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1章:アシュリンの旅立ち。
アシュリンの旅立ち。 5話
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『さぁさぁ、ともに最初の一歩を踏み出し――』
「その前に、アシュリンの旅に必要なものを用意しなくちゃね」
「今日は一緒に寝ような、アシュリン」
「エレノアも! エレノアも!」
「うんうん、みんな一緒に寝ようなぁ」
本の言葉を無視して、グリシャがみんなの顔を見渡す。
アシュリンはこくっとうなずいて、本を抱きしめた。
「それじゃあ、そうじは終わりにして、アシュリンの旅立ちに必要なものを準備しましょう!」
ガタンと椅子から立ち上がったのはホイットニーだ。彼女の目はらんらんと輝いている。愛する娘が旅立つのだから、最高の準備をしなくては! とぎゅっとこぶしを握って力説している。
「ああ、それじゃあ、ちょっと待っていてください」
次に椅子から立ち上がったのは、ケヴィンだった。リビングから出ていき、数分後に戻ってくる。その手にはリュックがあり、アシュリンは「あ!」と思い出したように声を上げた。
以前、そのリュックをケヴィンが作っていたのを思い出し、彼女はそのとき彼が話していた『これはいつかアシュリンさんが使うんですよ』という言葉を思い浮かべてぱぁっと表情を明るくする。
あのときは、それがいつなのかとても気になっていた。
魔法かばん職人のケヴィンが作るリュックだ。それがいつか自分のものになると知って、どうして今くれないのだろうと考えていたことを一年前。そのことを思い出し、彼女はケヴィンのもとまで走っていく。
「おじいちゃん! これ、本当にわたしがもらっていいのっ?」
「もちろんですよ、アシュリンさん。これはおじいちゃんが、アシュリンさんだけのために作ったリュックですから」
「ありがとう、おじいちゃん! とってもうれしいわ!」
ケヴィンの作る魔法かばんは、村でも村の外からも大人気で、なかなか手に入らない貴重なものだと伝えられている。
そんなケヴィンが作った魔法のリュックだ。アシュリンはにこにこと笑って、彼にお礼を伝えた。
「それじゃ、早速そのリュックにいろいろ詰め込みに行こうか」
「うん!」
「アシュリンは私と一緒に行こうね。村の人たちにも、挨拶しなくちゃ」
「はーい!」
「本は置いていこうね。その本、賑やかだから」
『えー、そんなぁ……』
心底残念そうな声を出す本を、リビングのテーブルの上に置いて「ごめんね、行ってくるね」と撫でてから、ケヴィンから受け取ったリュックを背負い、ホイットニーと手を繋ぐ。
彼女の顔を見上げると、ちょっとだけさびしそうに微笑んで、きゅっと胸が痛んだ。でも、すぐにそんな様子を隠して、アシュリンの手をぎゅっと握り返した。
「おじいちゃんのリュックの感想は?」
「とっても軽いわ! ピンク色で可愛いし……わたし、可愛いもの大好き!」
「そうね、とっても似合っているわ。おじいちゃんのリュック、魔法がかかっているから、楽しみにしていてね」
「どんな魔法なのかなぁ……!」
「その前に、アシュリンの旅に必要なものを用意しなくちゃね」
「今日は一緒に寝ような、アシュリン」
「エレノアも! エレノアも!」
「うんうん、みんな一緒に寝ようなぁ」
本の言葉を無視して、グリシャがみんなの顔を見渡す。
アシュリンはこくっとうなずいて、本を抱きしめた。
「それじゃあ、そうじは終わりにして、アシュリンの旅立ちに必要なものを準備しましょう!」
ガタンと椅子から立ち上がったのはホイットニーだ。彼女の目はらんらんと輝いている。愛する娘が旅立つのだから、最高の準備をしなくては! とぎゅっとこぶしを握って力説している。
「ああ、それじゃあ、ちょっと待っていてください」
次に椅子から立ち上がったのは、ケヴィンだった。リビングから出ていき、数分後に戻ってくる。その手にはリュックがあり、アシュリンは「あ!」と思い出したように声を上げた。
以前、そのリュックをケヴィンが作っていたのを思い出し、彼女はそのとき彼が話していた『これはいつかアシュリンさんが使うんですよ』という言葉を思い浮かべてぱぁっと表情を明るくする。
あのときは、それがいつなのかとても気になっていた。
魔法かばん職人のケヴィンが作るリュックだ。それがいつか自分のものになると知って、どうして今くれないのだろうと考えていたことを一年前。そのことを思い出し、彼女はケヴィンのもとまで走っていく。
「おじいちゃん! これ、本当にわたしがもらっていいのっ?」
「もちろんですよ、アシュリンさん。これはおじいちゃんが、アシュリンさんだけのために作ったリュックですから」
「ありがとう、おじいちゃん! とってもうれしいわ!」
ケヴィンの作る魔法かばんは、村でも村の外からも大人気で、なかなか手に入らない貴重なものだと伝えられている。
そんなケヴィンが作った魔法のリュックだ。アシュリンはにこにこと笑って、彼にお礼を伝えた。
「それじゃ、早速そのリュックにいろいろ詰め込みに行こうか」
「うん!」
「アシュリンは私と一緒に行こうね。村の人たちにも、挨拶しなくちゃ」
「はーい!」
「本は置いていこうね。その本、賑やかだから」
『えー、そんなぁ……』
心底残念そうな声を出す本を、リビングのテーブルの上に置いて「ごめんね、行ってくるね」と撫でてから、ケヴィンから受け取ったリュックを背負い、ホイットニーと手を繋ぐ。
彼女の顔を見上げると、ちょっとだけさびしそうに微笑んで、きゅっと胸が痛んだ。でも、すぐにそんな様子を隠して、アシュリンの手をぎゅっと握り返した。
「おじいちゃんのリュックの感想は?」
「とっても軽いわ! ピンク色で可愛いし……わたし、可愛いもの大好き!」
「そうね、とっても似合っているわ。おじいちゃんのリュック、魔法がかかっているから、楽しみにしていてね」
「どんな魔法なのかなぁ……!」
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