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ノラン・カースティン男爵。 3話
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わたくしは彼に、これまでのことをすべて話した。ベネット公爵家で受けていた扱いも、どんなことを考えて生きていたかを。
「――こんな思いをするために、わたくしは生まれたのですか?」
最後にそう尋ねた。情けないことに、涙声になってしまったわ。それでも、涙は流さない。
レグルスさまがわたくしに近付いて、そっと肩に手を置いた。
じんわりと広がる彼の体温に、そっと目を伏せる。
「――そんな、ことが……」
「入れ替わったことに気付いたお父さまが、ノランさまに話したと聞いています。そして、ノランさまがマーセルを手放さなかったということも」
「それは……っ」
カースティン男爵の瞳が揺れた。ぐっと下唇を噛み締めて、じわりと血がにじむのを見て彼の中でいろいろな葛藤があるのだろうと考える。
「――……きみたちが生まれる前、カースティン家は借金に苦しんでいた」
ぽつりと言葉をこぼすカースティン男爵に、わたくしは顔を上げた。マーセルもわたくしの隣にきて、「借金?」と眉間に皺を刻む。
「立ち上げた事業がうまくいかなくて……。オリヴィエにも相当苦労させてしまった。そんなとき、陛下から子どもを入れ替えることを提案されて……飛びついてしまった……」
淡々と言葉を紡ぐのを複雑な表情で見つめるマーセル。
どうやら、借金を返したくてその提案に飛びついたようだった。ゆっくりと息を吐き、陛下とどのようなやりとりがあったのかを教えてくれた。
「オリヴィエと陛下が、学生時代に恋人だったことは知っていた。彼女が自分の身分を理由に陛下から離れたことも。すべてを知ったうえで彼女と結婚した。だが……もしもオリヴィエが陛下に嫁いでいたのなら、金に苦労することなく、子どもも幸せに暮らせていたのではないのか……そう考えてしまった」
カースティン男爵は机の上に肘をつき、手を組んでうつむいた。陛下と結婚するのなら、王妃か側室か……どちらにせよ、自分と結婚するよりも良い暮らしができるのだと考えた、ということよね? そこに、彼女の気持ちはあるのかしら……?
「そんな、そんなの……!」
マーセルが拳をぎゅっと強く握って、わなわなと震えた。彼女を落ち着かせるように、背中をぽんぽんと優しく叩く。
弾かれたように顔を上げたマーセルに、緩やかに首を横に振った。感情に飲み込まれてはいけない、と。
マーセルはわたくしを見て、ぐっと言葉を呑み込んだようだった。
「お父さまは、それでお母さまが幸せになると思っていたのですか?」
「そうだ。借金で苦しむよりは、彼女も生活に余裕ができて良いだろうと……」
「……ふぅん、独りよがりだね」
そこまで黙って聞いていたレグルスさまが、呆れたようにつぶやく。
その言葉に、カースティン男爵が顔を上げた。
「――こんな思いをするために、わたくしは生まれたのですか?」
最後にそう尋ねた。情けないことに、涙声になってしまったわ。それでも、涙は流さない。
レグルスさまがわたくしに近付いて、そっと肩に手を置いた。
じんわりと広がる彼の体温に、そっと目を伏せる。
「――そんな、ことが……」
「入れ替わったことに気付いたお父さまが、ノランさまに話したと聞いています。そして、ノランさまがマーセルを手放さなかったということも」
「それは……っ」
カースティン男爵の瞳が揺れた。ぐっと下唇を噛み締めて、じわりと血がにじむのを見て彼の中でいろいろな葛藤があるのだろうと考える。
「――……きみたちが生まれる前、カースティン家は借金に苦しんでいた」
ぽつりと言葉をこぼすカースティン男爵に、わたくしは顔を上げた。マーセルもわたくしの隣にきて、「借金?」と眉間に皺を刻む。
「立ち上げた事業がうまくいかなくて……。オリヴィエにも相当苦労させてしまった。そんなとき、陛下から子どもを入れ替えることを提案されて……飛びついてしまった……」
淡々と言葉を紡ぐのを複雑な表情で見つめるマーセル。
どうやら、借金を返したくてその提案に飛びついたようだった。ゆっくりと息を吐き、陛下とどのようなやりとりがあったのかを教えてくれた。
「オリヴィエと陛下が、学生時代に恋人だったことは知っていた。彼女が自分の身分を理由に陛下から離れたことも。すべてを知ったうえで彼女と結婚した。だが……もしもオリヴィエが陛下に嫁いでいたのなら、金に苦労することなく、子どもも幸せに暮らせていたのではないのか……そう考えてしまった」
カースティン男爵は机の上に肘をつき、手を組んでうつむいた。陛下と結婚するのなら、王妃か側室か……どちらにせよ、自分と結婚するよりも良い暮らしができるのだと考えた、ということよね? そこに、彼女の気持ちはあるのかしら……?
「そんな、そんなの……!」
マーセルが拳をぎゅっと強く握って、わなわなと震えた。彼女を落ち着かせるように、背中をぽんぽんと優しく叩く。
弾かれたように顔を上げたマーセルに、緩やかに首を横に振った。感情に飲み込まれてはいけない、と。
マーセルはわたくしを見て、ぐっと言葉を呑み込んだようだった。
「お父さまは、それでお母さまが幸せになると思っていたのですか?」
「そうだ。借金で苦しむよりは、彼女も生活に余裕ができて良いだろうと……」
「……ふぅん、独りよがりだね」
そこまで黙って聞いていたレグルスさまが、呆れたようにつぶやく。
その言葉に、カースティン男爵が顔を上げた。
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