上 下
17 / 29
秋のごちそう

松茸 3話

しおりを挟む
 ピーピーと炊飯器が鳴る。どうやら炊きあがったようだ。

 急いでしゃもじを用意し、軽く水に濡らしてから炊飯器の蓋を開けると、ぶわっと勢いよく湯気が立ちのぼる。

 そして、それに混じった松茸の芳醇ほうじゅんな香り。

「うーん、良い香り。美味しそうに炊けたねぇ」

 ざくざくとしゃもじで十字に切り、素早くかき混ぜる。たっぷり松茸をいれたので、ご飯全体に松茸の旨味がしみ込んでいるだろう。

 炊飯器の蓋を閉じると、くぅ、と腹の虫が鳴いた。

「……ちょっと早いけど、食べちゃいましょうか」

 いそいそと茶碗を持ち、最初にいさむの茶碗にご飯を盛る。

「あなた、今年も秋の恵みをいただきましたよ」

 そっと遺影のそばに茶碗を置き、手を合わせた。

「……あなたも、よく採って来てくれましたねぇ」

 しみじみと昔を懐かしむようにつぶやくと、恵子けいこは自身の分も茶碗に盛った。

「……そういえば、昨日つけたお刺身があったわねぇ」

 サーモンをポン酢で漬けていたことを思い出し、それも一緒に食べようと冷蔵庫から取り出す。

 お皿に並べ、インスタントの味噌汁を用意して椅子に座り、「いただきます」と両手を合わせて箸を手に取る。

 まずは松茸ご飯を一口。

「うーん。美味しくできた」

 お米の硬さも味も自分好みにできたことに、恵子はふふっと微笑む。少々のもち米を入れているので、少しもっちりとした食感が混ざっている。シャキシ
ャキとした松茸の食感も良い。

 ポン酢に漬けたサーモンも口に運ぶ。

「ポン酢漬けはさっぱりしていて良いわねぇ。大葉も入れて正解だったわぁ」

 ちなみにポン酢漬けはマグロを漬けても美味しい。

 秋になったとはいえ、まだまだ暑い。ゆっくりと息を吐いて窓の外へ視線を向けた。

「……栗拾いにも行かないとねぇ」

 美咲みさき芽衣めいを誘ってみようかと考えながら、もぐもぐと食事を進める。

 日中だけ暑く、朝夕はだいぶ涼しくなってきた。

「春もだけど、秋も着るものに悩むのよねぇ」

 ぽつりとつぶやいてから、味噌汁に口をつける。やっぱり美味しい、とぼんやり考えながら、ふと周りを見渡す。

「……最近は美咲ちゃんと芽衣ちゃんが一緒に食べてくれたから、このテーブルも広く見えるわねぇ」

 勇と子どもたちがいたときは、狭いくらいだったのにと眉を下げた。

「……まぁ、ひとりは気楽なのだけど」

 自分のことだけをすれば良いから。恵子はぱくぱくと松茸ご飯を食べ進め――一膳食べ終え、少し悩んだが、お代わりをすることに。

「そうそう、確か……」

 ブラックペッパーを取り出して、松茸ご飯の上にかける。この食べ方は娘が教えてくれたものだ。

「あら、これはこれで合うわね……!」

 ピリッとした辛味がアクセントになり、とても美味しい。

「うーん、あの子はいったいどこでこういうことを覚えるのかしら……?」

 料理教室にでも通っているのだろうか、と首を捻りながらも、恵子はその日の夕食を美味しく食べ終えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。 その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。 ※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。 コラボ作品はコチラとなっております。 【政治家の嫁は秘書様】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】  https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ 【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376  【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283

処理中です...