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番外編
海辺の街で。 5話
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「こっちのほうは暑いだろ? 冷たいもの食べない?」
「良いですわね。さっぱりしたものが食べたいですわ」
「なら、レモンシャーベットがお勧めだよ」
確かにとてもサッパリしていそうね。
レグルスさまがお勧めしてくれたレモンシャーベットを食べるために、カフェに入った。
「ブレンお勧めの、レモンシャーベット店だよ」
「ふふ、ブレンさまのお勧めなら、とても美味しいのでしょうね」
カフェの一番奥の席に座り、店員を呼んでレモンシャーベットを注文すると、すぐに持ってきてくれた。ガラスのお皿に丸く盛られたレモンシャーベットの色は黄色で、見ていて元気が湧くようだ。スプーンを取り、一口掬いぱくりと食べる。
「……美味しい……」
爽やかなレモンの香りと味。酸っぱすぎない酸味とちょうど良い甘み。そして、冷たくて食べやすい。
「さすがブレン。食のことに関すると、あいつは本当に頼りになるよ」
くつくつと喉を鳴らして笑うレグルスさまに、わたくしも同意のうなずきを返した。
馬車の旅のときからそうだったけれど……、ブレンさま、様々な町のグルメに目がないようで手作りのパンフレットをたくさん渡してくださったの。
「本当に食べることが好きなのですね」
「子どもの頃からね。おかげで俺も結構詳しくなったよ」
「今度、レグルスさまのお勧めの料理を食べてみたいですわ」
「リンブルグについて落ち着いたら、案内するよ」
約束、と右手の小指をこちらに向ける。こてんと首をかしげると、目を数回瞬かせてから「ああ」と小さくつぶやいた。
「小指を絡ませるんだ」
「小指を?」
小指を絡ませて「これが指きり。約束するときに使うんだよ」と教えてくれた。……約束を交わすときに、こういうことをしたことがないから、不思議な気持ちだわ。
いつも、レグルスさまはわたくしに新しい感情を教えてくれる。
小指が離れて、思わずじっと自分の小指を見つめていると、「溶けるよ」と声をかけられてハッとしてレモンシャーベットを口に運ぶ。
ドキドキと鼓動が早鐘を奏でるのを感じながら、わたくしはゆっくりと息を吐いた。
溶ける前にレモンシャーベットを食べ終え、カフェを出てレグルスさまと街を歩く。
人々はとても楽しそうに仕事をしたり、遊んだりと生き生きしているように見えて、まぶしい。
「――とても、素晴らしい街なのですね」
「どうしてそう思うんだい?」
「すれ違う人たちが、生き生きとしていますもの」
馬車で旅をして立ち寄った町々も、それなりに栄えていたし、暮らしに不満はないように見えた。でも、この街は違う。
生きていることに誇りを持っているように思えた。目の輝きが違うから。
「平民も貴族も、暮らしやすいのが一番ですわね」
「確かにね。でも、その基盤を築くのは俺ら王族や貴族だ」
ぴたりと足を止めたレグルスさまに、彼を見上げる。
その瞳は真剣そのもので……レグルスさまは、リンブルグを背負う覚悟ができているのだとひしひしと感じ取れた。
「良いですわね。さっぱりしたものが食べたいですわ」
「なら、レモンシャーベットがお勧めだよ」
確かにとてもサッパリしていそうね。
レグルスさまがお勧めしてくれたレモンシャーベットを食べるために、カフェに入った。
「ブレンお勧めの、レモンシャーベット店だよ」
「ふふ、ブレンさまのお勧めなら、とても美味しいのでしょうね」
カフェの一番奥の席に座り、店員を呼んでレモンシャーベットを注文すると、すぐに持ってきてくれた。ガラスのお皿に丸く盛られたレモンシャーベットの色は黄色で、見ていて元気が湧くようだ。スプーンを取り、一口掬いぱくりと食べる。
「……美味しい……」
爽やかなレモンの香りと味。酸っぱすぎない酸味とちょうど良い甘み。そして、冷たくて食べやすい。
「さすがブレン。食のことに関すると、あいつは本当に頼りになるよ」
くつくつと喉を鳴らして笑うレグルスさまに、わたくしも同意のうなずきを返した。
馬車の旅のときからそうだったけれど……、ブレンさま、様々な町のグルメに目がないようで手作りのパンフレットをたくさん渡してくださったの。
「本当に食べることが好きなのですね」
「子どもの頃からね。おかげで俺も結構詳しくなったよ」
「今度、レグルスさまのお勧めの料理を食べてみたいですわ」
「リンブルグについて落ち着いたら、案内するよ」
約束、と右手の小指をこちらに向ける。こてんと首をかしげると、目を数回瞬かせてから「ああ」と小さくつぶやいた。
「小指を絡ませるんだ」
「小指を?」
小指を絡ませて「これが指きり。約束するときに使うんだよ」と教えてくれた。……約束を交わすときに、こういうことをしたことがないから、不思議な気持ちだわ。
いつも、レグルスさまはわたくしに新しい感情を教えてくれる。
小指が離れて、思わずじっと自分の小指を見つめていると、「溶けるよ」と声をかけられてハッとしてレモンシャーベットを口に運ぶ。
ドキドキと鼓動が早鐘を奏でるのを感じながら、わたくしはゆっくりと息を吐いた。
溶ける前にレモンシャーベットを食べ終え、カフェを出てレグルスさまと街を歩く。
人々はとても楽しそうに仕事をしたり、遊んだりと生き生きしているように見えて、まぶしい。
「――とても、素晴らしい街なのですね」
「どうしてそう思うんだい?」
「すれ違う人たちが、生き生きとしていますもの」
馬車で旅をして立ち寄った町々も、それなりに栄えていたし、暮らしに不満はないように見えた。でも、この街は違う。
生きていることに誇りを持っているように思えた。目の輝きが違うから。
「平民も貴族も、暮らしやすいのが一番ですわね」
「確かにね。でも、その基盤を築くのは俺ら王族や貴族だ」
ぴたりと足を止めたレグルスさまに、彼を見上げる。
その瞳は真剣そのもので……レグルスさまは、リンブルグを背負う覚悟ができているのだとひしひしと感じ取れた。
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