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2章:寵姫になるために
番外 王妃 イレイン(2)
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――そしてそれから十五年の月日が経ち、イレインはメイドが仕入れた情報を耳にして、苛立ったように声を荒げた。
エルヴィスが新しく寵姫を迎えたという噂だ。
(宮殿にいた寵姫たちは全員始末したというのに――……)
イレインは頭痛を耐えるように額に手を添えた。
「――まったく。王としての役目も果たさず、父としても夫としてもダメな人ですのに、女遊びをやめる気はなさそうですわね」
そう言って悲しそうに目を伏せる。
メイドは困ったように眉を下げて、言葉を続けた。
「なんでも、踊り子を寵姫にしたようですよ。とても美しい女性だったので、エルヴィス陛下の一目惚れだったんじゃないかって噂になってました」
「……そう。……それは、私よりも美しい女性、ということかしら?」
「それは……わかりませんが……」
イレインの声が露骨に低くなった。
そのことに、びくりとメイドの肩が跳ねる。
「……ああ、私、もっと美しくならなければなりませんわね……」
唇に弧を描いて、メイドに近付くイレイン。
――その日、また若い女性がひとり、イレインの元から消えた。
そして翌日、一番古株のメイドがイレインの元を訪れた。
「王妃殿下、あの話はお聞きになりましたか?」
「エルヴィス陛下が寵姫を迎えること?」
「はい。名はアナベル。剣舞の踊り子だったようです。デュナン公爵がパーティーの余興を頼んでいたようで、その時に寵姫にならないかと誘われたとのこと……」
「……。面白くありませんわね」
イレインは睨むように窓の外を見る。
彼女の心とは裏腹に、良い天気だった。
「――旅芸人の一座にいたようで、そこまでしか調べられませんでした。ああ、ですが……その旅芸人は、クレマンが率いていたようです」
「クレマン? ああ、あの……。へえ、どんな顔をして戻って来ていたのかしらね?」
「ミシェルの姿はありませんでした」
「ミシェル?」
初めて聞く名だとばかりに首を傾げるイレインに、メイドはミシェルのことを説明した。
そこでようやくミシェルのことを思い出したのか、「ああ」と声を出す。
「いましたわね、そんな人。すっかり忘れていましたわ」
クレマンの子を宿し、幸せの絶頂にいた女性。その幸せそうに輝く笑顔が気に入らなかった。
だから、手を出したのだ。
不幸になれ、と呪いながら。
そんな存在を思い出して、イレインは肩をすくめた。
「彼女のことはもうどうでもいいもの。それより、問題はその『アナベル』という女性ですわね。――紹介の儀までに、調べられるだけ調べてちょうだい」
「かしこまりました」
メイドは一礼して、イレインの部屋から去っていく。
イレインは鏡の前まで移動すると、そっと鏡に触れた。
「――私よりも美しい者はいらない――」
だって私は、誰よりも美しいのだから。
――冷たい声で呟くイレイン。その言葉を聞いた者はいなかった――……。
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