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3章:紹介の儀

紹介の儀 4-2

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「……いろいろあったのですね」

 アナベルが眉を下げて微笑む。会場の人たちはこくりとうなずいた。

(……一体どんなことをしていたのかしら、カルメ伯爵夫人……)

 少し気になったが、そこを追求するのはまた今度にして、アナベルは声色が明るくなるように意識して「そうだ!」と声を上げた。

「皆様は、どんな舞踏会が良いと思いますか? わたくしは、舞踏会に行った経験がないので……、是非、教えてくださいませ」

 踊り子としてステージで踊ったことはあるが、貴族が集まる舞踏会に行ったことはない。
 コラリーが考えるように目を伏せた。そして、「……そうですわねぇ……」と小さく呟く。

「どんなテーマにするかを決めてから、どんな会場にするのかを考えた方が良いと思います」
「テーマ、ですか?」

 コラリーは両手を合わせてこくりとうなずく。

「そうです。舞踏会にはハッキリとしたテーマが必要ですわ。例えば、一年前に行われた舞踏会では、『花』がテーマでした」

 その時のことを思い出しているのだろう。
 うっとりと恍惚こうこつの笑みを浮かべて、声が甘くなっているのを聞いて、アナベルは「素敵ですわね」と答えた。

「本当に素敵な会場でした。『花』がテーマでしたから、至るところに様々な花が飾られていましたの。それだけ花が多いと香りが混ざり合って大変なことになるのではないのかと思ったのですが……」

 そこで一旦言葉を止めて、頬に手を添えるコラリー。
 アナベルはワクワクとした表情を隠さずに彼女を見た。
 それを見たコラリーは、大袈裟なほどに両手を広げ、

「会場内はとても良い香りに包まれていましたの! なんと調香師が花の香りが混ざり合っても良い香りになるように、いろいろと試したんですって! でしょう? デュナン公爵?」

 くるり、とダヴィドに体を向けるコラリーに、アナベルは目を瞬かせて、それから「え」と思わず声を出した。

「あれは苦労したなぁ。人を不快にさせない香りにするために、どれだけ調香師と話し合ったかわからないよ」

 ダヴィドが肯定したことで、その舞踏会はダヴィドが主催したことだと知った。

「――人々への配慮はいりょ、ですわね」

「ああ。ちなみに紳士は胸元に花を一輪飾り、女性たちは花冠を乗せて舞踏会に参加してもらったよ」
「それはとても華やかな舞踏会でしたわね」
「ええ、とても楽しかったですわ。あの時は本当にありがとうございました」

 コラリーがダヴィドに向かい笑みを浮かべると、ダヴィドは胸元に手を当て、「こちらこそ、参加してくださってありがとうございました」と和やかな雰囲気が流れた。
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