしい。アシュリンは五歳下の妹のことも大好きだから。

 妹のエレノアが生まれたとき、アシュリンは五歳だった。初めて『妹』ができて、その小ささに驚いてしまい、なかなかエレノアに触れなかった。

 兄のアンディがなんども大丈夫だよ、とアシュリンを励ましてくれたから、なんとか彼女の頬をぷにっと触ることができた。そして、よくわからない言葉を発しながら、アシュリンの指をきゅっとにぎる妹になにかが胸にきあがる。

 きっとそれは、『いとしさ』だった。

「赤ちゃんってすんごく小さくて、自分のことぜんぜんできなくて……ミルクやオムツを変えたことだってあるんだよ」

 ほこらしげに胸を張るアシュリン。彼女の話を興味深そうに聞くラルフ。

「でもエレノアはすっごく元気だったにゃ」
「ノワールのしっぽをつかんだり、引っ張ったりね」
「自分の使い魔いじればいいにゃ!」

 エレノアにしっぽをおもちゃにされたことを思い出したのか、ノワールの毛がぶわわと逆立つ。

「しっぽはいやだな……」
「にゃー!」

 ルプトゥムが自分のしっぽを足に巻き付ける。……もしかしたら、ラルフが赤ちゃんの頃、ルプトゥムもノワールと同じ目にあっていたのかもしれないと考え、アシュリンはこっそりと笑う。

「まぁ、アシュリンのときも大変だったにゃ」
「えっ」
「アシュリンはぬいぐるみのようにぎゅーってしてたにゃ」

 まったく覚えていないアシュリンは慌てた。生まれたての使い魔であるノワールが十年前の記憶を持っていることに驚いたのだ。
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