上 下
22 / 54
2章:14歳

22話

しおりを挟む
「ありがとうございます。それでは、討伐よろしくお願いいたします」

 冒険者カードを受け取った受付嬢は、小さな水晶玉にカードを照らすと、ナタンに冒険者カードを返した。ナタンはそれを受け取り、私たちへと視線を向ける。

「それじゃあ、早速だが行こうか」
「はい!」

 冒険者としての第一歩を、こうして踏み出した。
 ジャイアント・クロウを討伐して欲しいのは農家の人たちらしい。折角育った作物が狙われているとのこと。とりあえず、ジャイアント・クロウの居場所をつき止めないといけない。

「みなさんはどうやって魔物の居場所を見つけているのですか?」

 質問すると、セレストがんー、と頬に人差し指を添えて上を向く。

「……どうやって……、そういえば考えたことないわねぇ……」
「えっ」

 行き当たりばったり!? とちょっと驚いた。魔物を探す時間を考えると、今日中に依頼は達成できないかも……? と不安に思っていると、ふと思いついた。

「……ジャイアント・クロウって作物を狙うんですよね」
「ええ。なぜか人間の食べ物が好きみたい」
「……あの、それなら――……」

 私が考えを伝えると、三人は目をパチパチと瞬かせて「出来るの?」と聞かれたので「たぶん」と答えた。少し不安そうに私を見るセレストとナタン、「やってみればいいじゃん?」と背中を押してくれたのはルイだった。
 私はこくりとうなずいて、王都の外に向かう。みんなもついて来てくれた。ジャイアント・クロウというのだから、きっと大きいのだろう。大きいのだとしたら、広い場所で戦いたい。狭い場所だと私も戦いづらいし……。精霊の力はなるべく借りたくない。だって、これは私の力でやらなきゃいけないことだもん。ぐっと拳を握って意気込む。

「とりあえず、広い場所なら心当たりがあるからついて来い」
「ありがとうございます!」

 ナタンに案内されて王都から少し離れた広い場所へと。空気が美味しいなぁ。こういうところでピクニックしたら楽しそうだなぁ……。お父さんやロベールも誘って、のんびりするのも良いかもしれない。……いや、無理か……。ロベールは十六歳で旅立っちゃうし……。とりあえず、一年、冒険者として過ごして、二年目には村に戻って徹底的に準備をしたりしないと……。

「それで、本当にやるつもりなの?」
「もちろんです。準備するので、ちょっと待っていてくださいね」

 そう言って私は鞄から小型の錬金釜を取り出して、自分が持っている食材をポイポイと入れた。錬金釜を持っていることにぎょっとされたけど、気にしない! 野菜に毒草を混ぜて、甘味草も入れる。ぐるぐると棒でかき混ぜて――……出来上がったのは野菜の毒団子!

「……れ、錬金術……?」
「はい、パント村のザール工房の娘ですので!」
「ザール工房……聞いたことがあるような、ないような……」

 セレストとナタンが真剣に考え込んでしまった。私はその毒団子を持って鑑定してみる。『野菜の毒団子。食べると甘くて苦い。つまりまずい。人間が食べたらしばらく痺れが抜けないだろう』と書かれていた。魔物が食べたらどうなるのかな。少しでも麻痺してくれたらいいのだけど。そんなことを思いつつ、出来上がった毒団子を一個、弓矢の先に刺す。錬金釜を鞄にしまって弓を取り出して構える。

「戦闘になるので、離れててくださいね!」

 弓矢を空に向けて放つ。私の狙い通り、なにかが毒団子を狙って来た。すかさず鑑定!

『ジャイアント・クロウ。大きなカラス。雑食。人間の食べ物を好む。弱点は特にないが、攻撃をし続けていると弱る』

 ――なるほど、力で押し切るタイプの魔物ね! 弱点属性がなければ、自分の力を信じて押し切るしかない。それに、倒すのは二匹だけ、と考えると少し気が楽になった。毒団子を食べたジャイアント・クロウは目に見えて動きが鈍くなったので、その隙を逃さずに弓矢を放つ。勢いよく、全部の弓矢を命中させるとジャイアント・クロウは地面に墜落し、ぴくぴくと痙攣していて、そのうちに動かなくなった。……仕留めた、のかな?
 ドキドキしながら動きを見つめる。すると、すぐに次のジャイアント・クロウが現れたので、弓矢で応戦する。大きく口を開けた瞬間を狙って、毒団子を食わせる。毒が効いて動きが鈍くなるのを確認して、弓矢を一気に放つ。狙ったところを命中させていくと、ジャイアント・クロウは倒れた。
 ……多分、これで大丈夫だと思うのだけど……。
 私がちらりとみんなに視線を向けると、ルイがジャイアント・クロウに近付いて様子を窺う。

「ん、メイにはやっぱり簡単だったか……」

 と、ルイが小さく呟くのが聞こえた。
 ――ってことは……?
「お疲れ様。メイは魔物の解体方法知っている?」

 ふるふると首を横に振ると、ルイは「じゃあ鞄にしまって解体屋に行こう」と提案してくれた。

「解体屋?」
「魔物の解体を請け負っている人たちがいるの。魔物の解体って、結構難しいから……」
「……そうなんですね……」

 じゃあ、私みたいな素人は解体屋で解体してもらったほうが良いのかもしれないね。
 結構あっさり倒せたことに安堵しつつ、私はジャイアント・クロウを鞄に入れてみんなと一緒に王都へと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...