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1章:踊り子 アナベル
踊り子 アナベル 14-2
しおりを挟む「……ああ、その恰好では寒かったな」
抱きしめていた身体を離して、自身の上着をアナベルの肩にかけるエルヴィスに、アナベルが慌てたようにそれを返そうとする。しかし、エルヴィスは「君が風邪を引いたら大変だから」と頑なに拒んだ。
「……ありがとう」
「いや。……テントまで送ろう」
「……その前に、着替えるから……」
「それでは、後ろを向いていよう」
エルヴィスが後ろを向いたことに安堵したように息を吐いて、髪と身体を魔法で乾かしてから素早く着替えた。エルヴィスの上着を羽織って、改めて自分の身体と彼の身体の体格差を感じて驚く。
(ぶかぶかだわ……。そう言えば、男性に上着を貸してもらうなんてこと、なかったかも……)
「着替えたか?」
「え、あ、はい」
アナベルの返事に彼女のほうへ身体を向けて、手を差し伸べる。アナベルはその手を取って、歩き出す。ゆっくりと時間を掛けて歩くエルヴィスとアナベルの間には会話がなく。ただ、繋いだ手から体温が溶けあうような気がして、アナベルは赤くなった頬を隠すように俯いた。
ゆっくり歩いていても、すぐにアナベルのテントについた。アナベルはエルヴィスから借りた上着を脱いで、「ありがとうございました」と彼に返した。
エルヴィスはその上着を持ち、「また明日」と優しい声で言うと踵を返して去っていった。アナベルはその後ろ姿を見送りテントの中に入る。そして、簡易ベッドの上に横たわり、そっと唇をなぞった。
(どうしよう――……)
キスの感触を思い出して目を閉じる。もじもじと太ももを擦り合わせて、声にならない叫び声を上げた。
(触れるだけで、あんなに気持ちが高鳴るなんて――……!)
ばふっと枕に顔を埋めるように押し付けて、ゆっくりと息を吐いた。手や頬、額にキスをされたことはあるが唇にされたのは初めてだった。触れるだけのキスだけでもこんなに心臓がドキドキと早鐘を打つのに、これ以上先に進んでしまったらどうなるのだろう? とアナベルは想像して顔を真っ赤にさせた。
明日も早いというのに、キスの感触を思い出しては身じろぐアナベル。
書物や、踊り子仲間に聞いたことが脳裏によぎる。そのたびに思考が停止して、意味もなく頭を左右に振ったり口元を手で覆ったりしていた。
(キスにも種類があるって言っていたっけ……)
触れるだけのキスに、舌を絡め合うというキス。アナベルが知っているのはこのふたつだ。舌を絡め合うキスのほうは経験がないが、話に聞いたり読んでいた小説の中に出てきていた。
(どんな感じなんだろう……)
そんなことを考えていたアナベルに、睡魔は中々訪れてくれなかった。
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